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第五十一話 出発当日


出発当日


 ガレオスは新品の鎧を身に着けてどっしりと仁王立ちで街の前に立っていた。彼の新しい鎧は白銀の鎧で、ところどころに青のワンポイントが入ったものだった。サイズも彼にピッタリに作られており、背負う大剣と相まって迫力が増していた。

「うむ、やはり新装備というのはワクワクするな」

「あー、まあわからなくはないかな」

 その隣にいたのは、新しく新調した紅のマントを身に着けたバーデルだった。彼は魔法の発動をサポートするための杖も用意しており、それを試すのが楽しみだった。


「お二人とも、装備を試したいのはわかりますが、あくまでも目的は国の奪還だということをお忘れなく」

 それとなく二人を注意するフランだったが、内心は彼女も新しく購入した防具を気に入っており、時折頬が緩んでいた。

「うむ、なんとか取り返したいものだ」

「コラッ、ガレオス。取り返したいじゃなく、取り戻すでしょ!」

 今度注意したのはリョウカだった。彼女の装備も一新されていたが、いつも以上にきりっとした顔立ちの彼女の目は既に自国に向いていた。


「おう、すまんな。始まったら全力でいくから安心してくれ。そのための新装備だからな」

「それ、必要なの? ガレオスだったら武源解放すればいいだけじゃないの」

 防具を新しくしたのはわかるが、なぜ武器まで新しく用意したのかをリョウカは疑問に思っていた。武源解放で得られる武器は自身に宿る力を源にしているため、その武器が一番使いやすいと彼女は思うからだ。武器が多ければそれだけ荷物が増えて動きが制限されるだろうというのがリョウカの考えだった。

「これはいいものだぞ。面白い機能がついているからな」

「ふーん」

 ちらりと大剣を一瞥したリョウカは興味なさそうに返事を返した。ガレオスが必要だと思っているのならそれでいいかと興味をなくしたようだった。


「ふむ、全員揃ったようだな」

 周囲を見渡しながらイワオが各人の顔を確認してそう口にする。その隣にはリーナの姿があった。

「リーナ嬢ちゃん。一言お願いできるかのう?」

 隊員たちを前に、リーナはイワオに頷くと一歩前に出る。その場にいる全員が彼女に注目していた。

「みなさん、私の名前はリーナレシアです。……私は今回の戦いに参加することに後ろ向きでした」

 事情を知っているガレオスたちは沈黙するが、知らされていない隊員たちはざわつく。旗印として同行してくれるのだろうと期待していただけに動揺を隠しきれない様子だった。


「ですが、隊長のみなさんは私の意思を尊重すると言ってくれました。私は悩みました。戦いに同行することは怖いです! みなさんの期待を受けるのが重いです!」

 それはリーナがずっと悩んでいたゆえの言葉だった。ざわついていた隊員たちも必死に気持ちを伝えようとする彼女の姿に静かになっていく。気付けば、皆ひきこまれるようにその姿を見守っていた。

「でも、あの国は私が生まれ育った国です。みなさんがずっと守ってくれた国です! 私は再びあの国に戻りたいです! だから、私の力は微力ですが、それでも国を取り戻す力になれるのなら、私は……戦います!!」

 彼女の等身大の声を聞き、苦しんだうえでこの決断を出したことは隊員たちの心に響いた。


「おおおおおおおおおおおお!」

 その場にいたうちの一人が腕を振り上げて声をあげる。

「姫様と共に国を取り戻すぞ!」

「うおおおおおおおおおお!」

 すると、次々に隊員たちが声をあげていた。ただ守られているだけの姫ではなく、自分の足で立つ凛としたリーナのその姿にいつしか士気の高まった雰囲気が出来上がっていた。



「あ、あの、変じゃなかったですか?」

 そんな盛り上がる彼らの歓声を受けてなにか間違ったことを言ったのではないかと不安に思ったリーナがそっとイワオに尋ねると、彼は笑顔で頷いて返した。

「いい演説じゃったよ。みんなの反応がその答えじゃ」

 緊張でみなの顔を見る余裕がなかったリーナだったが、改めて見渡すとみんなの顔に気合が漲っているのが素人目にもわかった。

「リーナレシア様のお言葉を聞いたな。ここには私を含め五人の隊長がいる、であるならば我々が負けることはない!」

 そんなリーナの肩に手を置いたリョウカが隊員たちに大きく声をかける。それによって興奮は最高潮に達していた。


「うむうむ、いい感じじゃな……それでは皆の者出発するぞ!!」

 まとめ役のイワオの気合の入った声をきっかけに一同は自分たちの母国サングラムへと向かうことになる。

 職人の街にいる者たちはイワオに世話になった者も多く、また隊員たちに武器・防具を提供した者もおり、彼らが見送りにきていた。その見送る声を背に受け、彼らは戦いに赴く。

 彼らの移動には街で用意してくれた馬が使われることになった。


「リーナ嬢ちゃんはガレオスかリョウカと共に進んどくれ。わしはみんなを率いて先鋒に立つつもりじゃて、一緒にはおらんほうがええじゃろ」

「わかりました」

 イワオの指示通り、リーナは徐々に後ろに下がり、ガレオスたちのもとへ移動する。

「おう、リーナ。いい言葉だったぞ」

 ゆっくりと後方に下がって来たリーナに気付いたガレオスはすぐに彼女に並走し、その頭を撫でる。幼いころから見ていた彼女の勇姿を嬉しく思うのだろう。

「あ、ありがとうございます。そう言って頂けるならよかったです」


 同じく彼女の言葉を聞いていたリョウカも思うところがあるらしく、感慨深い様子だった。大人しく深窓の姫であった彼女が人前に立って旗印になる日が来たのを護衛として、彼女の姉的存在として、嬉しく思っていた。

「リーナも大人になったわね……」

「えっ、いえ、そ、そんなことは」

 反対側に回ったリョウカも頭を撫でて来たので、くしゃくしゃになった髪にリーナは慌てた。ずっと共にいたリョウカに認められたことに目じりには涙が浮かんでいた。

「ふふっ、あなたががんばったんだから、ここからは私たちががんばる番ね」

 それに気づきながらもわざと見ないふりをしたリョウカは手を離すと気合を入れなおす。


「リーナのことは、俺とリョウカとフランで守るぞ。バーデルは俺たち以外からの信頼が足らないからな、前に行って爺さんの指示を仰いでくれ」

「わかった」

 ガレオスは歯に衣着せぬ言い方だったが、バーデルはその回りくどくない言い方を気に入ってきており、素直に頷いた。力になれるならば全力でその期待に応えるべく、馬を走らせて前方へとかけていった。

「バーデルがこちらについていることは向こうに知れ渡っているのかしらね?」

 その背中を見送ったリョウカが疑問を口にする。


「バーデルさんは隊長と共に目立つ戦いをしてしまいましたから、敗残兵の中に本国、またはサングラムへと辿り着いた者がいたら既に知られているでしょう」

 冷静にフランは修道院での戦いからそう予想する。八大魔導としては新人だったとはいえ、そこまでの実力者の情報が出回らないとは考えにくいからだ。

「ばれていると思っていたほうがいいだろうな。ばれていなければ、切り札になるかもしれないが……あいつを捨て駒にする必要はない」

 単身で城に入り内側から切り崩すこともできるが、バーデルがこちらについていることが知られており、その先に八大魔導が待ち受けていれば彼の身に危険が及ぶことをガレオスは危惧する。

 自分の元へと引き込んだからには以前のような使い捨ての存在にはさせはしない。ガレオスもバーデルが自分を信じてついて来てくれていることをちゃんと理解していたからだ。


「そうね、そんなことをしなくても私たちなら大丈夫でしょうし……前線のあなたには期待しているわよ、ガレオス」

 にっと笑顔を見せた彼女もバーデルを仲間であると認めており、また仲間たちの実力を心から信じていた。


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