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エリジャ姫  作者: 囘囘靑
37/43

37_決戦

「これは……!」


 玉座の間に踏み込んだエリジャとアースラは、その惨状に息を呑んだ。血の海――そう形容するより他にないほど、玉座の間は死体で埋め尽くされていた。


 死体は皆、サウルとオルタンスの婚礼に招かれた貴族たちだった。中には、エリジャの見知っている人物もいる。


「ひどい……!」

「――闇の魔術です」


 うずくまるようにして倒れている男の様子を確かめ、アースラが答えた。男の死相は悪夢にうなされているかのようであり、顔色はやせた土のようだった。


 と、そのときだった。


「ハァ、ハァ……」


 苦しそうな男のうめき声を聞きつけ、エリジャとアースラは振り返る。するとそこには、剣を杖代わりにして歩いている、蒼白い顔をした男の姿があった。


「……サウル!」


 かたきの名前を口にして、エリジャの声は怒りに震えた。かれこそがサウル。この国を乗っ取り、いま王位を僭称せんとする人物である。


「サウル、オルタンスはどこにいるの?! 答えなさい!」

「オルタンスならば、北東の塔にいる。もっとも……」


 自身の首に提げているものを、サウルは掲げてみせた。照明の光を受けて輝くそれは、金で細工された鍵だった。


「この鍵がなければ、中へ足を踏み入れることは望むべくもあるまい。扉には、強力な封印が掛けてある。いかなる魔道士であれ、この封印を解くことはできぬ。フ、フフフ……」


 握りしめていた剣を、サウルは肩の高さまで掲げた。剣の周りの空間がひずみ、蒼白い光を放ちはじめた。


「サウル、何を……?!」

「喰らえ!」


 身の危険を感じとったときにはもう、サウルは剣を振り下ろしていた。空を切り裂いた一閃は、蒼白い稲妻を解き放って、エリジャに殺到させた。


「――危ない!」


 エリジャの全身が稲妻に呑み込まれる直前、アースラがエリジャの正面に立ちはだかると、その稲妻めがけて両手を突き出した。アースラが瞬間的に発動した魔法陣に中和され、稲妻は煙を残して蒸発する。


「な、なんだと……?!」


 サウルとアースラとを隔てていた煙は、程なくして消え去った。そしてサウルはすぐ、煙の向こう側にいるはずの二人が、忽然と消え去ってしまっていることに気づいた。


「おのれ、どこだ……?!」

「――ここよ!」


 サウルの死角から、アースラが飛び出してくる。剣の尖端をかろうじてかわすと、サウルは自らの剣の先で、アースラの肩を刺した。アースラがよろめいている隙を狙い、サウルは念力で彼女の身体を持ち上げる。


「終わりだ――」

「……まだまだ!」

「何っ?!」


 アースラの身体を叩きつけようとした矢先、後ろから飛び出してきたエリジャが指を鳴らした。すると、たちどころにして火花が飛び散り、サウルの身体を瞬時にして炎が包み込む。


「おのれ……こしゃくな!」


 しかし今のサウルは、この程度の魔法ではひるまない。ヲンリから授けられた魔力と生命力がうなるのを、サウルはひしひしと感じていた。


 魔力を解き放ち、炎を瞬時に消し去ると、サウルは渾身の力を込め、エリジャめがけて剣を突き出した。たしかな手ごたえと共に、エリジャの身体の中心に剣が突き刺さる。


「ははははは――!」


 エリジャを貫いたまま、サウルは剣を壁に刺し、エリジャを貼り付けにする。


「どうした、エリジャ?! 何か言ってみろ!」

「……私の勝ちよ」


 サウルの背後から、エリジャの声がした。

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