コスプレ少女(仮)
何かのコスプレだろうか、現れた少女はアニメのキャラクターの様な養子と格好をしている。
”アニメキャラクターの様な格好”のから分かるように、少女の格好の比喩は、自身のオタク日々からの推測だ。
しかし可笑しい、あらゆるライトノベル・アニメを把握している俺が、コスプレの衣装からキャラクターと作品を予想できないなんて。
いや、諦めるな、少女の衣装の装飾を細部まで観察するんだ、そうすれば何のコスプレか思い出せるはずだ、目を凝らせ橘 啓一、目の前のファンタジーと脳内に保管されたファンタジーを照らし合わせるんだ。俺の情熱的な眼差しが彼女の全身に突き刺さる。
「あ、あの、どうかしましたか?」
少女は自分に注がれた視線に困っている様だ、俺としたことが女性に対し失礼をしてしまった。
「質問があります、それは何のコスですか?」
俺は観察から考察・予測するよりも、質問し相手から真実を語ってもらうこと選んだ。
さぁ、早く疑問よ解決してくれ、オタクとしてキャラクターのコスプレが分からないなどと、こんな屈辱にこれ以上耐えられない。
「私服です…」
少女は申し訳なさそうに言ってきた。
私服、はてどうしたものか、落ち着け、私服でウィッグは被らないはずだ。
「それはウィッグですか?」
「えっと、違います…」
少女は頭を手で覆いながら、また申し訳なさそうに言ってきた。
しまった、また失礼をしてしまった。
となれば彼女の髪色は染色によるものに違いない。
「綺麗な髪ですね、どうやって染めたんですか?」
「地毛です…」
地毛だと?地毛で水色と白色の混色になるのか?
もしかしてアルビノという病なのだろうか、色素が薄くなり髪色も白色に近づくと聞くが、
いや、それでは白色に混じる水色の説明がつかない。
「あの、混乱している様なのであなたの身に何があったのか説明しますね」
私が髪色の考察をしている姿を、彼女は寝ぼけていると勘違いしたようだ。
「落ち着いて聞いてください、今は西暦2070年です」
何を言っているんだこの少女は、混乱より彼女への不信感が大きくなった。
「理解が追いつかないかも知れませんね、とりあえず私について来てください」
そう言うと彼女は部屋から出て行った。
いつまで部屋にいても仕方が無いため、俺も彼女の後を着いていく。
扉を開けるとこれまた木製の部屋、部屋の真ん中には机と、それをはさむ様に椅子が置いてある。
部屋の隅には暖炉、その正面にはキッチンだろうか、かまどの様な場所がある。
全ての家具がいわゆるカントリー調な物に統一されている。ここまで雰囲気が良いとテレビのどっきり番組を疑う、そうとなればカメラはどこだ。
「こっちです」
カメラを探している俺を尻目に彼女は玄関の扉を開け外へ出て行く。
部屋の雰囲気を堪能したい気持ちを抑え、少女について行く。
家の外は見渡す限りの花畑がありその奥には木々が乱立している、どうやらここは森の中、否撮影セットの中らしい。
なるほど森の中の家は異世界物作品の必須条件だ、完成度激高の容姿に加えこの撮影セット、少女のコスプレに対する熱意は痛い程伝わってきた。
これ程金のかかる用意をしているのなら、高価な撮影機材もどこかにあるはずだ。
カメラはどこだ、照明はどこだ。
グイッ
俺が撮影機材を探していると少女に袖を引っ張られた。
「何かな?そういうシチュエーションの撮影かな?」
少女は俺の提案を無視しているのか、振り向かずに森の中を小走りで突き進んでいく。
セットの中とはいえ置いていかれても困るので、私も後をついて行く。
少女の背中を見ながら改めてコスの完成度の高さに感服していると、耳が赤くなっていることに気づいた、どうやらこの娘コスプレ慣れしていないようだ。
熟練のレイヤーなら赤面することなく堂々とカメラの前に立つだろう、そういった躊躇いの無いポージングはコスプレの質を高めることになる。
だが待ってほしい、必ずしも羞恥心を捨てたコスプレが極上であるとは限らない、女の子の恥ずかしがる姿はそれだけで好評かされる。
例えコスプレするキャラクターが羞恥心の無い設定であっても問題ではない、重要なのは”女の子が恥かしがっている”ことなのだから。
まさに女の子の羞恥心は万能なスパイスなのである。
暫区の間、俺は少女の耳から伝わる羞恥心を堪能するのであった。
「こちらです、見てください」
森を抜けると同時に少女がどこかに指を刺す、そこには信じられない光景が広がっていた。
どれくらいの高さだろうか、雲を突き出す程の高さの白色の巨大な城が見える。
城を中心に橙色の屋根の家が、100、200、300、数え切れない様に広がっている、城下町だろうか、街並みの中を移動するいくつもの点、数え切れない人がそこにいるのも分かる。
俺は何時外国に来たのか、そもそもここは何処なのかは数秒後解決した。
バキッ
何かが折れる音が聞こえた。
バキキキキキキ
折れる音が連続し、徐々に折り重なっていることが分かる。
音源が後ろから近づいてくると気づくと同時に、背中を強風に押され草に向かってうつ伏せに倒れた、口の中に土やら葉やら自然の味が広がる。
どうやら俺の上を巨大な何かが飛び去ったようだ、俺は頭上を過ぎ去った何かに目を向ける。
空を捕まえ大きく広がる2枚の翼、掴んだ物が砕けるまで離さない爪、棘の着いた鋭い尾、獲物を噛み砕く牙、そして全身を覆う赤土のような色の鱗。
漫画、アニメで何度も見た、勇者達が強大なそれに挑むシーンを何度も見た、間違いない、あれはドラゴンだ。
「ド、ドランゴン!」
気がつかないうちに驚きが声に出ていた。
あのクオリティ、そこにあるという確かな感覚、存在感の重みは本物でしか出すことの出来ないものだ、信じたくないが俺は創作の中でしか見たことの無かった世界、剣士、魔法使い、ドラゴン、魔女、そんな物が存在する異世界に来てしまったのか?
「ここはどこだ!?」
驚愕に任せ勢いのまま少女に質問をする、紳士的な問い方も出来ない程俺は興奮していた。
「ここは東京都 ブラウ区です」
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