第23話 驕り
次の日の放課後、鬼灯はB組の生徒のデータをノートにまとめたものを持ってきた。
「この3人がB組のトップ3ですわ」
「男子1人に女子2人か」
男子は高林太一。
女子は天野さやかと一宮聡美。
高林はリンチのときに鬼灯の動きを止めていたやつだ。
つまり結界の能力は相手の動きを止めること。
結界半径3メートルほどと短いが、展開速度や発動速度は極めて速いし、拘束力も強い。
複数相手でも拘束可能。
動けない相手を一方的に殴るという卑怯な戦法が得意らしい。
天野の結界は簡単に言えば、腕や脚の射程を伸ばすというもの。
別に手足が伸びるわけではなく、離れた相手を透明の腕で殴ったり蹴ったりできるというものらしい。
なお、本人は空手を習っている。
半径約50メートルほど。
一宮の結界は冷気をあやつるというもので半径15メートルほど。
雨の日はAランクに迫る強さになるらしい。
「もちろんバラバラに3対1のほうがリスクは少ない。
だが、こいつら3人をまとめて叩く方がインパクトは大きい。
他の生徒に対する影響が違う。 だから、この3人と俺ら3人で3対3だ」
「なるほど」
俺の意見にアリアがうなずく。
「向こう3人、こちら3人の状態にどうやって持ち込みますの?」
鬼灯の疑問はもっともだ。
「こういうのはどうだ。
お前の名前で3人に果たし状を出す。
B組のトップ3なんてお前を目の敵にしてる連中だろ。飛びつくんじゃないのか?」
「確かにそうかもしれませんけれど……」
不安そうな鬼灯。
「お前は自分が信じられないのか?」
返事は返ってこない。
「だったら、お前に勝った俺を信じろ!」
鬼灯の目を見て、言ってやる。
「わ、分かりましたわ」
躊躇いがちにではあるが、うなずく鬼灯。
次の土曜日に3人を呼び出すことが決まった。
土曜日がやってきた。
果たし状に書かれた約束の時間になるより、かなり前に俺とアリアは廃屋工場に来ていた。
入り口から離れた奥まったところに身を隠していた。
約束の10分前に鬼灯がやってきた。
その後、約束の時間になって3人が姿を見せる。
髪が短くてガタイのいい男、高林が吠える。
「てめえ、よくまだ喧嘩売れるじゃねえか?!」
女子2人のうち、髪が長いほうが天野、短くて眼鏡をかけているのが一宮だ。
「あんた、ほんといい性格してるわ」
天野が言う。
「3対1なら勝てるって思ったわけ?」
嘲り笑いながら一宮がぱちんと指をならす。
するとぞろぞろと3人の後ろからB組の連中が入ってくる。
おそらくほぼ全員。
鬼灯を取り囲む。
「やっぱり、3人じゃなかったな」
のんきに言う俺に対して、アリアが焦る。
「お前、こうなることが分かっていてわざと果たし状など出させたのではないだろうな?!
しかし、あの数はさすがにまずいのではないか?!」
「最初にクラス全員敵に回してまで鬼灯をかばおうとしかけてたのはどこの誰だっけ?」
俺はアリアをからかうように言う。
「それは!」
「まあそれはいいとして。
まずひとつだけはっきり分かったことがある。
鬼灯はB組の他の連中とは通じてないということ。
もちろん、俺たちが隠れていることまで分かっていて、まだ演技をしているなら話は別だが」
「それは確かにそうだが」
「鬼灯が敵じゃないなら、あとは3人で叩きつぶすだけだ」
俺の発言にアリアが露骨に釈然としない顔をする。
「お前、最近やや自信過剰ではないか?!
水鏡の剣がいくら使えるからといって、ぐっ、なにを?!」
俺がうるさいと思ったときには水鏡の剣は勝手にアリアの首に巻き付いていた。
「これさえあれば怖いものなしだ。
少なくともBランクの連中なんかに負けることはない」
3対30の戦いが今始まろうとしていた。
俺は胸のうちからこみあげてくる強い感覚に酔っていた。




