第41話 リターンマッチ
「やっと帰ってきたと思ったら、いきなりリベンジとかわけわかんないよ、お兄ちゃん! どれだけ心配したと思ってるの?!」
「知ったことか、そんなもん!」
睨みあう鏡美と俺。
「ちょっと! 私もおりましてよ!
私をぬきにして、帰ってくるなりお二人の世界に入ってしまうなんてあんまりですわ!
私がどれだけ心配したと思っていらっしゃりますの?!」
なにかおかしいが、鬼灯の目にはそう映ったらしい。
俺は鬼灯の手を引っ張って抱きしめると間髪入れず、キスをした。
時間が止まった。
どれくらい時間がたったかよく分からないが、俺は唇を離した。
しばしの沈黙ののち。
「竜一さん、な、ななな、なにを?!」
「お兄ちゃん、私の目の前でなんてことを!!」
二人が同時に静寂を破った。
鬼灯はその後、リンゴのように赤い頬に両手を当てて、どこか上の空だ。
一方、鏡美はキレている。
「リベンジしたいってさっき言ってたよね、お兄ちゃん!
お望みどーり、受けてあげるよ!
こないだみたいにズッタボロのボッコボコにしてあげるからね!
それくらいしないと苛立ちが収まんないよ!」
そして、いつものごとく研究所の模擬戦の部屋に。
いつ見てもここの真っ白な天井、壁、床は見慣れない。
今の俺にはどこで戦うのか、どいつと戦うのか、なんて関係ない。
ただ、叩き潰すだけだ。
俺とアリアは鏡美が来るのを待っていた。
アリアは伏せ目がちで、いつも以上に沈んだ表情をしている。
「なんでそんな暗いんだ、アリア?」
「魔王と相対したにも関わらず、まともに戦うこともなく、さらには、お前は魔王の傘下に加わった。
それで明るい顔なんてできるものか」
魔王の傘下に加わったという言葉が妙に俺を苛立たせた。
気がつけば俺はアリアの顎を掴んでいた。
「俺が魔王の傘下だと! お前、なめてんのか!!」
アリアの顔を床に叩きつける。
「ぐぅ!」
「ちっ、せいぜい足手まといにならないようにしろよ!」
戦う前からアドレナリンが噴出するのを体の奥で感じた。
そうこうしているうちに、鏡美がやってきていた。
「お兄ちゃん、やっぱりなんかおかしいよ。アリアさんにそんなことしたり」
鏡美、このバカ女の肩を持つっていうのか。それがやたらと癪に触った。
「お前には関係ねえだろうが!!!」
「きゃっ!」
俺の怒鳴り声で鏡美が数メートル宙を舞った。
「これこれ、まだ試合は始まっておらんぞ、竜一」
スピーカーから叔父の声が聞こえた。
我ながら少し興奮しすぎているらしい。
ここはこらえるところだ。
自分に言い聞かせた。
ほどなくして。
「試合開始!!」
すぐさま、鏡の鱗をもった龍に変身する鏡美。
だが、もう何も怖くない。
俺はアリアの手を握ると高くジャンプした。
そして、龍の胴体につかまる。
次に鱗を1枚1枚強引に剥ぎ取る。
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!」
龍の咆哮に鼓膜が破れそうだが、俺は気にせず鱗をむしりとる。
龍の顔が俺の方に突っ込んでくる。
そして、口を開けるとまばゆい光を吐き出そうとする。
同時に俺は剥ぎ取った何枚もの鏡の鱗を宙に浮かせて集めると、目の前に壁のように配置させ角度を調整する。
龍の放った光はすべて鱗の壁に反射され、先ほど俺が鱗をむしりとった、傷のあるところに当たる。
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!」
龍は自分の体を焼いて悲鳴をあげるのだった。




