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エリジャ姫  作者: 囘囘靑
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03_呼び声

(おねえさま……!)


 粛々と進展していく即位式の様子を、オルタンスは固唾を呑んで見守っていた。いま、内大臣のサウルが祝辞を述べ、合図に従って儀仗兵たちが銀の槍を掲げている。左大臣のカシムがうやうやしく冠を掲げると、玉座の前にひざまづいて、同じく跪いているエリジャの頭に冠を乗せた。


 エリジャは目を見開くと、内大臣のサウルから、一振りの剣を受け取った。エリジャはその剣を右手に握りしめたまま、玉座に腰を下ろした。


 二階に陣取っていた若い貴族の集団が、一斉に立ち上がると、


「新国王陛下、万歳!」


 と叫んだ。高らかなラッパの音がそれに引き続き、居並ぶ貴族たちがこぞって立ち上がり、万歳のかけ声はさらに大きくなった。


「万歳、万歳、万歳――!」


 オルタンスは椅子に座ったまま、胸元で手をもんでいた。恐ろしさが心の内につのり、オルタンスは泣きながら逃げ出したい気持ちだった。


(どうしよう……!)


 席を立ったエリジャが、国の大臣たちの肩を剣で叩いているのが見える。即位した王が第一に行わなければならない、家臣たちへの祝福である。従者に呼び出され、カルフィヌスもオルタンスの側を離れていた。


 今日、この瞬間をもって、エリジャは王となった。姉としてのエリジャは、オルタンスにとって遠い存在となってしまった。


 自分はだれからも顧みられることのない、ひとりぼっちの存在である――その事実に気づき、オルタンスは身体のふるえが止まらなかった。


(誰か、たすけて――!)


 オルタンスが心の中で叫んだ、そのときだった。


(……オルタンス)


 オルタンスの名前を、誰かが呼んだのだ。


「誰……?」


 オルタンスはあたりを見渡してみたが、オルタンスに視線をそそいでいる人影はなかった。

 何かの勘違いだろうか? オルタンスがそう考え直した矢先、再び


(……オルタンス)


 と言う声が、さっきよりも強い調子で聞こえてきた。今度ばかりは、オルタンスも声の出所が分かった。信じられないことに、声はオルタンスの頭上から響いてきていた。


(……オルタンス、君のお姉さんを、君に返してあげよう)

「あ、あなたは?」


 空から降ってくるかのような、男性の優しい声に、オルタンスの胸は高鳴った。


(私はヲンリ、と人に呼ばれている)


 声の主は、自らをヲンリ、と名乗った。

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