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第10話 召喚の理由

 簡単な処置を受けたアリアは柵のついたベッドに寝かされていた。

 俺はそのわきの椅子に座っていた。

 ‎そこへ叔父がやって来た。


「アリアくんも対戦相手の男の子も命に別状はない」

「そっか」

 

 そして、叔父は俺の隣に座る。


「しかし、派手にやったもんだね。まあ気持ちはわからないでもないが」

 

 その一言に腹が立つ。


「叔父さんに何が分かるってんだ?!」


「君はアリアくんを召喚する結界を手にした。  

 これはアリアくんがくることを君が望んでいたということだ。

 それは彼女に守ってもらうためなのか? 

 もしそうなら、今回のようなことにはならなかっただろう。

 君は守られるのが嫌でしょうがない。

 昔からね」 

 

 そう言って笑顔を浮かべる叔父。

 俺は目を合わせず黙っていた。

 叔父は続ける。


「アリアくんをなぜ呼んだのかということまでは分からないが、彼女とよく話をすることがきっと大切だ。

 それで彼女をどうして望んだのか、少しはわかるかもしれない」


 彼女はその後3時間も眠り続けた。

 その間、俺はどうしてアリアを呼んだのだろうと考えていた。

 助けられるためではないのは間違いない。

 だとしたら、いったいなんのために……。

 

 ちなみに俺はその間ずっとトイレを我慢していた。

 尿瓶を使う気にはなれなかった。

 

 そうして、座ったままうとうとしかけたときだった。


「竜一……」


 アリアが意識を取り戻した。

 俺の眠気は一気にとんだ。


「アリア!」


 だが、そのあとなんと言葉をかけるべきなのか分からなかった。

 彼女をこんな状態にしたのは俺なのだ。

 大丈夫か? などとなんて訊けるわけもない。

 アリアと目も合わせられず、うつむいていた。

 すると、アリアはベッドの柵を支えに上体を起こそうとした。


「無理するな」

「いや、大丈夫だ」


 やっとのことで起き上がるアリア。


「こっちを見ろ、竜一」


 俺はおそるおそるアリアの顔を見た。


「竜一、なぜあんなことをした?」


 その問いに対して答えられなかった。


「第3試合で私は確かに最初に気絶させられ、お前は一方的に相手にやられていた。それは私の力不足だった。だが!」


 そこでアリアは深呼吸して自分をなだめたようだった。


「だが、戦闘不能になった相手にあそこまで暴虐な行動を取ったり、私にまで……」


 最後のほうのアリアの声には悲痛さがあった。


「なにがお前をそこまで怒らせてしまったのか、教えてほしい」


 俺はアリアから目をそらし、黙っていた。

 アリアはそんな俺をじっと見続ける。


「私の力不足が原因なのか。

 今朝も廃屋でお前を守れなかったのも事実だ。

 力不足なら力不足と言ってほしい。

 他に理由があるならそれはそれで言ってほしいんだ」


 そのあと、長い沈黙が続いた。

 アリアは一度も俺から目を離さない。

 俺はアリアの目を見ると、口を開いた。


「俺はこんなことを望んでない!」


 話しはじめた途端、感情が吹き上がった。

 立ち上がって握り拳をふりまわし叫んでいた。


「俺はな! 

 自分を自分で守る力が欲しかったんだ! 

 誰も俺をバカにできない圧倒的な力が! 

 もううんざりなんだ、力がなくてなめられるのも、守ってもらうのも! 

 この際だから言ってやる!

 俺は復讐さえできればいいと考えてお前を利用しようとした! 

 お前と恋人になろうとしたのはそのほうが都合がいいと考えたからだ! 

 だが、俺は気づいてしまった! 

 お前の力で勝っても惨めなだけだと。

 お前なんかいらなかった!

 俺がほしいのは俺の力だ!

 力がなく尊厳を踏みにじられる苦しみがお前に分かるか!?」


 「もういい!」


 アリアが制した。

 途中から握りこぶしでベッドの柵を叩きながらわめいていた。

 俺は気がつけば泣いていた。


 アリアは大きなため息をついた。


「そうか、そういうことか。

 今のがお前の本音なのだな。

 お前が私を慕っているというのも嘘だったのだな。

 私を自分にとって都合のよく扱うための。

 お前からは憎悪、妬み、怒りしか感じない。

 お前は私に守ってほしいと頼んだが、本当は復讐したいだけなのか。

 私の力を使って。 

 いや、お前は自分で復讐したい。 

 今日のことでお前には相変わらず力がなく、力があるのは私だということが改めて分かったと。

 そして、お前にとってはそれは望んだことではない。

 残念だが、私にはどうにもならんことだな」


 アリアの視線がおそろしく冷ややかになっているのを俺は感じた。


「竜一、私はどの道、今はお前とともにいるしかない。

 その間、お前を害するものがあれば戦おう。 

 だが、それはお前のためではなく全て私のためだし、元の世界に帰ることができるようになれば」

 

 俺はこの瞬間を永遠に忘れることはないだろう。


「お前の顔はもう二度と見たくない」


 そのアリアの言葉はこれまで俺が受けたどの暴力や罵声よりも突き刺さった。


 次の日、アリアも俺も傷はたいしたことないということで、また模擬戦をすることになった。

 ‎例の白い部屋に行くと昨日はなにもなかったのに、石やら鉄骨やら障害物的なものが無数におかれていた。 


「今日は昨日のような弱い結界使用者ではない。

 ハードな戦いになるだろう。

 ‎この障害物もうまく使うことだ」


 そう叔父は告げるとまたモニタールームに向かった。 

 ‎あれから一晩、俺とアリアは口ひとつ利いていない。

 ‎2メートルの距離は気まずかった。


 俺たちが部屋で待っていると、向こう側の扉から、白い服の女の子が入ってきた。

 ‎見覚えがある。

 ‎確か昨日、叔父が連れていた子だ。

「今日の君たちの相手はその子だ。

 名前はアル。

 ‎相当に強いから覚悟した方がいいぞ。

 ‎それでは、試合開始」

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