お宝発見楽しさふんふんふーん♪
バレンタインのチョコレート、いつもよりちょっと面倒。
「『母神は仰られた。目の見えぬ勇ましき戦士に鷹の眼を与えたと…』」
彼女の金の髪がふわりと舞うと、俺の視界がクリアになっていく。
虚ろに揺れるアンデッド達を捉えた俺は、ほぼ完治した体を労る事無く走り出した。
──無駄な掛け声は体力を無駄にするだけ、必要な動きは最小限に、呼吸を合わせて剣を振り抜くッ!!──
無駄な動きを削ぎ落とした剣閃が幾つもの首を飛ばして行く。
「(一匹、二匹、三、四、五、六)」
折り重なるように倒れていく魔物の死体。
自分に向かってくる死体を足蹴に剣を振る。
幾らかの骨を砕いた後、クレイモアが真中から折れた。
良く通る金属音が洞窟の中に木霊する。
「な…くっ!!」
一旦距離を取ろうとするも、動揺のためかプレートメイルに覆われた胸を錆びた戦鎚が叩いた。
「ぐぅ…オラァッ!!」
仰け反った体を無理矢理引き起こし、目の前のゾンビに渾身の頭突きを食らわせた。
腐って脆くなっていたのか、頭蓋骨が砕け脳漿が顔に掛かる。
「ちぃ…っ!!汚ねぇ!!」
掌で顔を乱暴に拭う。
周囲を見渡すと、既に魔物の姿は消えていた。
と同時に奇跡の効力も消え、視界は元の曇りガラス状態へと戻っていた。
折れた剣を地面に突き立て、ぜぇはぁと激しく息を突く。
「大丈夫ですかっ!!」
心配そうな顔でカティーが駆け寄り、俺の体に癒しの奇跡を掛けるのだった。
○○○○○○
地盤が崩落し、地面の奥深くへ閉じ込められてから約2週間が経過していた。
ダンジョンには『セーフゾーン』があるため、そこに生えた野草などを食べているので何とか持ちこたえて居るが、如何せんダンジョンは洞窟のような構造をした閉鎖空間のため、ストレスが溜まるのだ。
いい加減にここを出なければ、栄養失調や餓死の前にストレスで死にそうだ。
「(はあ、二人とも、心配してるかなぁ…)」
そんなことを考えながら二人で歩いていると何かに躓いた。
こんもりと盛り上がった地面の感触が足に伝わる。
今正に埋めたばかりのようなそれは、いつぞやこの鎧を手に入れた時の【宝箱】だ。
「(…掘るか…)」
「クリス様?一体何をして…」
「掘ってる。」
刀身が半ばから折れたクレイモアで地面を掘り返す。
カティーは良く分からないものを見るような目で俺を見ているようだ。
とは言え流石に大したものは期待していないが──
──粗末な布にくるまれた、何か長い物体が出てきた。
「…へ?」
「お、大当り…ですわ…」
嘘だろ。流石に都合が良すぎて草が生えるぞおい。
土を軽く払うと、棒状の物体を布から取り出した。
見れば、クレイモアとほぼ同じくらいの刀身を持つ剣のようだった。
──ゴクリと唾を飲み込んだ。
「あ、あり得ない…冗談だろ…!?」
「いえ…げ、現実です。」
思いきり頬をつねる。
うわ痛いよ現実だわこれ。
縁が金属で軽く装飾された頑丈な鞘。
両手で握ってまだ余裕のある柄。
振り上げると、自分の鎧と同じく異様に軽かった。
「…」
鞘をずらし、刀身を覗く。
辺りに粒子のようなものがふわふわと舞った。
鞘から剣を抜き放つ。
蒼く輝く細身の刀身。
刀身全体を薄い膜のようなものが覆い、刃の部分に何処か幻想的な紋様が描かれている。
それだけではない。
「…何か、元気が湧いてくるような…」
「わ、私もそう感じましたわ。」
何でもできそうな気分だ。
そう、ここから脱出するのも簡単に出来そうな気がしてきた。
「カティー」
「は、はい!」
「『眼』を頼む。」
彼女が神の物語をその桜色の唇で紡ぐと、俺の視界がクリアになっていく。
「…よし!!行ける!!」
「行けるって何が…きゃぁっ!?」
蒼い剣を背に背負うと、カティーをお姫さま抱っこで駆け出した。




