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エリジャ姫  作者: 囘囘靑
21/43

21_三年後

「ええい、クソッ、腹立たしい――」


 手にしていた杯を鷲掴みにすると、サウルはそれを床にたたきつけた。乾いた音が広間にこだまし、遊女の歌も、楽隊の音楽も止んでしまう。


「さがれ、下がれ! 目障りだ……とっとと失せろ!」


 サウルの怒声に追い立てられるようにして、遊女も楽隊たちもそそくさと広間を去ってしまう。一人取り残され、サウルは激しく咳き込んだ。


 咳き込んですぐ、サウルは手のひらを見つめた。吐いた痰の中には、ほんのわずかではあるが血が混じっている。


 エリジャが辺境へと追放されてから、すでに三年が経っていた。その間、サウルは何一つ思い通りになっていなかった。


 カルフィヌスの死後、サウルは右大臣に就任した。問題はサウルより上官である、カシムの処遇だった。サウルは罪をでっち上げ、カシムを解任しようとしたのだが、それをサウルが思い立ったときにはもう、カシムは王都を去り、王国の東にある広大な荘園に引き籠もってしまっていた。


 サウルも当然、手をこまねいているわけではなかった。不仲を噂されているカシムの息子・ヨルムを内大臣に就任させ、カシムに対峙させようとしたのだ。しかし、これが失敗だった。ヨルムに父親ほどの才能がないことが分かるのに、それほど時間はかからなかった。ヨルムはサウルの命令の主旨が分からないだけでなく、主旨通りに動いたとしても、いつも半分程度の結果しか出さなかった。


 おまけに、若年のヨルムを内大臣にあげたために、それまで年功のあった貴族たちが、みなサウルの下を離れてしまった。かれらは阿諛追従しているが、裏では自分を馬鹿にしていることを、サウルは知っていた。


 それだけではない。サウルはある人物を探していた。カルフィヌスの息子・ロオジエである。エリジャが追放されたその日からというもの、ロオジエもまた王都から忽然と姿を消していた。サウルは憲兵たちを駆って王都中を探させたが、ロオジエは影も形もなかった。


 もっとも、サウルはロオジエのことなど、つい最近まで忘れていた。かれのことをサウルが思い出したのは、自分の所有している南部の荘園が、度重なる海賊の襲撃に遭ってからだった。そしてその海賊の首領は、ロオジエそっくりだというのである。海賊を殲滅すべく、サウルはヨルムを大将にして軍を派遣しているが、戦況は膠着しており、軍の士気は低下していた。


「ああっ、クソッ! なんてザマだ……!」


 サウルの悪態が、一段と大きくなった、そのとき。広間の扉が開いたかと思うと、うだつのあがらない禿げ頭の家臣の一人が、サウルの下まで駆け寄ってきた。


「サウル様――」

「黙れ! 見て分からんのか? 俺は機嫌が悪いんだ――」

「ですが……しかし、その、陛下がお呼びです」


 ”陛下”という単語を聞いた瞬間、サウルは思わず肩を震わせた。


「陛下が、その、どうしてもサウル様にお越しいただきたいと――」

「ええい、クソッ! どいつもこいつも……!」


 吐けるだけの怨念の言葉を吐き散らしながら、サウルはふらついた足取りで広間を去ろうとする。


 陛下とは、エリジャの妹・オルタンスのことだ。

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