表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/60

第五十四話 VS鋼のアンス


「金属を生み出すのか。なかなか面白いな」

 放たれた鋼鉄の槍は突き刺さることなく、ガレオスの手の中におさまっていた。

「お前……何者だ?」

 アンスはガレオスの挙動を見て顔色を変えた。目の前の男はそこら辺にいるやつらとは格が違うことを感じ取ったからだ。

「答えなくていいんじゃなかったのか?」

 手に持った槍を眺めながらガレオスは質問を返した。


「うるっせーな! いいから答えりゃいいんだよ! あー、面倒くせー……死ね、お前死ねよ! “鋼鉄の雨”!」

 自分の思うように話が進まないことにしびれを切らしたアンスが手をあげると、瞬時に空には百を超える鋼鉄の武器が浮かんでいた。

「一斉掃射!」

 彼の指示を受けてそれこそ降り注ぐ雨のように勢いよくその全てがガレオスにむかっていく。


「お前、すごいな! じゃあ、俺も少しは力を見せないとだな……武源開放」

 ガレオスは単純にアンスの使った魔法に驚き、感心しており、自分の置かれた状況に対しての焦りは全くないようだった。手にした鋼鉄の槍をそこらへんに投げ捨てると、バーデル戦で使った氷の大剣『絶対零度』を取り出す。

「そんな、武器を出したところで俺の魔法は防げねーぞ!」

 自分の魔法に自信があったアンスはガレオスに対してそう言い放つが、その顔は次の瞬間、驚愕に変わることになる。


「凍りつけ!」

 ガレオスが大剣を一振りすると、空に浮かんだ鋼鉄の武器たちが動きを止めた。全てが氷に包み込まれ、その重みで本来の軌道からそれる。

「な、なんだと!?」

 そして、そのままボトボトと落ちていく。ガレオスの周囲には軌道がそらされた氷の塊が次々に落ちて来て、何一つ彼の身体を傷つける者はなかった。

「ふむ、やはり凍りつかせれば魔法を止めることも可能だな。炎も止められたからいけるかと思ったが、鋼鉄でも同じみたいだ」

 相手の魔法についてガレオスは分析していた。もちろんこれで防ぐことができなかろうと彼は次にどうするかまで考えていた。だが以前の戦いの時の経験から行けるだろうと踏んでいただけあって、それが他にも通用するとなれば魔法相手でも怖くなかった。


「お、お前、なんなんだ!」

「だから、お前が答えなくていいと言ったんだろ? まあ、名乗ってやるか……俺は武源騎士団第七隊長ガレオスだ」

 それを聞いたアンスは驚き、そして笑った。

「は、はははっ、マジで武源騎士団のやつらが来たのか。自分の国を奪われた馬鹿どもが、復讐のつもりかよ! バッカじゃねーの!」

 その笑いは、嘲笑だった。国を取り戻しに来た武源騎士団のことをあざ笑っている。彼も武源騎士団の名は聞いたことがあり、今まで対峙したことはなかったが、自分たちで言うところの八大魔導のようなものだとは認識していた。


「はははっ、そんなに面白かったか。それじゃ、もっと面白くしてやるぞ! 武源解放!」

 次にガレオスが呼び出したのはガレオスの身の丈を上回るほどの巨大な大剣だった。

「おいおいおい、そんなもんどっから取り出したんだよ! くっそ、俺だって、巨大なる剣!」

 剣に対しては剣だと思ったアンスも同等のサイズの剣を魔法で生み出して、ガレオスへと振り下ろす。

「面白いな、武器を作る魔法のお前と武器を呼び出す俺が出会ったのは運命かもしれないぞ!」

 八大魔導を前に心の奥底から湧き上がる戦いへの興奮を抑えきれない様子でガレオスは自分の巨大な大剣を振るってアンスの剣を弾き飛ばす。


「今度はこっちの番だ!」

 今が攻め時だと感じ取ったガレオスは大剣をまるで片手剣のような速度で扱い、次々にアンスへと攻撃を繰り出していく。

「くそっ! なんだ、そのでたらめな速度は! “斬りさく刃”!」

 なんとかして新しい武器を生成してガレオスの攻撃を防ごうとするアンスだが、猛攻にどんどん押し込まれて後退を余儀なくされる。

「ほれほれ、どうした対応が遅れてるぞ!」

 迫りくる攻撃を防ぎきれず、アンスの身にはどんどん傷ができていく。傷が増えていくのにつれて彼の中の焦りもまた募っていく。


「くっそ、くっそ! なんだよ! なんなんだよおおおおおお!」

 やけくそ気味になったアンスはでたらめに魔法を放つが、その全てをガレオスに防がれてしまう。更には弾かれた魔法が兵士たちに飛んでいき、周囲の被害を拡大させていく。

「そんな苦し紛れの魔法じゃ俺にダメージは与えられないぞ!」


 しばらくそんなやりとりが続くが、それ以上の目新しい魔法が出てくる様子はなかった。ただアンスの身がボロボロになって、周囲も兵士たちの死体が増えていくだけだった。

「まあ、こんなものか。やはり八大魔導といっても、上の三人とそれ以外じゃ能力に差がありすぎるみたいだな」

「なんだとっ!」

 ガレオスの言葉に自分の力を馬鹿にされたような気持ちになって怒るアンスだったが、視線を向けた先にはガレオスの姿はなかった。

「なっ、どこだ!」

「悪いな、後ろだ」

 どこに行ったかきょろきょろ探す彼の後ろに回ったガレオスは手刀をアンスの首に放ち、そのまま気絶させた。


「五位はこんなものか……というか、こいつが正面に出て来てるってことは……」

 思っていたよりもあっけなく決着がついたことに嘆息しながらガレオスはアンスを肩に担ぎ、城に視線を送った。

 それを見ていた兵士たちは自分たちより圧倒的に格上の化け物同士の戦いに見入って手を止め、そして最終的に八大魔導があっさりとやられてしまったことにショックを受けて武器を手から落す者もいた。こんなのを相手に自分が戦おうとしていたのかと愕然として身体が動くことを拒否してしまったのだ。

「ガレオス! うまくやったようじゃな、八大魔導を倒したとなればこっちの士気は高まり、相手からは戦う気力を奪ったじゃろ。ほれ、見てみい。抵抗するものはおらんようじゃぞ」


 近づいて来たイワオの言葉にガレオスが周囲を見渡すと、兵士たちは短い悲鳴をあげて次々に武器を落とし、両手をあげて降参していった。

「これで、正面は片付いたな」

 まだまだ周囲には生き残っている魔法王国の防衛兵の姿はあったが、誰も彼もがガレオスの圧倒的な力に恐れをなしていた。なんとか抵抗しようとする兵士もいたが、それらは超長距離からのエリスたち第二隊による攻撃で絶命していた。


 ★


 城内


 外がガレオスたちによって騒がしくなってきたころ、そこにはリョウカたち別動隊の姿があった。

「外はうまくやっているようね。あとは私たちが内から崩せば……」

 リョウカが外の音を聞きながらそう言ったところに、土魔法が放たれる。それはこぶし大の石が複数飛んでくるものだった。

「危ない!」

 その魔法は魔法を察知したフランが自分の武器である戦斧ユーリカで叩き落した。


「ちょっと、邪魔しないで欲しいわね。私が用があるのはそっちの女だよ!」

 魔法を撃ったのは以前リョウカと戦った八大魔導大地のフリオンだった。彼女は修道院での戦いで無様に負けたことからリョウカに対して強い恨みを持っていた。

「フラン、ショウ、あなたたちは先に行ってちょうだい。こいつは……私がやる!」

 敵があのフリオンであることを認識した途端、リョウカの目には闘志が宿る。彼女は世話になった修道院の、そこをずっと守り続けていた修道騎士長の敵をとるつもりでいた。

「サカエ隊長、お気をつけて。手負いの獣は危険ですから……」

 そっと告げられたフランの言葉のその意味を理解しているリョウカはただ頷いた。


 自分たちにも果たす役割があるとフランとショウは横を走り抜けていく。リョウカの実力を信じているからこそ、この場を彼女に任せたのだ。

「これで邪魔者はいなくなったわね」

「……確認するけど、あなたが修道院の修道騎士長を殺したの?」

 二人だけになった場でのリョウカの質問にフリオンはなんのことだと目を丸くする。

「騎士長……? あー、なんかそんなのもいたかもしれないわね。でも、あんまり覚えてないってことはどうせ雑魚なんでしょ。どうでもいいわよ。それより、私が戦いたいのはあんたよ!」


 びしりとリョウカへ指をさした強気のフリオンだったが、途端に空気が変わったことを感じる。痛いくらいの殺気がリョウカから放たれたのだ。

「な、なに!?」

「あんたが、騎士長さんを……そう、じゃあ、死んでちょうだい!」

 武源騎士団第三隊長リョウカと八大魔導大地のフリオンの戦いが始まる。


お読み頂きありがとうございます。

誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。


ブクマ・評価ポイントありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ