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第十三話 アダムとカタリナ

「ということは、主人に会いたいというのはお二人ということでよろしいですか?」

 カタリナの質問にもフランが対応しており、当然のように頷いて返す。

「えぇ、アダムさんとお話ができればと思って尋ねました。といっても、どなたか副長がいるらしいという情報しか持っていませんでしたが」

「なるほど……ということは、もしかして?」

 カタリナは彼らが来たということに思い当たるところがあったため、そう尋ねる。


「予想されている通りで間違いはないかと、それで彼にお会いすることはできますか? 怪我をされたと聞きましたが」

 その問いにカタリナは苦笑していた。

「会えますよ。怪我といっても大したことないですから、こちらへどうぞ……あとガレオスさんもそんなに離れなくて大丈夫ですよ。ほら、ミナも怖がらないの」

 カタリナの陰から恐る恐る顔を見せるミナに向かってガレオスは笑顔を見せるが、それが余計に怖かったらしく、おびえるように再度カタリナの後ろに隠れてしまった。


「ううむ」

 ガレオスは唸ったあと頭を掻いていた。

「ふふっ、隊長と面と向かって話すにはもう少し慣れが必要みたいですね」

 すっかり彼女にとってこれは見慣れた光景であるため、フランは笑っていた。

「す、すいません。こら、失礼でしょ!」

「いやいいんだ。俺は気にしていない。それよりも怖がらせてすまなかった」

 ミナを叱ろうとするカタリナだったが、それをガレオスが止める。


 自分をかばう彼にミナはもう一度顔を出すが、ガレオスは先ほどのことから学習しており、あえて視線をそらしていた。

「ミナちゃん、見た目は怖いかもしれませんがいい人なのでそれだけは分かってあげて下さい」

 フランが彼女の目線の高さに合わせてそう声をかけると、少し間があったがミナは大きく頷いた。

「あの……怖がってごめんなさい」

 ミナはガレオスの前までいくと、そう言って謝る。すぐにカタリナのもとに戻っていったが、少し進歩したと言えた。


「おう」

 ガレオスはミナの背中に向かって笑顔でそう応えた。

「それじゃあ、アダムさんのところへ案内お願いします」

「ふふっ、わかりました」

 彼らのやりとりを見て、彼らなら夫のもとへと案内しても大丈夫だなと改めてカタリナは思っていた。


 カタリナはカウンターの奥へ入り、倉庫らしき場所を抜けて更に奥の居住スペースを抜けてとうとう店から出てしまう。

「こちらです。今はこの店は営業していないんです」

 フランとガレオスの疑問に先んじてカタリナが苦笑交じりで答える。

「そうなんですか、どうりで埃がたくさんあると思いましたよ」

「うむ、ボロかったな」

 フランは言葉を選んでいたが、ガレオスは率直に言ったため、フランに睨まれることとなる。


「くすっ、いいんですよ。本当のことですから」

 カタリナは歯に衣着せぬ物言いのガレオスに噂の通りだと笑っていた。

「す、すいません」

 フランが代わりに謝るが、それにもカタリナは首を横に振って笑顔で返した。

「私自身もあの店にいくのは久しぶりでしたからね。それよりもそろそろうちにつきますよ」

 そこには一軒の家が建っていた。家の作りからみて裏口であるようだったが、扉のサイズは大きめだった。


「どうぞおはいり下さい。少し狭いかもしれませんが」

 促されるままに中に入ると、そこには道具類の入った箱が積まれていた。

「こっちも店なのか?」

「そうだよー! あっちのお店は古いほうで、今はこっちに移転したんだよ」

 ガレオスのつぶやきに答えたのは笑顔のミナだった。先ほどまでの警戒心の強さはどこかに消え、ガレオスに慣れた様子だった。ここまでの言動を見て悪い人間ではない。そして自分の周りにはいないタイプの面白い人間! という評価になっていたためだった。


「ほほう、それであっちはあんなにボロっちかったのか」

「うん、ボロボロー!」

 最初に話した時は固い言葉遣いの彼女だったが、今の口調が本来の姿のようで、子供らしさが感じ取ることができ、ガレオスも笑顔になっていた。

「こちらになります。あなたー、フランさんたちがいらっしゃいましたよ」

 彼女は一つの扉をノックするとあえてガレオスの名を口にせず、フランの名前を出して中にいるはずのアダムへと声をかける。

「おー、入ってもらってくれ」

 すぐに返事が返ってきて、扉が開かれる。


 中に入るとそこはリビングになっていて、大きなローテーブルの周りにソファが置かれている。

 迎えてくれたのは、アダム=リードルード。カタリナの夫でミナの父。彼の髪はこげ茶色で、元騎士隊員らしくその肉体は引き締まっている。あご髭を生やしているが、それは綺麗に整えられていた。

「これはこれは、お久しぶりです。フランさんと……えっと」

 妻がガレオスの名前を口にしなかったことから、そのまま呼んでいいものかと躊躇する。

「今の俺のことはゴールと呼んでくれ。よろしくな」

「わかりました。それではゴールさん、お久しぶりですね」

 すぐに事態を飲み込んだ彼は右手に包帯を巻いていたため、左手を差し出し握手を交わす。


「どうぞお座り下さい」

 ガレオスは一人で一つのソファに座り、フランは隣のソファに腰かけた。

「私はここー」

 それはガレオスの隣だった。一人でソファを占領したと思ったが、隣が少しだけ空いていたためその隙間にミナが腰かけた。

「おい、ミナ」

 カタリナはお茶を入れにいったため、叱るのはアダムの役目だった。


「ぶー、ここに座るの!」

 彼女はふくれっ面になりアダムに反抗する。その表情には両親の前では気を張る必要がないため、子供っぽい様子が見られる。

「構わない。ここに座りたいなら座っていいぞ」

 ガレオスが笑顔でミナにそう言うと、彼女は笑顔でガレオスにもたれかかっていた。

「すいません。それで、今日はどういったご用件でしょうか? まあ、おおよその見当はつきますが……」

 愛娘の懐きように苦笑したアダムはまだお茶は出ていなかったが、さっそくと言わんばかりに二人に話を促した。


「それでは私のほうからお話させて頂きます。まず私たちですが、ここから西にある独立都市ピューリッツに数年間いました。そこを拠点にして、各地の情報を集めていました。目的は……我らの本来の住処を取り戻すことです」

 フランのその言葉はアダムの表情を一層真剣にするに足るだけの力を持っていた。


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