第51話 すれ違っていた心
弟との戦いがすぐそこまで迫っている。
しかも鬼灯を巡ってという意外な展開だ。
こないだ、鬼灯と話したことで、俺は鬼灯のことを勘違いしていたらしいということが分かった。
全てを手に入れることのできる竜司の誘いを断った鬼灯の心のうちは知っておく必要があるだろう。
他に好きな人がいて断ったようだが、それはどういうことなのだろうか?
まさか、俺とか?
そんなことあるわけもない。
俺が無能であったことは変わりなく、いくら俺にかけたひどい言葉が兄の副会長や周囲の圧力によるものであっても、俺に好意を持っていたとは考えにくい。
まだ幼い頃は仲がよかったとしても。
竜司たちが帰ってからも、俺たちはしばらく鬼灯の部屋で過ごしていた。
アリアは一度起きたがまた寝てしまった。
彼女の傷はこの短時間に傷はほぼ治ってしまっていた。さすがの回復力だ。
そういうわけでまた鬼灯と二人きりとなった。
この際だから訊いてみたほうがいいだろう。
「なんで、弟の告白を断ったんだ?
あいつと一緒にいればなにも困ることはなかった。
気に入られてたから風紀委員長にだってなれたんだろ?」
すると、鬼灯は顔をこわばらせる。
「あの方は恐ろしい方ですわ。
お兄様と同じく。私はあの方の側で何かをできるようなそんな方ではないと思い、断りましたの」
「なるほど。
じゃあ、他に好きな人がいるからというのは口実なのか?」
「それは……」
鬼灯はそこで顔を赤らめる。
「実際にいたのか?」
彼女は頬を染めながらも意を決したように俺の目を見て、はっきりと言った。
「竜一さん、あなたですわ」
「えっ……!」
俺は信じられず言葉を失う。ありえないだろ!? 結界の力がない俺なんて好かれる要素はどこにもないはずだ。心臓がきゅっとなるのを感じた。
「俺のどこがよくて……」
「昔の竜一さんは利発で、かっこよかったですし、そのあと、いじめにあっても負けずに生きていらっしゃる姿を私は尊敬申し上げておりました」
このお嬢様から信じられないような発言が飛び出し、これは夢に違いないとさえ思うほどだった。
「実際それは間違っていませんでした。私がB組に入ったとき自分が初めていじめにあって、あなたの苦しみのわずかでも受けたときに、あなたは本当に耐えていらしたのだと痛感しましたわ。
あなたの助けがなかったら今頃発狂していたかもしれませんわ」
なんだかもうよくわからなくなってきていた。
これまで敵だと思い込んで恨んできたやつが、実はすごくいいやつだったということが唐突にカミングアウトされると、これまでの俺の恨みはどう処理されるべきなのだろうか。
今となっては意味もない質問を俺はする。
「俺が告白したとき、俺のことを好きだったのか? 周りの目がなかったら付き合ってくれたのか?」
鬼灯は目こそ合わせなかったが、確かにこくりと頷いた。
俺は茫然自失になった。
しばらく、俺が黙っていると鬼灯が話しはじめる。
「私、いろいろ考えたのですけれど……」
「なんだよ?」
「私たち、別れましょう」




