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この件について上條に相談なんてできない。無理だ。
高里くんが復讐をしようと目論んでいます。わたしも仲間に入れらそうになりました……なんて言えるわけがない。
でもさ、そもそもゲイなのを隠すために女の子と付き合い、ばっさり捨てた上條が一番悪いんじゃない?
まあ、復讐なんて考える高里くんもどうかしているけどさ。
そもそも上條、高里くん、元カノの三角関係の痴情のもつれなんだからさ、わたし関係ないじゃない?
ああ、でも今のわたしの身分は「上條の彼女」だ。カムフラージュのためとはいえ、引き受けてしまったからには仕方がない。それに、何だかんだ言って、わたしは上條を見捨てることなんてできそうにない。
ああ、もう本当に……どうしたらいいんだろう。
あれこれ悩んだ挙げ句、悲しいことに名案なんて思い付かなかった。バイトでもしていたら気が紛れるかと思ったものの、今日はシフトが入っていない。店長にシフトをねじ込んで貰えないか電話をしたら「間に合っている」のつれない一言だった。
どこかで道草しようにも、先立つものが無い。つまりは懐が寂し過ぎるので、余計な出費ができない。
仕方がなく家路につくと、問題の上條がいた。
「な、なんてあんたがここに!」
「ここは俺のうちだ。で、メシは?」
そうでした、ここは上條様のご自宅でした。そしてメシはまったく考えてもおりませんでした。
「すみません……ノープランでした」
そうだ。バイトのシフトがない日は、家メシの日だ。わたしが勝手に決めた事だけどさ。
カレンダーにシフトを書いてあるので、書いていない日はわたしが家でご飯を作る日だと上條も理解していたらしい。
「冷凍ごはんと冷凍カレーを解凍して……なら用意できるよ。嫌なら外食してきてください」
わたしはこれで充分だけど、残り物なんて上條は嫌がるかもね。なかば上條の返事を予想しながら冷凍庫を探っていると、背後から予想外の答えが来た。
「俺もカレーにする。前に作ったやつだろ? 旨かった」
始めて肯定的なことを言われた気がする。ま、それもどうかと思うけど。
「冷凍だから多少味が落ちてるかも」
「別にいいよ。これ、何分レンジにかければいいわけ?」
わたしの手から冷凍ごはんを拐った上條からの質問に「ええと、4分」と答えられたわたしは偉い。
ええ、もうびっくりですよ。
いつもみたいに「お前の飯なんて貧乏くさくて食えるか」くらい言ってくれたら、「あんたの色恋沙汰に巻き込むな!」くらい言ってやったのに。
ああ、でもそんなこと言ったら高里くんに復讐を迫られたことを話すことになるだろうから、やっぱりどっちみち言えないか。
上條の協力を得て完成したカレーライスと冷凍コロッケのせは、予想に反して美味しそうなビジュアルだった。しかも二人で一緒に用意したなんてシチュエーションは、まるで普通のカップルですよ。
ああ、もう! 相手が男でも女でもいいから、もっと一途になって欲しい。
テレビを観ながら食べているから、会話がなくても問題ない。それをいいことに、ああだこうだと考えながらカレーを食べていると、不意にテレビの音が消えた。
さすがに「あれ?」と思って顔を上げたら、上條の怪訝な視線とぶつかった。
「何か、あったのか?」
どうして、こういう時ばかり察しがいいかな?!




