表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/99

第4話 お宝はトラブルメーカー

 終わった。

 ベッドの下を覗きこんだ鏡美の後ろ姿を見ながら俺は絶望していた。


「お、なんかあるね~。なんかあるね~」


 膝をついて右手をベッド下に差し入れて、本格的な調査の構えだ。


「何が出てくるのかな~。ん?」


 鏡美はベッドの下をまさぐっている。

 もうどうにもならない。だが。


「ちょっと~お兄ちゃん? これなに?」


 そういって鏡美がベッドの下から取り出したのは、アリアの甲冑の一部だ。

 ‎腕のパーツらしい。


「コスプレの衣装? にしてもよくできてる~。すごっ~。本物みた~い。ってか重いよこれ。いつからコスプレに目覚めたの?」


「あ、それは」


「他のパーツも下に詰め込んであるみたいだね。

 ってかお兄ちゃんが使うには小さい気もするけどなあ~。

 ってかひょっとしてこれって……!」


 鏡美は空いた口に手のひらをあててわざとらしく驚いたポーズをとる。

 ‎そして、ニンマリとした笑顔でこちらを見る。

 なにかろくでもない勘違いをはじめたようだ。


「お兄ちゃん、これを私に着せようとか考えてたでしょ! 

 ヤバいヤバいヤバ~い! 

 そういう趣味あったんだ~! 

 キャハハハハハハ!」


 俺を指差して爆笑する。

 ‎いつもなら数日にわたっていじられ続けるような勘違い。

 だが、今はむしろラッキーと言える。


「そ、そんなじゃねぇよ!」

「またまた~。

 否定しなくてもいいよ。

 お兄ちゃんの新しい一面が見れて、私は嬉しいよ。

 でも、これは私着たくないなあ~。

 暑苦しそうだし、重いんだもん。

 私に着せたいなら、もっとかわいらしい服にしてよね~」

 

 取り出した甲冑のパーツを出しっぱなしにして、そそくさとドアのほうへ。


「じゃあ、おやすみなさい~!」


 そのまま今度はほんとに廊下に出ていった。

 ‎ドアくらい閉めていけよと思うが、とりあえず出ていってくれたことにホッとして、自分で閉めようとドアのほうに向かったときだった。


「うっ!」


 ベッドの下から苦しげな声が響いた。

 ‎しまった、おそらくベッドの下の奥のほうに隠れていたアリアと俺の距離が2メートル以上開いてしまったのだろう。


 すると、ドタドタと廊下のほうから足音が迫ってきて。

 ‎

「どったの、お兄ちゃん?! 今、大きな声が聞こえたけど」


 ‎ひょこっと戸口の左側から頭だけ覗かせる鏡美。


「あ、いや大丈夫だ。ちょっと足が急につっただけだから」


 俺は片足で立ってそれらしく仕草をする。


「なーんだ、人騒がせでかまってちゃんだな~」


 鏡美はまた戸の左側に消えた。

 もうちょっと心配しろよとも思ったが、胸を撫で下ろした。

 

 鏡美が自室の戸を閉める音が聞こえて静かになってから、ゆっくりとアリアがベッドの下から出てくる。

 ‎出てきた彼女は、上半身に黒いタンクトップのような服を着ていた。

 ‎甲冑の下がそうなっていたらしい。

 ‎こうやってみると胸はけっこう大きいようだ。

 ‎アリアが十分俺に近づいたのを確認すると、部屋の戸を閉めた。


「さっきはごめん。しかし、鎧脱いだくらいでよく誤魔化せたなあ」


「それはだな……」

 

 アリアは何か説明しかけたが黙った。

 この話が聞けるのは次の日のことになる。

 そのあとアリアは反応せず、外した甲冑を無言で再び身につけ始めていた。

 ‎だが、なぜかうつむき気味で俺と目を合わせてくれない。


「どうした?」


 なにか様子のおかしいアリアのほうに一歩近づこうとすると、アリアは一歩後ろにひいた。

 ‎そして、身を守るように自分で自分を抱きしめる。

 ‎金色の前髪に少し隠れた顔は先ほどまでより赤いような。


「ん? どうしたんだ?」


 俺が訊ねると。


「……るな……」


「え、よく聞こえないよ」


「近寄るな!」


 急に大きな声をあげるものだから、鏡美に聞こえたかもとドキッとしたが、運良くそれはなかったようだ。

 ただ、‎目の前の女騎士様は涙をうるませながら、眉毛をつりあげ、怒りのまなざしでこちらを見ている。

 ‎そして、顔を赤らめながら訊ねる。


「なんだ、あれは?!」


「あれって?」


「ベッドの下のあれはなんだと訊いているのだ!」


「ああ、あれは、その、なんというか……」


 そこであれとはお宝だと気づく。 


「あんな卑猥なものを私に見せたかったのか?! 

 お前はなにを考えている?!」


「誤解だ、誤解」


 当然、そんな気はない。

 ただ、アリアを隠れさせたい一心で。


「近寄るなと言っているだろ! けがらわしい!」


 そう言ってアリアは後ろに跳びのく。

 あ、それはまずい!

 2メートル以上離れたら!

 とっさに俺はアリアとの距離を縮めようとする。

 が、そこで足元にあった甲冑に躓く。

 俺はアリアに倒れかかった。

 倒れまいと反射的に前方に突きだした手はアリアの胸の脹らみに触れる。

 これは大き……。

 頭全体に響く鈍痛とともに俺の意識はそこで途切れるのだった。


「申し訳ない。

 他に隠れてもらうところがなく、しかもあれの隠れ場所であることをすっかり忘れていたんだ!

 胸に触ったのも不可抗力だ!

 本当にすまない」


 意識が戻った俺は土下座して謝る。

 ‎こんなくだらないことで彼女との仲がこじれたら、俺の復讐はどうなる。

 ‎それに2メートルしか離れられない状態でこれが続くのは俺の神経がもたない。

 ‎とにかく赦してもらうしかない。

 今思えばクローゼットの中にでも隠れてもらえばよかったのだ。

 俺の判断ミス。

 しばしの沈黙のあと。


「私は疲れた。寝させてもらう。だが」

 

 そこで再び鞘ごと剣をぬくと、床につけた俺の頭の上に軽く置き。


「もし、私に必要以上に近づこうものなら、今度こそこれで脳天を叩き割る!」

 

 アリアの殺気を感じて、俺は身の毛のよだつのを感じた。

 ってかさっき叩き割るつもりだったよね。

 

 こうして、俺は秘蔵のお宝を処分する決意を固めたのだった。


 今後の復讐は夢想結界の力を競うものになる。

 致命的な弱点であるアリアの行動範囲が2メートル以内という事実は誰にも知られるわけにはいかない。

 

 どうすればアリアといつも一緒にいてもバレないだろうか。

 眠れない中、考え込んでいるとこれしかないという考えにたどり着く。

 告白だ。

 俺はアリアに告白する。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ