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第十二話 道具屋の娘ミナ


 フランが集めた情報を元にやってきたのは一件の道具屋だった。

「ここか?」

「はい、私が集めた情報では……」

 その店、というよりも、店がある通りは閑散としており、周囲に人の姿は見られなかった。目の前の店の外観は古ぼけており、よどんだ窓から店の中を伺うことはできなかった。

「とりあえず入ってみよう」

 ガレオスは扉に手をかけて開けようとする、が立て付けが悪く、扉はガタガタと音をたてるだけでなかなか開かない。


「固いな。よいしょっと」

 どうにかしようとしたガレオスが少し力を入れるとようやく扉は開いたものの、扉自体が外れてしまった。

「あー、これは……仕方ない、よな?」

 ガレオスは扉のノブに手をかけて外れたしまったそれをノブを支えに持ったまま、フランに振り返った。

「はあ、そうですね。とりあえずそこに立てかけて中に入りましょうか」

 フランは片手で頭を押さえながら、仕方ないと判断して中に入ることを促した。


「おーい、誰かいるか?」

「失礼します。どなたかいらっしゃいますか?」

 二人は店の中に入るとそれぞれ声をかけていくが、反応はなかった。

「誰もいないのか?」

 ドカドカとガレオスが店内を歩くと埃が舞う。どうやらしばらくの間、この店は使われていないようだった。


「こいつはハズレか?」

 埃が舞う中、ガレオスは店の惨状に顔をしかめる。

「うーん、情報ではここなんですけどねえ。違うとなると他を当たらないとですね……」

 持っていた布で口元を押さえているフランは肩を落としながらも次の目的地を頭の中で考え始めていた。

 すると、カウンターの奥のほうから音が聞こえてくる。

「ん? 誰かいるのか?」

 ガレオスが音のなるほうへ声をかけると、奥の部屋から恐る恐るといったようすで少女が出てきた。


「あ、あなたたちはだれですか! う、うちのお店に一体なんのようですか!」

 幼いその声は震えていたが、それでも勇気を出して侵入者であるガレオスたちに立ち向かう。

「勝手に店の中に入ってしまってすいません。私たちはこの街に今日来たばかりで、この店の店長さんに用事があってきたのですが……」

 フランはかがんで目線を下げて、少女の目を見ながら優しく語り掛ける。

「い、今はうちはやってないです。お、お父さんは怪我して休んでいます」

 彼女は未だに震えた声だったが、比較的好意的なフランの質問にはしっかりと答える。声が震えている理由はチラチラとガレオスのことを見ていたためだった。彼の大柄で屈強な出で立ちは幼い彼女には大層恐ろしいものに見えているのだろう。


 当のガレオスは自分が声をかけると少女が怖がってしまうと分かっていたので、汚れた窓から見えもしない外を眺めるふりをしていた。

「そうですか、そのお父さんに会わせて頂くことはできませんか?」

 フランはあくまで彼女を一人の女性として対応する。初対面でもこれだけきちんと大人に対して対応できている彼女は芯がしっかりしており、子供だと侮っては心を許してもらえないと考えたためだった。

「う、うーん。お姉さんたちは何者で、お父さんに一体なんの用事なんですか?」

 彼女が口にしたのは当然の疑問だった。父に用事があると言っても、素性のしれない二人が急に訪ねてきたのだ。特に一人は巨大で、その顔も彼女にとって恐怖の対象であったためだった。そんな二人をおいそれと父のところまで案内してもいいものかと考えていた。


「私たちはお父さんの昔の仲間です。お父さんが昔、別のお仕事をしていたという話を聞いたことはありませんか?」

 フランにそう言われて少女はしばし考え込む。

「うーん……前にお酒飲んで酔っ払った時に言ってたかも。なんかどこかのお城で働いていたとかって。でも、そのあとお母さんにすっごく怒られてた。……なんか言っちゃいけないことなんだって」

 彼女はそこまで言ってよく知らない他人にそれを話してしまったことに気付き、慌てて口を押えた。

「大丈夫、私たちはそのことを知っています。その時にお父さんと同じ場所で働いていたんですよ」

 最後の言葉と同時にフランは笑顔になる。


「うぅ、どうしよう。あ、あのお母さんと相談してからでもいいですか? それまでここで待っていてほしいんですけど……」

 勝手に決めて怒られてはと考えた彼女の最適解が母に相談するというものだった。

「はい、それで構いませんよ。いいですよね?」

 フランに話を振られたガレオスは無言で頷き返した。

「それではお願いしますね。えっと……私の名前はフラン、あちらの大きい方はゴールといいます。よろしければお名前を聞かせてもらえますか?」

 名前を聞こうとしたフランは自分たちの名前から先に名乗り、彼女に名乗らせやすくした。ここでは念のためガレオスのことはゴールと偽名で紹介した。

「私は……ミナです。それじゃ、お母さんのところに行ってきますね」

 ミナはぺこりと頭を下げると、再びカウンターの奥に戻っていった。


「もういいですよ。何も見えないでしょ」

 フランはミナの姿が見えなくなったのを確認してからずっと無言を貫いていたガレオスに声をかける。

「ううむ。あの子、ミナといったか……やはり俺のこと怖がっていたよな?」

 彼は何とか怖がらせまいとしていたが、ミナの視線が彼の方向を向いていたのをひしひしと感じ取っていた。

「ふふっ、しっかりした子でしたからちゃんと話してみれば大丈夫ですよ。最初は抵抗があるかもしれませんけどね」


 それでもガレオスは眉間に皺を寄せる。

「だといいんだが……それよりも、あの子が副長の誰かの娘なのか?」

「そうですね。彼女の父親は城で働いていたとのことですし、私の情報でもここの店主ということなので恐らくは……」

 二人はミナとの約束の通り店の中で待機していたが、彼女が戻ってくるまでに時間があったのでこの埃まみれの店の掃除を始めていた。たとえ目的の人物ではなかったとしても、この現状を放っておくことは二人にはできなかったのだ。

 ガレオスは棚の高い部分や照明まわり、そして窓を担当する。フランは主に床の掃除を担当していた。


 掃除が半分程度まで進んだところで再びカウンターの奥から誰かがやってくるのがわかった。

「えっ? なんか綺麗! ってお掃除してくれたんですか?」

 ミナは店の中を見て驚いていた。そして彼女の後ろから母親らしき人物がやってくる。

「あら、あなたたちは……たしか七番隊の」

 入ってきた女性は二人も知っている顔だった。彼女はすらりとした女性らしい体つきながらも身のこなしには騎士だったころの名残が感じられる。

「やはりあなたでしたか。お久しぶりです、カタリナさん」

 かくいう彼女もガレオスたちと同じ騎士団に所属していた。

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