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第十四話 紹介された宿へ


「それには、仲間が集まることが必要なんです。今は数少ない情報を頼りにかつての仲間たちを訪ねています。さすがに私たち二人だけではどうすることもできませんので」

 フランはそこまで言って視線をアダム、そしてお茶を運んできたカタリナへ視線を送った。

「……少し、考えさせてもらえませんか? 今はこの通り怪我をしているし、なにより一人では決められない」

 アダムは大切な家族のカタリナとミナに視線を送りながら、眉間に皺を寄せて答える。すでに彼は彼一人の存在ではないのだ。

「私は、いけません。でもあなたが行きたいというのであれば、止めるつもりもありません。あそこには、大切な思い出がありますし……あの国には母さんたちが……」

 お茶を並べようとして途中で手が止まったカタリナの表情も悲しみに満ちている。


「お、お母さん、大丈夫?」

 そんな母親の表情を見たミナは慌ててカタリナへと駆け寄った。

「だ、大丈夫よ。なんでもないから、ほらミナもお茶を配るのを手伝ってちょうだい」

 なんとか誤魔化そうとするが、ミナは今も不安そうな表情でお茶配りを手伝っていた。

「うむ、怪我人は足手まといになるから休んでもらったほうがいいだろうな。カタリナもついていてやってくれ。フラン、そろそろお暇しよう」

 ガレオスは早口でそう言うと返事を待たずに立ち上がった。


「ちょ、ガレオス隊長! 俺は!」

「いや、いいんだ。邪魔をして悪かったな……ミナといったか、じゃあな」

 ガレオスはそっとミナの頭を撫でて、そのまま一家に背を向けて家を出て行った。突然立ち上がった彼に遅れないようにフランも一度頭を下げると一家に対してなんと声をかけたものか戸惑い、結局何も言わずにガレオスのあとを追った。

「……くそっ!」

 もちろん心ではガレオスたちと一緒に戦いたかったが、何より怪我をしていては役にたてない、そして今の自分には守らねばならない大切な家族がいることで気持ちが揺れている。せっかく訪ねてきてくれた旧友の彼らに何もできなかった無力感が余計にアダムを苛立たせていた。


 店から出たところでフランはガレオスに声をかける。

「あれでよかったんですか?」

「何がだ?」

 質問の意味がわからず、ガレオスは聞き返す。

「……いえ、いいんです」

 彼にとってはあれが最善の選択だったのだろうと考え、フランは質問をするのをやめる。頭のいいフランはガレオスのこともアダムのこともちゃんとわかっていたのだ。


「さて、次はどうしたものか。別の仲間を探す必要があるな……」

「そうですねえ……」

 人通りが少ないのを確認してから、フランは道の端によって今までの情報がまとめられたメモ帳を確認していく。

「ここ以外だと……うーん、南にある港町で騎士団員の姿を見たという情報があります」

 これはやや曖昧な情報であるため、フランはあまり良い表情ではなかった。


「あの……」

 この街で知り合いがいるはずのない二人に声をかけてきたのは見知った顔だった。

「ん? ミナか、どうかしたのか?」

 声に振り替えると先ほどガレオスに笑顔を見せた彼女は一人だった。

「あの、お父さんとお母さんのこと嫌いにならないでほしいの。あんまり難しいことはわからないけど、フランさんたちについていけないのはきっと私がいるせいだから……」

 申し訳なさそうな表情でそこまで言うとミナは肩を落としていた。


「嫌いになるわけないだろ? それにお前のせいなんてことはない。家族は大事だ、それを守るという気持ちは親として何より優先してしかるべきことだ。お前のお父さんとお母さんは仲間思いだったからな、それが今は家族に変わったということだ」

 ガレオスがミナを慰めるために頭を撫でると、彼女はくすぐったそうに目を細めていた。

「そうですよ、あんな申し訳なさそうな顔をさせてしまってこちらのほうが心苦しいくらいです。ミナさんにも辛い思いをさせてしまったようですから、こちらが謝らないといけないですね」

 ガレオスが手を離すと、フランもかがんで彼女へと声をかける。

「ううん、私は平気。でもよかったあ、急に出て行っちゃったからてっきり嫌われたのかと思って……。そうだ、お母さんから伝言があったんだった!」


 彼女は一枚のメモを取り出して、それを見ながら伝言を二人に伝える。

「もし宿をとるようだったら……中央通りの『親鳥の巣』ってところがお勧めだって伝えてくれってお母さんから」

「ふむ、ではその勧めの通りに宿をとることにしようか」

 ガレオスはわざわざ宿を教えてくるということに何か感じるものがあったため、そう提案する。

「そうですね……じゃあ、お母さんに教えてくれてありがとうと伝えて下さい」

 今度はフランがミナの頭をなでる。

「うん、わかった! また、来てね!」


 二人は笑顔を取り戻したミナの背中が見えなくなるまで手を振っていた。

「……さて、それじゃあその宿に向かおう」

「わかりました。それで、隊長はどう思われますか?」

 宿へ歩きながらの会話している二人だが、ガレオスの歩幅がやはり大きいためフランは早歩きでついていく。

「うーむ、わざわざ宿を指定したということは何かあるのかもしれないな。まああの様子では彼らは敵対することはないだろうから、何か情報があるのかもな」

 ガレオスの言葉にフランも頷く。

「やはりそう思われますか。わざわざミナさんを使いによこすくらいですからね」

 話しながら中央通りに出ると、そこは路地裏とは違ってにぎわっていた。


「これだけ人がいれば俺も目立たないかもな!」

 少しうれしそうに言うガレオスだったが、今度はフランも同意するのは難しかった。

「……十分目立っているかと」

 遠くから見てもわかるくらいにガレオスの身長は行き交う人々よりも頭一つどころではなく、肩から上が飛び出ていた。

「そうか? おかしいな」

 外からは自分の状況を見られないため、わからないようだったが、すれ違う人々どころか遠くにいる人も明らかに人波から浮いているガレオスに注目していた。注目されていることに慣れてしまっている彼はこの状況が特別なものだと感じていないようだった。


「はあ、まあ隊長はそれくらいがいいのかもしれないですね。それよりも早く宿に向かいましょう。いつまでもここにいては目立ってしまいます」

 ガレオスは首を傾げながらもフランの言葉に従い、宿探しに向かう。

 途中で露天商に話を聞くとすぐに宿を見つけることができる。ちなみにこれを聞いたのはもちろんフランだった。


「ここみたいですね」

 その宿は大きな宿であり、多くの人々に利用されているようだった。

「とりあえず二部屋空いているか確認しないとな……」

 そう言って先にガレオスが宿の中に足を踏み入れた。

「ひいっ!」

 と、同時に何かにおびえるような悲鳴が聞こえた。


「いや、なんというか。すまんな」

 頭を掻きながら謝罪するガレオスだったが、大きな声を出して驚いた自分が悪いことを理解している宿の従業員は慌てて取り繕おうする。

「い、いえ、あの申し訳ありませんでした!」

 大きな声で頭を下げる彼女のもとに、宿の店主が慌てて駆け寄ってきた。彼は少し恰幅が良く人の良さそうな顔をしていたが、今は困り顔をしている。

「も、申し訳ありません。うちのものがとんだ失礼を」

 一緒になって頭を下げるが、ガレオスは困って何も言えずにいた。フランは「またか……」と頭を抱えるしかなかった。

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