表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/99

第42話 もう一度

 俺とアリアは着地した。

 上では龍が暴れ狂っている。


「降参しろよ、鏡美!!」


 俺の声は聴こえているはずだが、変身を解く様子はない。

 ‎すでに怪我をしているのに、頭に血がのぼっているらしい。

 ‎バカなやつだ。

 龍が上空からこちら目がけて猛スピードで降下してくる。

 ‎大口を開けて、光を吐き出した。


 ‎性懲りもなくと思ったそのとき。

 以前、これの直撃を受けたときのことを思い出した。

 正確にはアリアの蛇星鏡の上から受けたわけだが。

 そんなことに思いを巡らせていたせいで対応が遅れ、太陽のような光球が目前に迫っていた。

 ‎直撃し、体が焼けるように熱い。

 俺はたまらずに転げまわった。

 ‎しばらく続く苦痛は徐々におさまってくる。

 ‎意識がなくなることはなかったが、何かがおかしい。

 ‎自分の中に、なんらかの変化があった。

 ‎だが、それがなんなのかはっきりしない。

 ‎ようやく起き上がって、龍のほうに向き直る。


 ‎再び龍が口から光の玉を吐き出してくる。

 ‎今の俺ならば、これくらいの攻撃はなんとでも防げると心では思うのだが、どうにもならない。

 ‎体が震える。

 ‎先ほどの直撃の恐怖が俺を襲う。

 ‎再び光のかたまりが俺に直撃する。


 今度こそ俺は意識を失った。



「ダメだ……」


 自分の部屋で。

 思わず声に出してしまった。

 鏡美との戦闘が過ぎて3日になる。

 あれ以来契約して得た力が使えなくなってしまったのだ。

 

 鏡美の攻撃をまともに食らったせいだろう。

 そのせいで使えなくなった。

 魔王との契約とはつまり信じることが力となるということだ。

 できると信じることができればなんでもできる。

 しかし、疑いをはさめば途端になにもできなくなる。

 あの鏡美の攻撃による恐怖こそが、防げるだけの力が出なければどうしようという疑念を生じさせ、不信につながった。


 とても強力な力であると同時にあまりにもろい。

 結界の能力さえ凌ぐほどの異能でありながら、結界の能力よりはるかに不安定だ。

 これを使いこなすことができるだけの精神を、俺は鍛えることができるのだろうか。

 そのためにはどうしたらいいのだろうか。

 自分には力がある。

 魔王を信じるとは魔王が俺に与えた力を信じることだ。

 それは自分を信じること。

 自分ができると信じること。 

 それがどれだけ俺にとって難しいことなのか考えるだけで、気が狂いそうになってくる。

 俺には微塵の自己肯定感もないのだから。

 俺は深くため息をつく。


「どうした? 力がなくなったことで落胆しているのか」


 隣で三角座りしているアリアがうっとうしい質問をしてくるが、怒る気力すらもうない。

 俺が黙っていると、アリアはこちらを向かず1人話しはじめる。


「お前の今の落胆がどれほどのものなのかは私が分かる範疇をこえている。

 だが、得たものを失うことは最初からないよりもきついことだということは想像できる。

 正直なところ、お前が魔王にすがる姿など見たくない。

 力を得てからお前に食らわされた一撃の痛みも忘れたわけでもない。

 だが、私も大して変わらない。

 魔王を倒す使命のためなら、お前を殺してもいいとさえ考え、首を絞めるところまでやった。  

 私が魔王を倒す使命を果たすことに執着することと、お前が力を得ることに執着することは同じなのではないだろうか。

 だから」


 アリアはこちらを見た。

 俺を空色の瞳で見つめて言葉を続けた。


 「私ともう一度やり直さないか?」




 

 




 

 

  




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ