第22話 竜一の思惑
俺とアリアと鬼灯は屋上に上がった。
まずまずの広さがある。
ここなら結界戦もできるし、あまり目立たない。
「じゃあ、はじめるとするか」
「望むところですわ!」
俺の呼びかけに威勢よく答える鬼灯。
「アリア、剣を」
そして、俺はアリアから剣を借りる。
すると、剣の鍔の竜の口が開いていつでも鞘から抜ける状態になる。
「行きますわよ、展開!」
鬼灯の掛け声と同時に、俺は水鏡の剣を鞘から抜くと、振り下ろす。
刀身は蛇のようになるとそのまま伸びていき、鬼灯の首に巻きつく。
鬼灯は発動する暇もない。
「降参しろ、お前の負けだ」
なかなか降参しようとしないと、鬼灯の首にまきついた蛇はさらに強くしまる。
鬼灯は膝をつき、とうとう降参する。
俺は剣を鞘に収めると、鬼灯のもとにかけよる。
そして、うつむいた鬼灯の顎を持ってこちらを向かせる。
「鬼灯、お前の負けだ。完敗だ。そうだな!」
「確かに私の負けですわ」
その表情には悔しさが滲み出ていた。
それを上から見下ろす。
最高の気分だ。
この女はプライドが高く、ヒエラルキーが下のものは徹底的に見下す。
逆にそれを上から叩きおってしまえば、ヒエラルキーの上位のものには比較的従属しやすい。
ここまで完全敗北をした以上、もう鬼灯は俺に従うだろう。
だが、それだけでは足りない。
この女を完全に攻略してこその復讐。
「お前は俺より弱い。そうだな?」
「ええ、現状そうなりますわね」
「お前は俺に過去どれほどのことをしたのか、わかっているのか?」
「それはどういう?」
「俺をネズミのオスだのなんだの言ってくれたな」
鬼灯は思い出しているようだった。
「あまり、記憶にございませんわ」
「なんだと?!」
俺ははらわたが煮えくり返るのを感じた。
俺の怒りに呼応するように、剣が勝手に鞘からぬけ、蛇と化した刀身がムチのように地面を叩き暴れ狂う。
それに怯える鬼灯。
「覚えはありませんけれど、あなたがそこまで怒っているなら間違いなく言ったのでしょうね。それについては謝りますわ」
まあいいか。
「じゃあ、それについては赦そう」
あっさり赦したのを妙に思ったのか、訝しげな表情で俺を見る鬼灯。
「お前を今の状況からなんとかしてやろうと思う」
「なんとかってどうやって?」
鬼灯の問いに俺は答えてやる。
「俺とアリアと鬼灯、俺たち3人でB組に勝てばいい」
「い、いくらなんでもそれは?!」
「無理だと思うのか?
お前、長い間B組を抑える立場だったはず。
なら分かるだろう、あいつらの結界の特徴、弱点」
「確かにそれは全て把握していますわ、でも数が違いすぎる」
「そんなの分断して、親玉を何人か叩けばあとはそんなに大変じゃない。
これに成功したら俺たちがB組のトップになれる。
そしたらお前もAに返り咲ける機会もうまれる」
そう言って俺は手をさしのべる。
「のるのか、のらないのか」
この女に選択肢はない。
彼女は意志のこもった瞳と強く結んだ唇で俺を見た。
そして、迷わずに俺の手をとった。
鬼灯が帰ると、アリアが訊ねてきた。
「竜一、本気なのか?」
「本気だよ、俺は」
そう言いながら俺は水鏡の剣を鞘におさめる。
「それにしても、その水鏡の剣、まさかお前ならいつでも鞘から抜くことができるとはな」
「過去の戦い、全て俺がピンチな時にこの剣に助けられた。
この剣はむしろ俺のほうが扱えるんじゃないかと思って、触らせてもらったんだ。
お前の蛇星鏡とこの水鏡の剣を使えば、Bランクの連中にたいしても対抗できるはず。鬼灯も加われば勝算はある」
俺は気持ちが高揚するのを感じていた。




