第43話 疑問と仮説
俺は結局、アリアと和解した。
俺たち2人はやっていることがお粗末だ。
互いに醜いところを見せあって、正直これでまだ、信頼関係が構築できるものなのだろうか。
でも、逆に汚い部分を見せあったからこそ、信じられる部分もあるのかもしれない。
強制的とはいえ、いつも見えるところに、声の聞こえるところに、自分以外の存在がいる、というのはありがたいことなのかもしれない。
俺は手鏡を覗きこんだ。
そこには何も見えない。
俺は鏡にうつる自分の姿が視認できないのだ。
医者には精神的なものと言われた。
俺はどんな表情をしているのだろうか。
それすら分からない。
自分の目に見えないものになんの信頼がおけるだろうか。
しばらくして、俺とアリアは叔父に呼ばれ、研究所に行った。
異世界に行ったときのことで訊きたいことがあるらしい。
先日の鏡美とのリターンマッチの直後にもいろいろと尋ねられた、が俺がまともな返答ができる心理状態ではなかった。
そのために今日に延期になったのだった。
研究所につくと、奥にある叔父の研究室に通された。
叔父が話を始めた。
「じゃあ、早速本題に入ろうか。
まずは訊きたいんだが、
異世界にどうやって行ったのかね?」
その他、根掘り葉掘り訊かれる。
異世界がどういうところだったか。
魔王とあったことなどほとんど全て話した。
魔王と契約して得た力についてもだ。
今それが使えなくなっていることも。
にしてもいつも以上にテンションが高く、眼鏡の奥の瞳がギラギラ具合も普段の5割増しである。
「こないだは正直驚いたよ。
竜一がいなくなったというのは鏡美から聞いていたんだが、異世界に行った上に、結界以外の異能まで使えるようになって帰ってくるとはね。
そう言えば、帰りも魔王が送ってくれたのか?」
俺は首を横に振った。
「魔王からもらった力で、結界を発動させて帰ってきたんだ」
「なに?!」
たいていのことは驚かず興味深そうに聞く叔父が、かなり驚いているのが分かった。
「異能で異能を発動させるというのは、今はあまり難解すぎるから置いておく。
問題はお前の結界の能力は、アリアくんを召喚する能力ではないかもしれないということだな」
ふざけた話し方をするのがデフォルトな叔父が、ずいぶん神妙そうな顔をするものだから違和感が半端じゃなかった。
それで俺が思っている以上に深刻な話なのかもしれないと思い始めた。
「アリアを召喚する能力でないとしたらどうなるんだ?」
俺が前のめりになって質問をすると、叔父は咳払いをして顎をさすりながら話を続けた。
「まず、能力が召喚と世界間の転移の二種類扱えるというのは考えにくい。 脳が1つであればたとえ多重人格者であっても、能力は1つだという研究結果が出ている。だとすると……」
「だとすると?」
「能力がアリアくんの召喚と世界間の転移もできる能力だということ。その場合、世界間をつなぐ能力であることが考えられる」
「世界間をつなぐ能力?」
なんか一気にスケールのでかい話になってきたな。
「そのとおり。
そうなら、私が昔からずっと考えていた仮説に一致する。
お前をこれまで徹底して研究してきた甲斐があったというものだ」
「なんだよ、仮説って?」
「私は昔から引っ掛かっていた。
わが鳥羽家は異常なのだ。
いや、さらに言えば君の周りだよ。
私もそうだが、君の周りを取り巻く環境はAランク以上の結界使用者がやたらと多いんだ。
それが統計的に見ても異常でね。
結界学園に入れられた生徒も君と接点のあったものがとにかく多い。
それで私はこの状況は君に原因があるんじゃないかと考えた」
「な、なんだよそれ?!」




