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第四十話 戦闘後の修道院


「あの、そちらの方は?」

 リーナが少し離れたところでこちらを見ていたバーデルに気付いて、ガレオスたちに質問する。彼もまた視線を受けて四人のところへ近づいて来た。

「こ、この人は」

 本来ならば八大魔導の彼は本国を奪った敵と言ってもいい相手だ。慌ててフランが説明しようとするが、その前にガレオスが答える。

「こいつの名前はバーデル、八大魔導の八位だ」

 何も包み隠すことのないその言葉を聞いて、フランとリョウカはもう少し言い方があるだろうと頭を抱える。


 そして、紹介を聞いたリーナは目を丸くして驚いている。彼が八大魔導ということと、敵だと思っていた相手を前にしてもガレオスたちが警戒する様子がないからだ。

「えっ? は、八大魔導ですか? 聞き間違いではなく?」

 困惑しながらのリーナのその問いにガレオスと、バーデル本人が頷いた。

「まあ、八大魔導といっても、元だけどな」

 苦笑交じりに頭を掻くバーデルがそう付け加えたことで、少し空気が軽くなる。リーナも知らず知らずのうちにこわばっていた身体から力が抜けた。


「こいつは、砦で俺と戦って負けたんだ。そして一度話を聞くために氷漬けにしたんだが、俺たちに力を貸すという条件で解放してやったというわけだ。まあ悪い奴じゃないから、連れて行ってもいいだろ」

 ガレオスの真っすぐな眼差しと共に告げられた事実に色々な考えが頭の中を巡ったのち、リーナは一つの答えを出す。

「……わかりました。信じます」

「姫!?」

 その言葉に驚いたのはフランだった。


「勘違いしないで下さい。私が信じるのはガレオス隊長の言葉です。あなたが悪いやつじゃない、とおっしゃるならそれを信じてみようと思います」

 迷いのなくなった表情できっぱりと告げた彼女のガレオスに対する信頼は厚かった。

「おう、バーデルよかったな。これで大手を振って古巣のやつらと戦えるぞ」 

「……そう言われると複雑な気分になるけど、まあガレオスさんの面目を潰さないようにがんばるよ」

 バーデルは敵対していた自分に新たな道を示してくれたガレオスに心から感謝していた。彼の信頼を裏切らないようにしなければと気持ちを新たにする。

「姫がいいならいいわ。それじゃ、修道院で説明をしたら出発しましょう」

 ぽんとひとつ手を叩いて場をまとめたリョウカの言葉に一同は頷いていた。



 ガレオスたちが院内へ入ると、たくさんの傷ついた騎士たちが廊下で治療をしていた。既に医務室は重症の怪我人でいっぱいだったため、軽傷の者が廊下で傷を治していた。

「結構酷いことになってるわね」

 それを横目で確認しながらも先頭を歩くリョウカは応接室へと真っすぐ進んで行く。

 部屋の前まで辿りつき、ノックをすると中から少々疲れた声で返事が返ってくる。

「どうぞ、入って下さい」

 扉を開けて中に入ると、憔悴しきった院長だけが力なく座っていた。


「みなさん、二度もありがとうございました。今回もなんとかここを死守することができました」

 言葉だけならばいいことがあったはずなのだが、院長の表情は疲れ切ったものだった。

「院長先生……」

 ここに来るまでに見た惨状から聖職者の彼の心苦しい気持ちを察したリーナはそんな顔を見て、心を痛めていた。

「院長、私とリーナ姫はここを発つことにしました。今までお世話になりました」

 院長の様子がどこかおかしいと感じながらもリョウカは単刀直入に本題に入った。


「そう、ですか。そうですね、それがいいかもしれません。もう、ここには戦い抜くだけの戦力がありませんから……」

「院長?」

 ガックリと肩を落としている院長の様子が深刻そうであるため、これは話を聞くべきかとリョウカは改めて名前を呼んだ。

「なあ、ちょっと聞きたいんだが、騎士長さんはどうした?」

 そこに質問を投げかけたのはガレオスだった。以前ここを訪れた際に院長の側にいたはずの騎士長が見当たらないことに違和感を感じたからこその質問だった。

「騎士長……彼は亡くなりました……」


 祈るようにうつむいたまま絞り出す院長の言葉にここにいた全員が息を飲んだ。

 これが院長が落ち込んでいる最大の理由だった。騎士長がいたからこそ数少なくなった修道騎士を束ね、なんとかここまで戦い抜けていた。その要がいなくなれば、この先戦っていくことは難しかった。

「そうか、惜しいやつを亡くしたな……なあ、ここにいても次に攻め込まれたらまずいだろ。俺たちは南の森を超えて、その先にある職人の街に向かうつもりなんだが、俺たちと一緒に来ないか?」

 ガレオスの提案は院長にとっては願ってもない提案だった。騎士長がいない今、ここにもう一度体勢を立て直した魔導兵士が迫ればなすすべなくあっという間に潰されてしまうことは明らかだった。

「ガレオス!?」

「隊長!」

 リョウカとフランは驚いてガレオスの顔を見た。


「いや、だってよ、姫がここからいなくなったからといって、あいつらが攻めてこないなんてことにはならないだろ。最大の目的は姫だったのかもしれないが、それでも修道騎士っていうのはどこの国にも所属していない固有戦力だ。やつらが邪魔と思っても、いて助かるとは思わないだろうさ」

 淡々と事実を述べるガレオスの話は最もだった。

「そう、ですね。隊長のおっしゃる通りだと思います」

 フランはすぐにこの先の予想を立てるが、この先、修道院が攻め込まれた際に大人しく降参した場合、姫はいないと伝えた場合など色々なパターンを考えるが、どれにも魔法王国が修道院に手を出さない未来は見えなかった。


「……一つお聞きします、騎士長を殺したのは誰ですか?」

 感情が波立たないように、リョウカは一息自分の中でついたのち、努めて冷静に質問する。ここにガレオスたちよりも長く滞在していたことで騎士長の腕前が修道騎士の中でも頭一つ、二つ抜きんでていたことを知っているリョウカは、彼を殺した相手が誰だったのかが気になっていた。

「それは……私が直接見たわけではないのですが、八大魔導の大地の」

「フリオン!」

 院長の言葉にかぶせるようにリョウカは少し前まで戦っていた相手の名前を口にする。


「そうです。さすがの騎士長でも八大魔導には敵わなかったようです……」

 肩を落としながら頷いた院長の言葉を聞いたリョウカは悔しさからギリッと歯ぎしりをした。頭の中に先程戦ったフリオンの顔がちらつく。

「あいつが……次は殺すわ」

 彼女は止めをさせなかった自分に苛立ちを覚えていた。

「物騒だな。なんにせよ、修道院のやつらを連れて行くってことでいいんだよな?」

 話が横にそれてしまったため、ガレオスが改めて確認をする。


「修道院側で話をまとめてくれるなら、私は構わないわ。ただ、森を抜けるのに戦力は出してもらうけどね」

 ここで感情を高ぶらせても何の解決にもならないとリョウカはフリオンへの怒りを抑えつつ、ガレオスの案を許可する。

「ふむ。ならば院長、みんなへの説明を頼む。残りたい奴は残ってもらって構わない。ただ、騎士長が負けたこと、再び襲ってくる可能性があることは説明しておいてくれよ。俺たちは遅くとも二時間後にはここを発とうと思っているからそれまでに頼む」

 時間はガレオスが今決めたことだったが、あまり時間をかけては次の戦力が攻めて来てもおかしくないからこその時間制限だった。

「わ、わかりました。それでは、早速行ってきます」

 院長は慌てて部屋を飛び出し、院内に残っている者への説明に奔走する。一人でも多く生き延びて欲しいという彼の気持ちがその様子からも伝わって来た。


「まあ、妥当なところじゃないかしら。一時間で説明、一時間で準備ってところね。悪いけどそれ以上は待てないわ」

 院長が出て行った扉が閉まるのを見ながらリョウカはガレオスが設けた時間制限を肯定する。

「な、なあ、姫さんは俺のこと、というよりガレオスさんのことを信じてくれたわけだが……他のやつらには名乗らないほうがいいよな?」

 ここで様子をうかがっていたバーデルがおもむろに口を開く。彼は応接室に入ってからあえて少し彼らと離れたところに立ち、今まで一言も言葉を発していなかった。それは元同僚がここの騎士長を殺したという話を聞いたからだった。

「そうですね、バーデルさんは黙っていて下さい。万が一誰かに素性を聞かれたら、ガレオス隊長の昔の知り合いということにでもしておいて下さい。もしばれたら……」

 フランの鬼気迫る眼差しにバーデルはごくりと唾を飲むと、何度も頷いていた。


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