第52話 別れとはじまり
「私たち、お互いかなりすれ違っていましたわ。
あなたが昔、告白してくださったときは、あなたは真心から私に想いを告げてくださった。
でも、今回は違うのですわよね?」
「それは……」
鬼灯の発言を受けて、俺は次の言葉がスムーズに出てこない。
鬼灯は悲しげな表情で続ける。
「私のことを恨んでいたのがあなたの本音。
どういうおつもりで私に告白されたのか、この際それは訊かないことに致しますわ。
私は恨まれても仕方のないことをしてしまったのですから。
でも、このまま付き合い続けることはできませんわ。
別れてよく考えてくださいまし。
私もよく考えますわ。
その上でお互いの想いが通じればそのときはまた恋人になりましょう」
俺は何も言い返せなかった。
そして、アリアがしばらくして目を覚ますと俺たちは鬼灯家を後にした。
その帰り道。すでに日は沈んでいた。
街灯を道しるべに暗い夜道を行く。
「どうした? 竜一?」
俺がぼんやりと歩いているから、アリアが心配してきた。
「なんでもない」
「私が寝てる間になにかあっただろう?」
「まあな、鬼灯と別れた」
「そ、そうなのか……」
それを聞くと、アリアはかなりばつが悪そうだ。
「気を遣わなくていい、元々復讐のために利用するというか、あれ自体が復讐だったわけだし」
アリアはしばらく無言のまま、俺についてくる。だが、唐突に口を開く。
「お前、自分の気持ちにもっと素直になってもいいのではないか?」
「なんだよそれ?」
アリアがこういったことを言うことは非常に稀であるため、俺はかなり驚いた。
「私は思うのだが、お前は復讐に関してはとても素直だ。だが、それ以外の感情はまるでないかのように振る舞っている。それが妙に不自然だと感じる」
知ったようなことを言ってくるアリアに俺は苛立ちが隠せない。
「お前に俺のなにが分かる?
俺にとっては復讐が全てだ。
お前にどうこう言われる筋合いはない」
「確かにそうかもしれないが、お前は復讐のために想い人を作らないといけないのだろう?
私は恋人ができたことがないから分からないが、自分の気持ちに素直にならないと、本当に誰が好きなのか分かるわけがないと思ってな」
恋をしたことがないと言いながら、その上から目線の発言が癪にさわる。
俺は返事もせず早歩きで帰った。
その後ろをアリアは黙ってついてきた。
家につくと鏡美が玄関で出迎えてくれる。
「お帰りー!。今日は鬼灯先輩とデートだったんだよね?! 楽しかった?」
相変わらずのハイテンションだが、俺はこれに付き合う余裕もなかった。
なにか疲れていた。
心の中にぽっかり穴の開いたような。
胸をしめつけられるような。
そんな感覚。
「どったの? お兄ちゃん、いつもと違う?」
さすがの鏡美も俺の異常な態度に気づいたらしいが、なんと答えたらいいのか困っていた。
とりあえず鏡美を振り払って自室に戻ろうとしたときだ。
「ひょっとして別れたの?」
鏡美の一言に、俺は一瞬固まった。
だが、すぐにアリアを連れて部屋に逃げ込もうとする。
しかし、鏡美は猛スピードで追いかけてくると、ドアが閉まる前に、一緒に部屋に入ってきた。
俺は鏡美のほうを見たが、なにも言わなかった。そして、ベッドに座る。アリアは近くの床に三角座りだ。
「そっかぁ、別れちゃったんだ……」
そう言うと鏡美は唐突に俺の方に跳びかかってきた。
そして、俺を押し倒す。
「な、なにをす……!」
言い終わらないうちに鏡美の唇が俺の口を上からふさいでいた。




