第14話 鏡美の猛攻をかいくぐれ
「誰だって訊いてるんだけどな~?
お兄ちゃん。耳聞こえてるよね?」
俺は中途半端に振り返ったまま固まっていた。
白っぽいワンピース姿に小麦色の肌。
髪はポニーテール。
そんなことより今は。
鏡美の視線も声も何もかもが怖かった。
アリアを知らない人だとは言えない。
結界があるから、もちろん、ここから離れられない。
真実を言うべきか。
いや、納得するわけがない。
特に俺とアリアの最大距離。
これが2メートルという点。
いかなる理由があっても許してくれないだろう。
「お兄ちゃん。
なんかー、すっごく困った顔してるよ?
だいじょーぶ?」
お前のせいで大丈夫じゃないんだが。
「答えられないのー?
なんで? なんで?」
そう言って俺の前に回り込む。
座ってる俺を覗きこんでくる。
不意に俺の両肩に、鏡美は両手を置いた。
そして、顔を近づけてくる。
息のかかるくらいの距離だ。
「お兄ちゃん、私との約束、覚えてるよね?
3日前にも更新したしね?」
「ああ、覚えてる」
「じゃあ、この外国人さんはどういう人?
どういう関係? どこで知り合ったの?」
鏡美は微笑みこそ浮かべている。
だが、真剣な眼差しを向けてくる。
これ以上黙っていたらますます変に勘ぐられる。
覚悟を決めるか。
そのときだ。
「竜一?」
アリアが目を覚ましたらしい。
「竜一って……? 呼び捨て?!」
俺の両肩にのった鏡美の両手に力が入る。
「どーゆーこと?
どーゆーこと?
どーゆーことなのかなあー?
ねえー、お兄ちゃん?」
「ちょっと待て、鏡美!
落ち着け!
落ち着け!」
ひきつった笑顔とこめかみに立った青筋。
俺はもうパニックに陥りつつあった。
そこでアリアが火に油を注ぐとは。
俺には想像できなかった。
「そこの娘は、この間の妹いや従妹か?」
目を擦りながら言ってしまった。
寝ぼけていたんだろうが致命的だ。
「おい! アリア、なにいってんだ?!」
もう手遅れだ。
「この間?
この間ってどういう?
ん、それは?」
そこで鏡美は気づいてしまったようだ。
わきに置いてあったアリアの甲冑に。
「そ、それ!
あの晩、ベッドの下にあったコスプレ衣装!
え、それでこの間って……?
それって、どーゆーことなのかなあ?
ねえ、お兄ちゃん?」
後半の声のトーンがやたらと低い。
そして、とどめの一言をアリアが放つ。
「そう言えば、竜一。
その娘とずっと一緒にいると約束したな?
そして、私に愛の告白をしたよな?」
わざとだろアリア。
そうとしか思えない発言だった。
そして、俺は破滅的事態に突入していた。
「愛の告白、告白、告白、告白……」
無表情で壊れたように同じ言葉を繰り返す鏡美。
もはや、これまで。
是非に及ばず。
俺はほぼすべてを話した。
途中で何度も興奮しだす鏡美。
それをなだめつつ経過を話す俺。
思い出したくもない苦行だった。
「に、2メートルっ!!」
鏡美の絶叫が俺の耳をつんざく。
「ちょっと落ち着けって!」
鏡美に通じるわけもなし。
「そ、そんな距離!!
ずっとべったりじゃん!!
アリアさん、でしたよね?」
「ああ、私の名はアリアだ」
「私たち二人の邪魔です!
さっさとお帰りください!
異世界にでも2次元にでも!」
鏡美はさくっと言ってのけた。
「いや、私もそうしたいのだが……」
困惑ぎみなアリアに、鏡美はなんの躊躇もない。
「異世界や2次元がお気に召さない?!
でしたら、お兄ちゃんから離れてください!
感電してあの世に逝ってください!」
真顔だ。
さすがに言っちゃまずいことがあるだろ……。
アリアもさすがに気を悪くしている。
これはまずいな。
「さすがに私にも生きる権利はあるだろう。
そもそも、私を召喚したのはこいつなのだ」
俺を指差すアリア。
「俺も好きで召喚したわけじゃ……」
そこですかさず鏡美。
「結界って潜在的な願望が表れるんだって……。
ねぇ、お兄ちゃん
私がずっーとこれまで一緒にいたのにさぁ。
グラマーな金髪美女に四六時中さぁ。
しかも2mの距離にいてほしいって。
そんなこと願っていたわけ?!
信じらんない、この変態!」
なんだこの状態……。
なぜ、二人から俺が責められているんだ。
その後も鏡美の猛攻は果てしなく。
地獄のような時間が続いた。
アリアはかなり傷も回復した。
だが、疲れたのだろう。
早く眠りについた。
その後、鏡美もほどなく眠ってしまった。
叔父は鏡美を他の部屋に連れていった。
そして、再び俺たちのいる部屋に戻ってきた。
「アリアくんはよく眠っているようだね。
ところで話があるんだがな、竜一」
「なんだよ、改まって」
「君は結界の歴史を知っているかい?」
「結界の歴史?
約150年前に突如、人類は結界に目覚めた。
ただし、目覚めたきっかけはいまだに謎だと」
俺は教科書に書かれているままを話した。
「竜一、君には話してもいいかと思ってね。
知りたくないかい?」
「なにを?」
「夢想結界の起源について、だよ」
叔父は不気味な笑顔を浮かべていた。
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