第40話 帰還
「アリア、いつまで寝てるんだ? 帰るぞ?」
さっき俺の怒号でふきとんだアリアが体を起こす。
「帰る、だと? どこに?」
「俺が元いた世界だ。お前からしたら異世界にあたるわけだが」
「どうやって帰るというのだ? それに魔王を倒すことこそ我が使命。それを捨て置いて帰る場所などない」
「だまれ!!!」
俺の声を受けて、アリアは途端に膝をついた。
両手も床につけて上からのしかかってくる力に対抗している。
飽きたのでアリアを解放してやる。
「竜一、お前の得た力とはいったい?」
「お前に話してやる必要はない」
銀の蛇を軽く引っ張るとアリアは足元までとんできた。
「では、帰ろう」
すると魔王が俺に話しかけてくる。
「余が与えた力を有効に使うのだ、わが分身よ。それでも事がうまく成さぬなら自らの血を用いよ」
「血か、わかった」
俺は帰るために自分で結界を発動させた。
足元が赤く光りだす。
風景が一瞬にして俺の部屋に変わる。
帰ってくると銀の蛇が剣の中におさまった。
鏡美は部屋にはいない。
唐突にアリアが胸ぐらを掴んでくる。
「どうして魔王を目の前にしながら……!
なぜだ!! あちらの世界に私を戻せ!」
俺はアリアを投げつけた。
「ぐわあああ!」
アリアは俺の結界にぶつかり、赤い火花を散らしながら悲鳴をあげる。
「お前、今の俺も倒せなくて魔王倒せるなんて本気で思っているのか?! この様ではとても無理だろう」
「竜一……」
アリアは口ごもる。
「お前は大人しくしていろ!
魔王と契約して得た力だけで復讐には十分だ!
俺は復讐さえ果たせればいい。
そういえば、お前を使命から解き放つことになっていたな。
だったら復讐のあと、あちらの世界に行って魔王を倒せばいい」
「竜一、お前、やはり人が変わったようだぞ。確かに強い力を得たのは間違いなさそうだが。お前の力とはいったい」
「お前が心配することはなにもない。俺の力にしてもお前が知る必要のないものだ」
そのとき、ドタドタとした足音が階下からこちらに迫ってきた。
そして、その足音の主が部屋のドアを派手に開ける。
「お兄ちゃん!」
「竜一さん!」
鏡美と鬼灯だ。
「帰ってきたんだね、大丈夫だった?」
「お帰りなさいまし、ご無事なようでなによりですわ!」
俺は鬼灯には目もくれず、いきなり鏡美の顔をひっつかんだ。
「こないだのリベンジを今からしたい。お前を叩き潰す」
「お兄ちゃん、痛いよ。どうしたの? なんかいつもと違う」
これまで見たことのない怯えたような表情の鏡美。
「なにも違わない、むしろこれまでが俺じゃなかった。今のが本当の俺だ!」




