第19話 勝敗
「わたくしの力を甘くみましたわね!」
まずい。
この高温には耐えられない。
「さあ、早く降参なさい!」
腕を組んだ鬼灯の勝ち誇った笑顔が視界に入る。
それとともにさらに勢いを増す炎。
悔しい。
死ぬほど悔しい。
だが、いくら体には実害がないと知っていても、この熱は耐えられる限度を超えている。
意識が遠のきはじめる。
なんだこれは。
結局以前と何も変わってない。
中途半端な女騎士を召喚したところで、結局鬼灯に勝てない。
俺は意味のない存在だ。
屑みたいに扱われ、その惨めさに耐えるばかり。
むなしいものだ。
俺はひたすらにむなしい。
気がつけば保健室のベッドの上だった。
隣にはアリアが寝ている。
この! この役立たずが!
と叫びたかったが疲労のせいか声が出ない。
蛇星鏡は結界による攻撃を全てを防げるわけではないのか。
やはりAランクの攻撃は伊達ではないということか。
なんにしてもこちらは2メートルの結界のせいで機動力が壊滅的。その上に、やたらと半端な盾の蛇星鏡、飛び道具なし。
こんなことで勝ち目があるわけもない。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
不意に声がしたので見てみたら案の定、鏡美がいた。
珍しくかなり心配そうな面持ちだ。
「まだ熱かった感覚は残ってるが、なんてことはない。
今すぐは動けないけどな。
そんなことより、すげえ悔しい!
あの鬼灯に対して結局なにもできなかったってのが!」
動けないといいながら、興奮のあまりもがくので、ベッドの軋む音が聞こえた。
「本当にお疲れ様。
でも、お兄ちゃんたちよく頑張ったよ!
よく覚えてないみたいだけど、今回の勝負引き分けだよ!」
「なに?! なんだって?」
俺は思わず大声をあげてしまった。
「だから、引き分け!
アリアさんのなんとかって剣がびゅびゅーんと伸びてね。
それで風紀委員長の首に巻き付いて気絶させたんだよ。
それがお兄ちゃんが気絶するのとほぼ同時でね」
鏡美はご機嫌だ。
しかし、水鏡の剣がまた抜けたのか。
魔王や魔竜を前にして抜けるという剣が、鬼灯の前で抜ける……。
よくわからなくなってくる。
鏡美の話はそれ以外にもなにか違和感の覚える話だった。
でも、とりあえず引き分けか。
そうなると。
「引き分けってことはランクはどうなるんだ?」
「さあ、今協議中だと思うよ。
なんにせよあの風紀委員長相手に引き分けなんだから、低いランクにはならないと思うけどね」
その後、担任に呼ばれ、Bランクと告げられた。
そして、即クラス替えの運びとなった。
SランクとAランクは非常に人数が少ないため、この2つのランクで1クラスを構成し、SA組と呼ばれる。
Bランクはちょうど30人ほどなので、Bランクで1クラスを構成し、B組と呼ばれる。
よって、俺は必然的にB組に放り込まれることとなった。
B組の授業後のホームルームに俺は呼ばれた。
B組の担任が俺とアリアを紹介する。
「君たちも知っているとは思うが、このたび、鳥羽竜一くんは結界を発現させ、公式の結界戦にて善戦したため、このたびBランクになった。
したがって、わがB組所属となる。
仲良くやってくれよ。
鳥羽くんとそれからアリアくん、自己紹介なさい」
みんなの目線が集中する。
俺を虐げてきた連中もたくさんいる。
正直俺は非常に緊張していた。
「鳥羽竜一です。よろしくお願いします」
「アリア・ウヌ・カルハイだ。
竜一に召喚され異世界から来た。
学校生活というのはあまりよく分かっていないがよろしく頼む」
突然起こる大歓声!!
「よろしくな!! 鳥羽!!」
「アリアちゃん、めっちゃ美人ね!!」
「前は悪いことしたな、鳥羽!!」
「今日はすごかったぜ!! あの風紀委員長と引き分けとは! 見直したぜ!」
「鳥羽!! アリアちゃんと2メートルしか離れられないってマジか?!」
口々に言いたい放題であったが、歓迎ムードだ。
調子のいい連中だ。
「静かに!」
担任の一言で徐々に静まる。
「そして、あともう1人クラスに追加される。入ってきなさい」
担任に呼ばれ入ってきたのは、特徴的な栗色の縦ロール。
「鬼灯!」
俺の声に鬼灯は視線をそらす。
「鬼灯くんはランク下の鳥羽くんに引き分けに持ち込まれたため、ランクがAからBに下がった。
鬼灯くんとも仲良くしてやってくれ。
鬼灯くん、自己紹介しなさい」
「鬼灯みなわです、よろしくお願いいたしますわ」
静まり返る教室。
鬼灯に浴びせられる冷たい視線。
これからなにが始まるのか、俺にはすぐに分かった。




