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第五十三話 開戦


 ほどなくして正面突入組の姿を見つけた城の兵士たちが正門から出てくる。遠目に見ても明らかにガレオスたちは武装しているため、兵士たちも物々しい様子だった。

「貴様らそこで止まれ!」

 そう大きく声をかけたのは城の防衛隊長であった。その後ろでは兵士たちが陣形を組んで様子をうかがっている。

「爺さんどうする?」

「ふむ、そうじゃのう」

 ガレオスとイワオは馬上で相談しているようだったが、その進行を止めることはなかった。


「と、止まれと言っているだろう!」

 防衛隊長は全く止まる様子のみえない集団に焦りを見せる。

「さて、そろそろやってもいいじゃろ」

 そう言うとイワオは馬から降りる。まだ少し正門までは距離があるものの、彼が降り立つと馬は自然と離れていく。

「そうだな」

 頷いたガレオスもそれに続く。にらみ合うようにその場に立って正門の前にいる彼らを見据える。


「わ、わかればいい。貴様らは一体何者だ!」

「ん? わからないのか?」

 防衛隊長は誰がやってきたのかをわかっていないようで、そのことにガレオスは首を傾げる。ここに来るまでの状況的に見て自分たちがくるのをわかっているのだろうと思っていただけに拍子抜けしてしまう。

「そのようじゃな。ならば、宣言せざるをえまい……我々は武源騎士団! 城を! 国を返してもらいに来た!!」

 城を守る兵たちはイワオの宣言を聞いてざわつき始める。武源騎士団といえば魔法王国の人間でも聞いたことはあったが、彼らにとってそれは恐れるほどのものだとは思っていなかったようだ。その武源騎士団が今更何をしに来たのだろうかと思っていたのだ。


「ふ、ふははは! ぶ、武源騎士団だと! そ、その人数で城を取り戻すだと」

 魔法王国でいうところの一部隊ほどの人数しかいない相手を前に面白おかしくなったのか、防衛隊長が大きな声で笑い始めると、それが兵士たちに伝播していく。

「ははははっ、本気で言ってるのか。武源騎士団なんて、いまや過去の遺物だろ」

「あ、あいつら馬鹿じゃねーか? わっははは」

 次々に笑いだす兵士だったが、それを気に留めることなくイワオたちは着々と戦闘準備を終えていく。


「それじゃあガレオス、一発景気づけの一発をやってくれるかの」

「任せておけ」

 ぐっと頷いたガレオスは背中の新しい方の大剣を鞘から引き抜くと、おもむろに大きく振りかぶった。

「おりゃ!」

 かけ声とともにその大剣は真っすぐ兵士たちの中に飛んでいく。風を切り、轟音を立てて飛んでいくその剣は速度は速いが、距離があったため、兵士たちは軌道を読んで当たらない位置へと移動していく。


「どれだけ威力があっても、どこに飛んでくるかわかれば避けるのなんて簡単だ」

 投擲したガレオスを馬鹿にするように兵士たちは笑っているが、笑ったのはガレオスも同様だった。

「ただ、剣を投げたと思ったか?」

 その笑みの理由はすぐにわかった。


 鋭く飛んできた大剣は勢いよく、ただ地面に刺さる。……そう思っていた者が多数だったが、結果は異なった。

 着地と同時に大きな音を立てて、大剣が爆発を生み出した。

「ぐわああああああ!」

 距離をとっていた兵士もみるみるうちにその爆発に巻き込まれていく。

 その爆発は大剣を中心に地面にクレーターができるほどの威力だったため、周囲にいた数十人の兵士が大きなダメージを受けることになり、中には命を失った者もいた。


「これで景気づけになったか?」

「う、うむ……十分じゃ」

 何かをやらかしてくれるとは思っていたが、想像していた以上の結果を残したガレオスに対して、イワオは驚きを隠せずにいた。

「まあ、相手さんはビックリさせられたみたいだな」

 目の前で起こった状況を呆気に取られて見ていた隊員たちはこの結果をビックリで片づけるガレオスに驚いていた。


「よし、それなら行くぞ。あの大剣は回収しておきたいしな。武源解放!」

 ガレオスはそう言うと愛刀を手に走り出していた。先走った行動かとも思われたが、兵士たちが混乱しているうちに一気に片付けようという考えだった。

「まて、いや、みなの者行くぞ!」

 咄嗟にイワオはガレオスを一度止めようとしたが、その判断が間違っていると考えなおして総勢で攻め込むよう声をあげた。


「た、隊長、どうしましょうか」

 爆発を逃れた兵士の一人が困惑のまま防衛隊長に声をかける。すさまじいまでの爆発を目の前に固まっていたが、その声掛けによってなんとか彼はなんとか我を取り戻した。

「ぜ、全員攻撃用意を!」

 笑っていられる状況ではないことは明らかで、慌てた防衛隊長の声を聞いた兵士たちもハッとなって魔法の用意をする。

「うおおおおおお!」

 魔法が発動する前にガレオスは両の手に持った二刀を持ち、最前方にいる兵士に斬りかかっていた。


 鬼神のごときガレオスの攻撃は、準備の整っていない兵士たちを次々に真っ二つに斬り裂いていく。

「うおおお、早く、早く魔法を撃て!」

 それを見た防衛隊長が慌てて兵士たちに指示を出していく。いち早くあの大男を止めなければまずいと本能が警告しているのだ。

「遅い!」

 しかし、兵士たちは魔法を放つ間すら与えられずにあっという間にガレオスに倒されていく。


「くそっ! くそっ! いいから早く撃て!」

 なすすべなく死んでいく兵士たちを目の当たりにして防衛隊長は近くの兵士の背中を叩き、早く魔法を放つように催促する。だが魔法には一定の制御をおこなう必要があり、やみくもに撃てばいいというものではないために兵士は躊躇う。

「し、しかし、それでは仲間に当たってしまいます!」

「構わん! 撃て!!」

 兵士の言葉を無視して防衛隊長が指示をする。下っ端に過ぎない兵士たちは上司の命令に逆らうことができず、慌てて魔法を放つ。


「ぐわあああ、な、なんで!」

 その魔法は当然制御されていないために身内に直撃してしまう。背中に魔法をくらった兵士は何が起こったのかわからず、魔法がとんできた方向に視線を送り、その主が仲間の兵士であることに驚愕する。

「仲間を撃つのはよくないんじゃないのか?」

 それを見たガレオスは敵兵を盾にして魔法を撃った兵士に近づいていた。ガレオスにとって自分の兵を捨て駒のように扱うことが許せなかったのだ。


「ひ、ひいっ! ぐっ」

 兵士は迫りくるガレオスに恐怖のあまり怯えた声を出したが、その瞬間にはガレオスの持つ『紅蓮』が心臓を貫いていた。次第に防衛隊長との距離も縮まっており、今まさにガレオスの一撃が振り下ろされた。

「や、やめ!」

 怯えたように腕を伸ばしてきた防衛隊長は刀が振り下ろされるのがスローモーションに見えた。


 しかしその一撃は当たることはなく、防衛隊長の命は長らえることになる。

「好き放題やってくれたみたいだな。ああん?」

 なぜならば口の悪い男がガレオスと防衛隊長の間に割って入ったからだ。振り下ろされたガレオスの攻撃は口の悪い男の持つナイフによって防がれていた。

「あ、あなたは! 八大魔導の!」

「そう、俺が八大魔導序列第五位、鋼のアンス様だ! そして、お前は弱いから死ね!」

 力強く鋼のアンスと名乗った男はふいに振り返ると、勢いよく防衛隊長の胸にナイフを刺した。アンスが現れたことで助かったと思ってほっとしていただけに、まさか彼に刺されるとは夢にも思っていなかった防衛隊長は大きく目を見開いている。


「そ、そんな、なんで……」

 アンスの一撃は心臓を一突きしたらしく、困惑の表情のまま防衛隊長はその場で絶命する。

「おいおい、仲間じゃないのか?」

 その様子を見ていたガレオスがなぜだといった表情で声をかけた。

「あん? こんな弱いやつは使い物ならないんだからいらんだろ。別のやつを防衛隊長にしとけばいいさ、それこそそのへんにいるやつでも構わないんだしよ」

 仲間の命をなんとも思っていないアンスの様子を見て、周囲の兵士たちが後ずさりをしていく。今度は自分が殺される、そう本能的に感じ取ったのだ。


「他の兵士たちにも怖がられているみたいだが、いいのか?」

「は? それが何か問題があるのか? つーか、お前誰だよ。……あー、答えなくていい、敵だろ? 敵は殲滅するのみだ! “鋼鉄の槍”」

 自分の行動の何がおかしいのか全く分からないアンスは有無を言わせず、ガレオスに向かって魔法で作られた鋼鉄の槍を放った。

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