第33話 アリアの怒り
アリアは片手で俺の首を絞めはじめた。
そして、そのまま俺を上に引き上げる。
足が宙に浮いた。
声をあげたいが出ない。
目の前がすっと白くなってくる。
意識がなくなりかけたところで首から手が離される。
俺は咳き込みながら、床に力なく倒れこんだ。
「聞け! 竜一!
最初私はここに来たことを喜んでいるところもあった。
お前は偽りの愛の告白を最初の夜の明けた朝にしたのを覚えているだろう?」
咳き込みながら俺はうなずく。
「私は恋もしたことがなかった。
1人修行をさせられここまで来た。
だからお前からの愛の告白は嬉しかった。
あれでお前のことを好いたわけではないが、それで異性から愛の告白を受けられたことが嬉しかったのだ。
しかもお前は使命の手伝いをしたいとまで言ってくれた」
そこでアリアは言葉を切って、続けた。
「しかし、それも全ては私を復讐という目的に利用するためだった!!
これは完全な裏切りで私の心を傷つけた。
それでもまだお前の復讐したいという気持ちは本物だった!!
だから私は協力した。
どちらにせよ、他にやれることもなかったしな。
しかし、ここに来て復讐の気持ちまで薄れている。
しかも、鬼灯の気持ちをもてあそんでいる。
お前は鬼灯が大切なわけではなく、鏡美に負けたのがつらいから都合よく頼っているだけだ。
そして、私は普段はお前の側にいたらお荷物で、でも私がいなければ鬼灯との関係も何もかもうまくいかなくなるから、この世界に私を縛り付けたい。
それがお前の本音だろう?
どれだけ、私を虚仮にする気だ。
これまで多くの人間にひどい目に合わされてきた、それは分かる。
だが、その心の傷のためになんでも許されるわけではない!!」
俺は首を絞められたせいで、まだ何も発言できなかった。
「わがままなお前の命と、今もなお失われていく元いた世界の人々の命、それを比べてどちらが大切か考えるまでもあるまい。いや、そんなことじゃない!!
私を裏切り、利用するばかりのお前の隣になどもういたくないのだ!!」
そう言うとアリアはまた俺の首を絞めはじめた。
「だから! 死んでもらう」
そこでドアが開いた。
「さっきからなに、ケンカしてるの?
ってアリアさん?!
なにしてるの?!
お兄ちゃんから手を離して!」
アリアは俺から再び手を離した。
「私はいつまで経っても帰れない。
こいつにとって都合のいい存在としてここに居続けるわけにはいかないのだ。
使命がある」
「なにそれ? なにが使命よ!
アリアさん、あなたはお兄ちゃんに都合のいい存在として扱われるのが嫌だからそう言ってるだけ」
容赦のない鋭い指摘に、アリアが反論する。
「違う! そもそもお前も被害者ではないのか?
こいつのことをこれまでずっと守ってやった。
だが、こいつはお前にありがたいと思うどころか、お前のことを自分を惨めにした張本人だと主張する始末だ。
こいつはそういう奴なんだ。どうしようもない奴だ」
鏡美は俺をかばうように俺とアリアの間に割って入った。
「残念だけど、私はお兄ちゃんのそういうところ知ってるよ。
それを知っててそれでもお兄ちゃんのことを守りたいし、危ないことなんかしてほしくない」
俺はここでようやく声が出た。
「鏡美……」
鏡美は俺の方を向き直って言った。中学生とは思えない大人びた表情をしていた。
「お兄ちゃん、確かに私に守られているのはプライドが許さないかもしれない。
そんなお兄ちゃんを他の人は受け入れられない。
アリアさんは異世界に帰らないといけない。
アリアさんがいなくなって、お兄ちゃんの能力がなくなったら、鬼灯先輩はお兄ちゃんのことは愛せない。だけど」
今度はアリアを睨みつけて告げる鏡美。
「私は違う!
私はそんなお兄ちゃんを受け入れられる!
あなたがお兄ちゃんを殺そうとするなら、私があなたを殺すわ」




