第44話 不条理
俺は気づけば立ち上がっていた。
なぜか足が震えている。
全身の毛が逆立つような感覚。
「簡単に言えば、君のおかげで鏡美も私も、なにより君の弟くんも強い力を得たということだ」
冗談じゃない。
そんなバカなことがあるはずがない。
「そんな証拠がどこにあるんだ?!」
俺は興奮のあまり、テーブルを叩いた。
「竜一!」
そんな俺をアリアが心配そうに見つめる。
叔父は続ける。
「証拠はない。
ただ、それで多くのことの説明がつくということだ。
結界の力は本来超常の力なのだ。
今では当たり前になってはいるがね。
この結界という名の異能の正体はいまだ明らかになっておらず、世界中の学者がさまざまな仮説を立てている。
しかし、君という存在を研究しているうちに私はある考えに至った。
1人の人物を中心に強い力をもった結界使用者が集まるのは、その1人の人物が周囲の人間に力を与えていると」
俺は結論が早く知りたくていらいらした。
「それはさっきの話だろ? その1人の人物が俺なんだろ?」
「ここで大切なのは、その1人の人物がどうやってエネルギーを供給しているかだよ」
「あっ……!」
そうか、そういうことか。
「もう分かっただろう、竜一。
君は異世界からここにエネルギーを引っ張っている。
それを我々に供給しているんだ。
私の考えでは、我々自身も異世界からエネルギーを得ているが、おそらく君が異世界からこちらに持ってくるエネルギーははるかに膨大なものなのだろう」
ん? それだと説明がつかないことがあるじゃないか。
「ちょっと待ってくれ。
その話が仮に事実だとしたら、なんで俺は能力が使えないままだったんだ?!
おかしいじゃないか?!
むしろ俺は強いのが普通じゃないのか?!」
叔父を睨みつける。
別に叔父が憎いというわけではもちろんない。
「これも確証のないことだが、私の思うところを述べてもいいかな?」
「ああ」
「君は井戸の水を汲み上げるが、それをうまく使うことができない。
人に渡すだけ。
他のものは水を汲み上げるのは苦手だが、それを料理やら洗濯やら色々な用途に利用できる。
そういうことじゃないかと思ってる」
俺は全身に怒りがみなぎるのを感じた。
そして、行き場をなくした怒りが口から怒鳴り声として放出されていく。
「ふざけんな、ふざけんな、ふざけんなふざけんなふざけんなっ!!
なんなんだよ、それ?!
結局俺は無能ってことじゃねえか!!
おい、てめえ!!」
「よせ、竜一!」
叔父の胸ぐらを掴みにいこうとする俺をアリアがとめる。
「放せ、おい! 放せよ!!」
「叔父どのに当たっても仕方のないことだろう?」
「そんな理性的でいられるか、こっちはよう!!」
しまいには止めに入ったアリアにまで当たり散らしそうになる。
暴走する憤りは絶えることがなかった。
俺は今の今まで自分をいたぶる連中を得させるために生きてきたのに、その見返りはいたぶられることだったってのか?!
むしろ、そいつらは俺に礼をして当然だろうが!
恩を仇で返されてきたのか!
このくそったれが!
このままでこのままで済ませるか!
ダメだ、恨み、憎しみ、苛立ちが止められない。
こんな不条理が通ってはならない!
俺の考えこそが理にかなっているのだ!
「邪魔だ!!!」
そのとき、俺を抑えていたアリアが吹き飛んだ。
力が発動した?!
俺は叔父を引き寄せようとすると、実際叔父はテーブルの上を舞って、俺の手のとどくところまで飛んできた。
これだ! この感覚!
「竜一! 今のが魔王とやらにもらった力か?」
「そうだ! これでこれまで俺になめた真似してくれたくそったれどもに思い知らせることができる!」
そう言いながら叔父の首を少しずつ絞めていく。
叔父は苦しげに話しはじめる。
「落ち着け、竜一……! その力、ひょっとしたら使いこなせるようになるかもしれん……!」
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