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第2話 義理堅き女騎士を味方につけて

ここまでのあらすじ


 竜一の部屋に突如現れた美少女騎士。

 彼女の名はアリアといった。

 アリアは異世界からやってきたらしい。

 竜一から2m以上離れられないことがわかる。

 竜一の結界が発現したことを意味していた。 

 俺は自分の手のひらをまじまじと眺める。

 そして、ほくそ笑む。

 その様子を見たアリアが俺を怪訝そうに見つめる。


「おい、やはりお前が結界を」


 その問いかけに俺は満面の笑みで答える。

 

「そうだ、そのとおりだ!」


 俺が尋常な様子ではなかったからだろう。

 彼女はきょとんとしている。


「やったやったやったやったやったやったぞ!

ついにやった! ハハハハハ!」


 興奮が口をついて外に漏れだした。

 俺は異常な力強さを自分のなかに感じていた。


「動物を召喚する例はあった。

 だが、人を召喚した例は俺の知るかぎりない。

 これはひょっとしたらひょっとするかも! 

 ハハハハハハ!」


 そこで俺の視界にアリアの顔が飛び込んできた。


「竜一、なにがおかしいんだ?!」

「俺は今日はじめて結界を発動させたんだ!

 この瞬間をずっと待っていたんだ! 

 ハハハハハハ!」


 急に笑いだされてアリアはさっぱり分からないだろう。

 そこで、夢想結界のこと、

 俺は結界が使えないこと、

 そのために俺は人以下のような扱いを受けたこと。

 そういったことを簡単にアリアに話した。


「ということは、私はお前によって

 この世界に連れてこられたわけだな。

 ならば、私をすぐに元の世界に帰してくれ! 

 私にはやらねばならぬことがあるんだ!」


 睨み付けてくるアリアの迫力も今の俺にとってはあまり怖くなかった。


「無理だよ」

「なにぃ?!」


 微笑みながらの俺の言葉に、怒りの形相になるアリア。

 そして、俺の胸ぐらを掴み壁に押し付けた。

 俺は構わず話す。


「俺の意志ではどうにもならない」 


「そうか……ならば」


 彼女は唐突に俺から手を離す。

 一歩下がって剣に手を伸すと、鞘におさまったままの剣を抜き放った。


「お前が意識を失えば、お前の結界とやらも消えるのではないか? そうすれば帰ることができるだろう」


 鞘つきの剣を大きくふりかぶるアリア。

 切れはしない。

 だが、鈍器としては十分な威力があるはず。

 さすがに俺の中に恐怖心がよみがえってきた。


「ほ、本気か? あんた正気かよ!」

「竜一、お前を悪いやつとは思わない。

 だが、私には果たさねばならぬ使命がある。

 こんなところで油を売っているわけにはいかないのだ!」


 俺はこんなところで死ぬのか。

 逃げようとした瞬間。

 頭に重い感覚が広がる。

 そして、目の前が白くなっていって……。



 頭痛で目が覚めた。

 これまで殴られたことは何度もあったが、これほどの痛みははじめてだ。

 顔をしかめながら、俺はベッドに横になっていることに気がつく。


「大丈夫か?」


 かすんだ視界の右側から金色の影が現れた。

 焦点があってくるとそれがアリアの顔だと分かった。

 心配そうな面持ちでこちらを覗きこんでいる。

 そうか、俺は確かこいつに殴られたのか。

 起き上がろうとするが、鈍い痛みが頭に走る。


「無理をするな。

 と私が言えた義理でもないな。

 すまないことをした。

 このとおり、お前の意識を失わせてもダメだった」


 アリアは伏せ目がちでこちらを見ようとしない。

 彼女の様子から俺にとって有利に話を進められそうだと思った。

 アリアは最悪俺を殺すこともできた。

 そうやって元の世界に戻れたかもしれない。

 それをしなかった。

 彼女なりの道徳観や倫理観があるのだろう。

 

 加えて、ここで借りを作っておけば、味方につけやすくなる。

 異世界から召喚された彼女。

 おそらくこちらの世界の常人より身体能力が高い。

 動きは極めて俊敏で腕力も相当ある。

 それは先ほどから身をもって感じており間違いない。

 ただ彼女は俺の指示に確実に従う存在ではない。

 だから、味方につける必要がある。

 

 それと1つ、大きなことが分かった。

 俺に発現した結界は気絶中でも発動できること。

 これは常時発動する結界に特徴的なものだ。

 たとえ、俺が気を失わされても、アリアが活動できるというのは大きなアドバンテージだ。

 

 俺はこれまで俺を不当に扱ってきたすべての人間に復讐しなくてはいけない。

 この力をうまく使って。


「俺は殺されるとこだった」


 重ねて罪悪感をおぼえてもらうための一言。


「私としたことが手段を選ばなさすぎた」


 俺は頭が痛いのを強調するように殴られたところを手でさすりながら、口を開く。


「っ……! 

 そういえば、結界の発動を意志で制御できるまでには時間がかかることがあるらしい。

 慣れというか訓練が必要というか。

 それができるようになればあんたを元の世界に返すことが可能になるかもしれない」


「それは本当か?! 

 だが、気絶しても結界の効力はなくならなかった」


 アリアは少し訝しげな様子だ。

 この女騎士様、直情的なわりには冷静なところがある。

 しかし、ここを乗り切ればなんとかなる。


「俺の親類は結界の研究をしている。彼にも相談してみよう。いい方法が見つかるかもしれない」


 俺の叔父が結界研究の第一人者なのは本当だ。


「本当にすまない、助かるぞ」


 そして、ここで。


「俺にも頼みごとがあるんだけど……」


「私にできることならなんでも言ってくれ!」


 やはり、アリアは義理堅い性格のようだ。


「元の世界に帰るまででいいから、俺のことを守ってほしい。

 さっきも話したように俺は周囲の人間からひどい目にあわされている。

 結界という力がなかったためにね」


「分かった。なんにせよお前の側から離れられない身だ。

 お前のことは私が守ると約束しよう」


「よろしくな」


 美しいボディーガードと握手を交わした。

 だが、俺は先ほど殴られたこともあってかふらふらとアリアの方に倒れこむ。

 

「お、おい?!」


 とっさのことにアリアもバランスを崩す。

 ドタドタと音が響く。

 

「いってえ」


 俺が顔を起こすとそこにはアリアの顔があった。

 それも息のかかる距離。

 俺はアリアを押し倒していた。


「お、お前、なにをする!!」


 アリアの頬が真っ赤に染まる。


 その時だ。

 ノックの音が聞こえた。

 そして、扉の向こうから聞き慣れた声がした。


「お兄ちゃん、なにしてるの?!」

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