第二十七話 戦況を覆す強大戦力
「それじゃ、あのあたりから狙っていくか。せーーーーのっと！！」
ガレオスは魔法王国側に狙いを定める。更にいうと修道騎士がいない後ろの方へと大剣を全力で投擲した。それは轟音をたてて一直線に魔法王国の兵士たちに向かっていく。
「武源解放！」
両手に刀を呼び出すとガレオスは大剣を追いかけていく。大剣の強度から考えてこの投擲に耐えうると考えており、使い捨てにするつもりは毛頭なかった。
大剣がすさまじい勢いで地面に突き刺さると、まるで大砲が落ちたかのような衝撃が辺りに満ち、そこを中心に爆風がおきて周囲にいた兵士たちが一瞬で吹き飛ばされた。
「な、何が起きた！」
その変化に兵士たちには動揺が広がっていく。突然の襲撃に混乱が起こっているようだった。
「それそれそれそれ！」
爆心地に注意が集まっている隙に、外側からはガレオスが二刀で兵士たちを切り崩していた。
「お前は誰だ！ ぐああ！」
いきなり現れた大男の正体を問う者もいたが、ガレオスはそれに応えることはなく、疾風と紅蓮で斬りつけていった。
「くそ！ 新手だ！ 修道騎士とは別のやつが来てるぞ！」
最初の大剣が起こした砂煙が晴れて、その時ガレオスの姿を確認した誰かがそう叫ぶ。修道騎士はお揃いの制服のような鎧を身に着けているため、ガレオスが別口だというのは一見してわかった。
「相手は近接武器だ、魔法で応戦しろ！」
その対応は通常であれば正解だったが、ガレオスは既に兵士たちの集団の内側に入り込んでおり、そこへ魔法を使えば仲間を巻き込んでしまう。
「駄目だ！ 味方に当たる！ 近接魔法で応戦しろ！」
魔法にも多様な種類があり、近接戦闘に特化した魔法の使い手もいた。これならば広範囲に効果を及ぼさないため、仲間を巻き込む心配はない。
「喰らえ、水の剣！」
相手に合わせ、攻撃方法を変えて水属性で作られた魔法の剣で襲いかかるが、それは紅蓮に触れた瞬間に蒸発していた。
「悪いが、こちらの火力のほうが上みたいだな！」
「なっ！？」
攻撃が通用せずに混乱する男は疾風によってすっぱりと胴を斬られ、その場に倒れてしまう。
「く、くそ！ 囲んで攻めろ！ 相手はたった一人だぞ！」
指揮をとっている小隊長らしき男が慌てた様に指示を出すが、混乱している彼らに指示は通らず、近くにいるものからガレオスの圧力に負けて、勝手に身体が動いて攻撃動作に入ってしまう。
それは、人としての防衛本能であり、だれにも止めることはできなかった。
「隙だらけだぞ！ それでも魔法王国の兵士か！」
戦っているうちに何一つ手ごたえのない彼らに対してガレオスの怒りのボルテージが上がってくる。こんなやつらに自分たちは城を、国を奪われたのかと。
「い、行け、そいつを止めろ！」
その迫力はオーラとなって周囲に恐怖心を煽る。現状をなんとかしなければと思うものの、上の者も徐々に恐怖に心を支配されて動けず、ただただガレオスを止めることしか口にできなくなっている。
近接魔法が使える者が次々に飛びかかっていくが、ガレオスを中心とした半径１ｍ以内に入り込める者はおらず、あっという間に斬り伏せられていた。
「悪いが、俺は魔法なんて使えないんでな。ずっとこの戦い方をしてるんだよ！」
にわか仕込みの剣術が通用すると思われては心外だと、声をあげながらガレオスは前に進んで行く。その歩を止められるものは未だ現れていなかった。
「魔法発動用意」
だが、ガレオスが暴れている場所から少し距離がある場所では整然と隊列をとり、魔法の準備をしている一団がいた。
「まだだ、まだだ…………よし、今だ！ 撃て！」
その指示を出している彼は別の部隊の小隊長であり、冷静で非情な判断を下していた。たとえ倒れ行く仲間を巻き込んだとしても、近くで戦っている仲間を巻き込んだとしても、今はこの竜巻のように暴れている人物を止めることが最優先である、と。
彼の指示に従い、火、風、水、土、雷と様々な魔法が一斉にガレオスに襲いかかる。
「そうだ、それくらいのことはやってくれよ！」
自分に向かってくる魔法を見たガレオスはにやりと笑った。
「まあ、それくらいじゃ聞かないがな！」
ガレオスは二刀をまっすぐ前に突き出した。それくらいで防げるものではない、兵士も小隊長もそう考えるがすぐにその考えが甘かったことがわかる。
紅蓮は強力な炎を先端から噴き出して、向かってくる魔法を大きな炎の中に飲み込んでいく。疾風は強い風を吹き出して魔法の向きを変えて、そのまま兵士たちに向かわせていく。
結果、兵士たちは自分の放った魔法と紅蓮の炎に飲み込まれてひとり、またひとりと絶命していく。
「俺に魔法は効かないわけじゃないが、あまり安易な使い方をすると死ぬぞ？」
一部始終を見ていた周囲の兵士たちの顔は青ざめていた。自分たちが信じ切っていた魔法の力が一切通用しない大男が目の前に立ちふさがっているのだ。あの手この手で攻めようにもまるで大きな壁が目の前にあるかのようにびくともしない。
「お、お前ら止まるな、その男を倒せっ！！」
上の者たちは恐怖に支配される心を何とか押し殺そうとして大きな声で命令をするが、それに反応できる者はガレオスの戦い振りを見た者の中にはいなかった。
「来ないなら、行くぞ」
「ひっ」
一向に動かない兵士たちにしびれを切らしたガレオスの声を聞いた者は、その場から逃げ出そうとしていた。
「に、逃げるな！ 戦え！！」
その声はむなしく響き、まるで合図だったかのようにガレオスの周囲にいた兵士たちは次々に逃げていく。一人逃げ出せばその騒ぎはどんどん他の者へと一瞬で広がっていた。
「おいおい、戦争に来たんだろ？ たった一人を相手に逃亡なんてなさけないじゃないか」
一目散に逃げだす兵士の様子を見たガレオスは呆れていた。
「た、戦え、ひい！」
命令を出していた小隊長ですら、腰が引けてどすんとしりもちをつくと、慌てて立ち上がりそのまま逃げ出してしまう。
すると、それをチャンスだと捉えた修道騎士が声をあげ、一気に魔法王国の兵士たちを押し返していた。
ガレオスの働きによって戦線が崩れ始めたため、修道騎士たちがこの機を逃すなと全力で向かっていたのだ。
「隊長！」
その中にはフランもおり、足早にガレオスのもとへとやってくる。彼女の手にも呼び出したユーリカが握られており、ここに辿りつくまでの間、何人もの兵士を倒していた。
「おぉ、フランか。あんまり手ごたえがなかったぞ、どうやらこの戦いに幹部連中はいないらしい」
魔法王国の幹部、それは八大魔導と呼ばれる者たちで強力な魔法を操る大魔法使いのことだった。
「彼らが来ていたら修道騎士たちはとっくの昔にやられてしまっていたでしょうからね……むしろいなくて好都合です」
強敵がいなかったことにガレオスはつまらないな、といった表情になり、ひとり魔法王国の陣営に飛び込んでいったガレオスが傷一つないことにフランは安堵の表情になっていた。
「あなたがガレオス殿か、助かりました」
自分たちの役割は果たせたと呼び出した武器をしまって戦況を見守りながら話している二人のもとにやってきたのは、修道騎士を率いる騎士長だった。
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