表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/22

大怪我

風邪を引きました。

「う…ぐ…」

 

頬に感じる痛みで目を醒ました。

 

「あっ…う、動かないで下さい!今、防具を脱がせますので…」

「あ、こ、ここは…」

 

ひしゃげた冑が脱がされる。

その際、突き出た金属片が俺の顔の右半分を抉っていった。

これも十分痛いのだが、それ以上に全身に響く激痛が酷い。

 

「ぬ、脱げました……ひっ!?」

 

俺の顔は相当酷い状態らしい。

 

実際、クリスの顔は右頬が大きく裂け、両目は細かい傷がついて真っ赤になっていた。

 

「…っ、『いと慈悲深き地母神よ…傷つき、苦しむ子を癒したまえ…』」

 

身体中の傷が、程度の差はあれ再生していく。

先程まであり得ないほど痛んでいた体も、多少ではあるが痛みが和らいだようだ。

 

「はぁ…くっ」

 

ゆっくりと体を起こす。

全身の筋肉に淡い痛みが走るものの、何とか動けはするらしい。 

殆ど見えない目で、少女の虚像を捉えた。

 

「楽になったよ…ありがとう。」

「あの、まだ寝ていてください…。私、薬草を探してきます。」

 

胸を軽く手で押され、言われるままに彼女が敷いたローブの上へ横になった。

 

「すぐ、戻ってきますから。」 

 

○○○○○○

 

遡ること十数分前。

 

「ホアアアァァァァアアァァァァアァァァアア!!」

 

少女を抱き締め落下中の俺。

 

とは言え岩にぶつかったりしながらなので、どちらかと言えば『落下』と言うよりは『転落』の方が正しいかもしれない。


彼女を怪我させないように、自分の身を呈して彼女を庇いながら落ちて行く。

 

ズドンッ!!!

 

「グハッ!!?」

 

内臓をナイフのような鋭い衝撃が突き抜ける。

込み上げてきた血液を吐き出した。

左腕がぶらぶらと力なく垂れ下がった。


「ゲホッ!!ゲホッ!!…くあぁぁあっ…痛ってぇ…!!!」

 

衝撃で投げ出される少女。

悶えながら、身体中を締め付ける鎧を何とか脱ぎ捨てた。


「はぁっ…はぁっ…」


おかしい。視界が効かない。


 目を擦る。痛い。

 

 流れ出る血を拭おうとさらに擦る。

 

「うぐぅぅぅ…………痛い痛い痛い…!!!」

 

痛みと出血のせいか、体の力がだんだんと入らなくなり、俺は意識を失った。

 

 

 

「う…染みる…」

「い、痛いですか…?」

 

体の各部に薬草の練り薬が塗り込まれていく。

かなり染みるが、今は我慢だ。

 

「ふーっ、そういや、名前を聞いて無かったな。俺はクリス、農民の出だから名字は無い。」

「わ、私はカティー=アレクセイと申します。未だ未熟な身なれど、地母神教会の末席に身を置いております。」

「カティーか。いい名前だな。…成る程、教会関係者だから奇跡が使えるのか…うっ…」

 

左肩の骨が痛み出した。

思わず右手で掴みそうになる。

 

「ダメです!折れた骨を動かしては参りません!」


カティーは俺の手を払うと、指で鎖骨の辺りをコリコリとやりはじめた。

痛くはないのに骨が動いているので、何だか不思議な感覚だ。

 

「な、何してるんだ?」

「鎖骨を整形しております。あまり暴れないで下さいませ。」


言われるがままに大人しくしていると、彼女は俺の背中を抱き体を起こしてくれた。

 

「少し、何かを口に入れましょう。」

 

カティーは自分のバッグから固形の食料を取り出した。

器に入れたそれに水筒の水を振り掛けてふやかす。

 

「食べられますか?」

「あ、ああ。」

 

口に運ばれる流動質の食料。

あまり美味しくはないが、これも今は我慢だ。


「んむ…染みる…」

「頬が裂けておりましたので…一応くっついてはいるようです。」


彼女はその後も甲斐甲斐しく世話を続け、俺が眠る頃にはすやすやと寝息を立てていた。 

  

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ