表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エリジャ姫  作者: 囘囘靑
38/43

38_赤い衣

「……私の勝ちよ」


 サウルの背後から、エリジャの声がした。声に突き動かされるようにして、サウルは後ろを振り向いてみる。


 サウルの背後には、”アースラ”がいる。しかしその輪郭はぼやけ、そして蜃気楼のように一瞬にして蒸発した。アースラの姿は影も形もない。代わりに立っていたのは、肩に傷を受けながらも背筋を伸ばし立っている、エリジャの姿だった。


「ざ、ざまあみろ……」


 刺し貫かれた”エリジャ”が、口から血の泡を飛ばしながら、サウルに毒づいてみせる。再度振り向いたサウルの目の前で、”エリジャ”の輪郭は溶け、アースラが現れた。


「おのれ……!」


 サウルもすべてを理解した。自分が二人を見失っていた隙に、エリジャはアースラに、アースラはエリジャに化けたのだ。そして今、アースラは自らの生命を生け贄に捧げ、結界を張ろうとしている――。


 血まみれになった指をわなめかせながら、アースラが自身の胸の前で両手を合わせた。ちいさな七色の火花が周囲をはね、血だまりの血が生き物のようにうねり、円を描いた。円の中心にはサウルがおり、そのサウルを中心として、血の飛沫は複雑な軌跡を描きはじめる。


「これは……!」


 反射的に後ずさろうとしたサウルは、両脚が魔法陣の軌跡に絡め取られていることに気づいた。魔力を解き放って抜け出そうとするも、サウルの放った魔力は、みな魔法陣の軌跡に分散され、消え去ってしまう。


「もう分かるでしょう、サウル」


 もがいているサウルの後ろから、エリジャの声がした。


「私があなたを追い詰められたのは、一人じゃなかったからよ。一人じゃできないことでも、力を合わせればどうにでもなる。サウル、それはあなたにはできなかったこと」

「だ、黙れ!」


 鋭く叫ぶと、サウルはエリジャの方を振り向いた。


「俺を誰だと――」


 エリジャの姿を見たサウルは、そこで言葉を失った。


 エリジャが身にまとっていたはずのローブが、肩の血を受けて赤く染まっていた。出血は激しく、エリジャは蒼白い顔をしていたが、それでも彼女が立っていられるのは、それだけ彼女の意志が強いからだろう。


 エリジャはまるで、赤い衣を身にまとっているかのようだった。


――赤い衣を身にまとった者がお前の前に立ちはだかるとき……それがお前の死ぬときだ。


 ヲンリの預言を思い出したサウルは、その場に崩れ落ちた。


「さようなら、サウル――」


 剣を振りかぶると、エリジャはサウルめがけて振り下ろした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ