第31話 対Sランク戦
鏡美が変身した龍は、素早く俺たちの周りをらせん状に取り囲んだ。
とぐろをまく龍が内部に形成したドームの中に、俺たちは閉じ込められる格好となった。うろこの1枚1枚が鏡のようなので、合わせ鏡のようになり無限に空間が広がっているようにも思えた。
「お兄ちゃんが本当に強くなったのか、今から自分の目で確かめたらいいよ」
閉ざされた空間で鏡美の声が反響した。
「来るぞ!」
アリアが髪を光らせて、蛇星鏡を形成する。
俺は蛇星鏡の中に入る。
見上げると龍の顔が真上にあった。
口が開いている。
その口のあたりが輝きだす。
まるで太陽のように俺たちを照らす。
「これは?! まずいぞ!」
光はマジックミラー状の蛇星鏡を一部すり抜けてくる。
「うわあああああ!!」
「ぐわあああああ!!」
俺とアリアはあまりの熱さに絶叫した。
だが、意識が遠のいていく中で、体に力が沸き上がるのを感じた。
アリアと俺をあの銀の蛇が結んでいる。
アリアは俺の手を取ると猛スピードで駆け出し、鏡美の放った光から脱出する。
俺を離れたところに避難させた後、飛び回って龍のうろこ数枚に銀の蛇を巻き付かせた。
アリアが飛び回ると、銀の蛇に巻き付かれたうろこがへし折れる。
龍の悲鳴が耳をつんざく。
すると、鏡のようなうろこが一斉に向きを変えた。
すべての鏡に龍の顔が映っていた。
瞬間、龍の口元がまた光を発する。
同時にアリアが鏡の球体をまとって、俺のもとに飛んできた。
うろこが無数の反射板になって光をこちらに収束させる。
アリアが盾となる。
先ほどの熱さを遥かにしのぐ感覚が全身を覆いつくし、目の前が真っ白になっていった。
そうして、俺たちは負けた。
ベッドの上で意識を取り戻した俺に鏡美は呆れたように言った。
「やっぱり弱いじゃん。それで無茶なことは考えちゃダメなんだよ」
何も言えなかった。
口を開いたらそれが嗚咽となってしまいそうだったから。
鏡美が部屋を出るまで俺は悔し涙をこらえた。
アリアが横にいるのも構わず、俺は泣いていた。
情けないのが分かっているが止まらない。
俺がここまで自分を惨めに思うのは、鏡美に守られてきたからだ。
だから、あいつを超えたかった。
だが、力に目覚めても圧倒的な差があった。
俺はあいつの言う通り弱かった。
「すまない、私の力不足だ」
隣のベッドに寝ているアリアの声。
俺は自分でも自分がどうしようもないクズだと思いながら、それでも止まらなかった。
「魔王を倒すという使命を背負って、あんな女の子に負けて、お前は今の今まで何をしてきたんだ!
この役立たずが!」
「だから、謝っているだろうが!! それだけは言わないでくれ……」
アリアも瞳に涙を浮かべていた。
「わるい、言い過ぎた。すまん」
謝ったがアリアは無言だった。
俺は何をやっているんだろうか。
鏡美に負け、それをアリア1人のせいにして……。
人としていろいろと終わっている気がする。
少し微睡んだ後。
スマホのバイブレーションの音。
見ると鬼灯から電話だった。
「なにをしていらっしゃいますの?!
私と1日1回は電話をする約束でしたわ」
そういや、そんなめんどくさい約束したっけ。
「今日、鏡美と研究所でバトって負けた」
「なんですって?!
それでお怪我は?
大丈夫なんですの?」
鬼灯の声が裏返る。
「体の傷はたいしたことない。
ただ疲れたな」
「これから研究所のほうに行きますわ、叔父様にそのようにお伝えくださいまし!」
それから、程なくして鬼灯が到着した。
夜遅いのに健気なことだ。
よく親御さんが許したな。
そんなことを考えていた。
ベッドの横にやってくるなり不機嫌な鬼灯。
「いきなり無策でSランクの鏡美さんに戦いを挑むなんて! それも私に一言もなく!」
「わりい、今度から相談する」
ランクや力の強弱で手のひらをころっと返したこんな女でも、こんなふうに心配してくれて今はありがたい。
「無理して起き上がらなくてよろしいですのに!」
俺が体を起こそうとするのを手伝ってくれる。
そのとき、彼女からシャンプーのいい匂いがした。
鬼灯の顔が思いの外、近い。
初恋の相手だけあってかわいいな。
そんなことを思っているうちに俺は。
鬼灯の唇を奪っていた。
そして、ゆっくりと唇を離す。
鬼灯はなにが起こったか分からないのか同じ表情のまま固まっていた。
俺はもう一度唇を重ねた。
目と目が合う。
徐々に赤くなる鬼灯の顔。
再び解放される彼女の唇。
「い、いいいい、今なにを?!」
「キスだけど」
「キ、キキキキ、キス?! キスですって?!」
「そうだ、キス」
「はわわわわ、ななな、なんということを!!
ふ、ファファファ、ファーストキスでしたのよ!!
ど、どどど、どうしてくださいますの?!」
おろおろする鬼灯。
「じゃあ、これでどうだ? みなわ、俺と付き合え」
我ながら恐ろしいほどあっさりと言えてしまった。
こんなに簡単なものだったかな。
前にアタックしたときのことは緊張しすぎて覚えてないくらいなのに。
「は、ははは、はい! はう~」
告白に返事をしたあと、顔を真っ赤にして鬼灯は気絶してしまった。
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