第57話 王との戦い3
「さあ、降参しろ! 竜司!」
とうとう竜司を追いつめたと俺は少し興奮ぎみだったことだろう。
「しょうがないな、調子に乗りすぎた兄さんにお仕置きだ」
そう言う竜司のギラギラと光る両目にただならぬ狂気を感じた。
どうしてもそこに恐れを感じてしまう。
「ふざけるな!」
叫んでその恐れを払拭しようとしたが、無駄だった。
「ところで兄さん、覚えてるかな?」
「なんだ?」
「兄さんがなんで鏡で自分の姿を見れなくなったか? そのきっかけさ」
「……」
俺は思い出せないでいた。
その事を極力考えないようにしていた。
「その調子だと覚えてないみたいだね。
いや、思い出せないのか。
無理もない」
「それがどうした!」
アリアが怒鳴るが、竜司は完全に無視した。
「なんで、思い出せないか分かるかい?
それだけショックなことだからだ。
つまり兄さんは見たんだよ、
僕がパパとママを殺すのを」
ドクン。
心臓が深く鳴り響いてそれきり動かなくなりそうだ。
俺は父親と母親が、血を撒き散らして肉塊となるところを確かに目撃した。
そして、凄惨な光景の中に血まみれになった竜司の姿を確かに俺は見た。
その恐ろしさのゆえに俺は忘れていた。
あれは地獄だった。
あの地獄を俺の記憶の中にとどめておけるほど、俺は強くなかったのだ。
だが、今の竜司の言葉で、思い出してしまった。
「うわああああああああ!!」
俺は叫んでいた。
よくわからず叫んでいた。
気がつけば銀の蛇はコントロールを失い、竜司の首から外れていた。
それどころか、俺とアリアを結びつけることすらできなくなり、剣の柄に戻っていく。
アリアはまた頭痛に苛まれているのか、頭に手を当てている。
竜司がゆっくりと俺のほうに近づいてくるが、俺はどういうわけか叫んでいた。
声がでなくなっても叫び続けていた。叫ぶしかできなかった。叫び声が口から弾き出てくるような感覚。
「ああ、兄さんが気がふれてしまったか。
無理もないけどね。
しかし、公式戦とはいえ、観客にもいくらか死人や重傷者が出てそうだし、また仕切り直しかな。じゃあ、またね」
全て自分がやったことであるにも関わらず、他人事のようにして弟はどこかに去っていく。
あとには地獄のような光景が残された。
そして、俺の意識も薄れていった。
この日、生徒と教職員あわせて15人が死亡、100人以上が病院に運ばれた。
だが、あいつが逮捕されたという話は聞かなかった。
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