第30話 鳥羽鏡美
部活で帰りが遅い鏡美を俺たちが迎えることになる。
「ただいま! ただいま! 出迎えありがとー、お兄ちゃん! と、アリアさん……」
いつものことだが、俺に対するテンションとアリアに対するそれは露骨に違う。
生徒会役員の中で、現段階でアプローチが可能なのは中等部生徒会長の鏡美だけだ。
クラス替えをしたばかりなので、SA組に今すぐ挑戦するのはできない。
そして、規定により、SA組に入らないと自分と同じかそれより上の学年とは争えない。
だが、中等部の鏡美は学年が下であるため、今からでも公式戦を挑むことができる。
俺たちの横を通りすぎて、鼻唄を歌いながら階段を上がっていく鏡美に、俺は単刀直入に切り出した。
「鏡美、俺は竜司と戦うつもりだ」
鏡美の動きがぴたりと止まる。
そして、ゆっくり振り返る。
「え、今、なんて言ったのかな? お兄ちゃん」
声のトーンが明らかに低い。
「だから、俺は竜司と」
「はぁ?!」
途中で遮る鏡美の顔はもう笑顔はなかった。
「お兄ちゃん、あんまり調子にのらないほうがいいよ」
そう言いながら鏡美は静かに階段を下りてくる。
「お兄ちゃんさあ、アリアさんが来るまで、どこの誰がお兄ちゃんのこと、守ってきたと思ってるのかな?」
そして、下り終わると俺たちの方に向かってくる。
「お前だよ、それくらい分かってる」
「だったら!!」
鏡美は別人のような形相で俺を睨む。
「なんで、そんな無謀なこと考えてるのさ?」
「俺はもう結界のない無能じゃない!」
抑えていた感情が吐き出される。
「お兄ちゃん、なんか勘違いしてない!
アリアさんが強いだけじゃん! お兄ちゃん自身は特に強くなったわけでもなんでもない!」
その言葉に俺は完全にキレた。
「てめえ、もう1回言ってみやがれ!!
いつまでも人を守ってやらなきゃいけないペットみたいに思いやがって!!」
「よすんだ、竜一も! 鏡美も!」
アリアが制止するが、気がつくと、俺は鏡美の胸ぐらをつかんでいた。
「やんの?」
鏡美は無表情のまま、ぼそりと言った。
目の前のこのくそ生意気なガキを完膚なきまでに叩き潰す。
頭にはそれしかなかった。
「ああ!! ああ!! やってやるやってやるやってやる!!」
鏡美は不敵な笑いを浮かべる。
「じゃあ、離して。
ここで戦ったら家がめちゃくちゃになるから、研究所に行こう」
戦いは研究所の模擬戦室を借りて行うこととなった。
叔父はデータさえ取れるならと快諾した。
「試合開始!」
「発動! 展開!」
開始早々、鏡美は結界を発動させる。
鏡美は白い光に包まれていく。
光のまばゆさに思わず目を閉じる。
そして、ゆっくりと瞼を開ける。
俺は思わず息をのんだ。
何十メートルもありそうな長い胴体がとぐろを巻いた「竜」というよりは「龍」がそこにいた。
しかも全身鏡のような鱗に覆われている。
水鏡の剣の銀の蛇を強大にしたような姿だ。
代わりに、鏡美自身はどこにも見当たらなかった。
龍から鏡美の声が聞こえる。
「いくよ、お兄ちゃん!」
鏡美は龍に変身した。




