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第四十八話 防具作成


 翌昼前


 ガレオスが散歩から戻るとギルドにはフランとエリスが待っていた。

「おう、待ったか?」

 二人にガレオスが声をかけると、遠目でフランとエリスのことを見ていた男たちが盛大にため息をついていた。

 可愛らしい二人が誰かと待ち合わせをしているのは薄々わかっていたが、その相手が男であること、それがガレオスのような巨漢であることにあわよくば声をかけようと思っていた者たちは肩を落としていた。


「いえ、私たちも来たばかりです」

「ちょうどいい時間ですね」

 そう返事をした二人だったが、彼女たちが一時間以上ここで待っていたことに周囲の男たちは気付いていた。だが彼女たちの気遣いを無駄にしてはならないとそれを口にはせず黙って見守っていた。

「そうか、それならよかった。じゃあ、早速出発するぞ」

 それに気づかないガレオスのことを男たちは睨み付けていた。二人の美女を待たせておいて気遣いまでさせるなどなんて羨ましいんだろうという気持ちが彼らの中で一致していた。


「ん?」

 何かの視線と気配に気づいたのかあたりを見回すが、男たちは既に視線を逸らせていた。

「……まあいいか、防具屋に向かうか」

 特に襲いかかってくるものがないと判断したガレオスが先頭に立ってギルドから出て行く。

「防具屋はあちらのほうに集まっています」

 しかし、外に出てからはフランが先頭で案内を始めていた。


 案内の元、防具屋が集まっているエリアに入り、フランが事前に調べた各店の説明をするがガレオスはどれもピンとこないようだった。

「うーむ、悪くないんだが……これっていうのが見つからないな」

「私が調べておいた以外にも、工房や小さな店もありますのでそちらも当たってみましょうか」

 フランが事前に調査していたのは大きな店に絞っていた。職人の街と呼ばれるだけあって防具屋も大小たくさんの立ち並んでおり、目立つような大きい店以外となると詳細まで調べることはできなかった。

「そうだな……手始めにあの店に入ってみよう」

 ガレオスの視線の先にあった店はパッと見た限り古ぼけていて、とてもいいものがあるようには思えなかった。


「ああいうところにこそ掘り出し物があるんだぞ」

 ガレオスが気に入った昨日の店も小さい店だったが、自分の考えていたいいものを依頼できたため、今度もそうなると考えていた。

「そう、かもしれませんね」

 頬を少しひきつらせて思ってもいないことをフランが口にする。彼はきっと無意識的に野生の勘のようなものを信じているんだろうと思っていた。

「きっとあります!」

 ぐっと握りこぶしを作ってエリスはただただガレオスの言葉を肯定していた。


 ところが店の中に入った一行は、一様に肩を落とすこととなる。

「……これは失敗だったな」 

 それは並んでいる防具はどれも埃をかぶっており、タイプも古臭いものばかりだったからだ。扉は空いていたから営業しているものだと思っていたが、この様子からは長期間放置されていたとしか思えなかった。

「そうですね。……さすがにこれでは」

「残念です」

 フランもエリスもさすがにこの店の様子ではガレオスの肩を持つことはできなかった。


「なんじゃ、騒がしいと思えば客か。この店にはろくなもんはないぞ、わかったらさっさと出て行け」

 店の奥から出てきたのは怪訝な表情の老人だった。

「店主さんですか?」

「ああ、そうじゃ。答えたからさっさと帰れ」

 フランの質問に面倒臭そうに答えると、再び追い出そうとする。すぐにでも彼らに出て行って欲しいというのが露骨に出ていた。


「ふむ、ご老人。この店の品物はどれもこれも古いものに見える。これでは商売にならないのではないか?」

 純粋なガレオスの質問に店主は再び面倒そうな顔になる。

「そんなものはわしの勝手じゃろ。どうせデカイ店に客を取られるんじゃから、どんなものを置こうがわしの店のものは売れんさ」

 不機嫌に吐き捨てた店主の言葉はここにきて本音が漏れたようだった。

「ご老人、この店の品はご老人が作ったのか?」


「お前……老人老人失礼なやつじゃな。わしの名前はボグルじゃ、そう呼んどくれ。それでこの店の防具じゃったな……これはお前の言う通りわしが作ったものじゃ。ずいぶんと昔に作ったものだから、お前が言うように古いものじゃがな」

 店主の老人、ボグルは自嘲気味な笑いでそう言った。まるで何をしても意味がないと言った様子だった。

「だったら、俺の防具を作ってくれないか? 並んでいる防具は古いものばかりだが、どれも作りは丁寧だった。あんたなら俺のサイズにあったものも作れるんじゃないか? あと、俺はお前じゃなくガレオスだ」

 ところがガレオスはボグルの目を真っすぐ見て、オーダーメイドの依頼をし、更には本名を名乗った。ボグルにはそうした方がいいと考えたのだ。


「わ、わしに依頼じゃと? お主正気か?」

 ここまでの流れで自分に依頼をすることに驚いたボグルは思わずそう質問してしまう。

「正気だ。あんたに頼みたい」

 だがガレオスがどこまでも真剣な態度でいたことで、彼と話していくうちにボグルの目には火が灯りつつあった。

「作りが丁寧だと判断したのはわかった……じゃがそれだけでわしに依頼するのか?」


 ガレオスはその問いににやりと笑う。ボグルの目に職人としての熱い気持ちが戻りつつあることを感じ取ったからだ。

「あぁ、俺の防具を作ってくれ」

 すっかり最初の邪険な様子はなくなり、ボグルは目を丸くしていた。

「な、なぜそこまではっきりと言えるんじゃ?」

 次の問いにガレオスは少しだけ考え込む。この巨体を持つ男が何をもってそこまで自分を認めてくれたのだろうかとボグルは緊張しながら待っていた。

「……俺の勘だ!」

 しかしきっぱりと言い放った言葉はなんとも頼りないただの勘だった。


「勘……は、ははっ、ははははっ。ガレオスと言ったな、お前面白いやつじゃな。よし、作ってやろうじゃないか!」

 呆気に取られたあとに大きく笑ったボグルの目は完全に職人のそれになっていた。

「おぉ、ありがたい」

「それで、どんなのがいいんだ? サイズも測らせてもらいたいから、こっちで話をしよう」 

 早速と言わんばかりにボグルは奥にある工房にガレオスを案内する。


「フラン、エリス、悪いな。どこかで時間を潰してきてくれるか? 俺はボグルと防具について話してくる」

「おい、早く行くぞ!」

 すっかり目の前のチャンスに意識を奪われたガレオスが二人に話をしていると工房にいるボグルに急かされる。

「おう、悪いな。今行く」

 呼ばれたことであっさりとガレオスは店の奥に入ってしまい、フランとエリスは埃まみれの店に取り残された。


「……行っちゃいましたね」 

「……そうですね」

 フランとエリスは普段から特別仲が良いということはなく、取り残されたことでどこか気まずさがあった。工房の方からはすでにガレオスとボグルが話し合っている声がうっすらと聞こえてくる。

「……私たちも防具を探しに行きましょうか」

 ここにいても仕方ないと判断したフランが提案する。自分たちも防具を用意しなければならないことには変わりないからだ。

「そうしましょうか」

 エリスもその提案にのることにする。


 二人は店で売っている既製品の装備で間に合うため、フランは防御力の高いものを、エリスは動きやすいものを選ぶ。

 フランは戦斧を使っての近接戦が多いため防御力重視、エリスは動き回っての遠距離攻撃が主体であるため、動きやすさを重視していた。


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