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復習? うにゃ、この場合だと「復讐」の方だよね。
あまりに彼に似合わない単語が飛び出してきたものだから、もしや「復習」の方かと思ったんだけど、そんなわけがない。
「あのお、復讐って……何をするつもりなわけ?」
「さすがに、奴のために犯罪者にはなりたくないしね。なにかいい案はないかなーと思ってさ。斎藤さんに相談したかったんだ」
「相談……」
復讐の相談って。
「奴の弱味、握ってそうだし」
呑気な笑顔で言う台詞ではないぞ。笑顔が悪人めいてきた。
「うまいこと、奴を犯罪に引き込む手口とか考えたんだけど、あいつ無駄に優秀だからさ。難しいなーって。だから、割りと単純な方法がダメージを受けそうかなって思ったわけ」
「単純な方法?」
「アウティングとか」
「アウ?」
「つまり、奴があれってことを周囲に公表するってこと。いくら近年性差別をなくそうとかいってるけどさ、まだまだ上っ面だけで、差別意識なんかそう簡単に消えやしない。だからさ、社会的に抹殺してやろうかと思うんだ」
「なに言ってるの、上條はわたしと付き合っているんだよ。同棲だってしているし」
「ただの同居でしょ」
うわ、バレてらぁ。
「それに、奴は君に恋愛感情は抱いていない」
うう。はっきり言われると傷つくなあ。
「でも、信頼はしていそうだよね」
信頼? 奴がわたしを信頼しているなんて。
「残念ながら、それはないよ」
「へえ、そうかな?」
にたり、と笑う。高里くんの笑顔が黒い、真っ黒に見える。
「悪いけど、そんな話になんて乗れない」
立ち上がろうとすると、その前に手首を掴まれる。
好きだったはずの、高里くんの手。なのに生温い熱に触れた途端、ぞっとするような嫌悪が走る。
「ね、知りたくない?」
「……何を?」
「奴がどれだけ齋藤さんのことを信頼しているか」
まだ言うか。
「だから!」
「齋藤さんは好きなんでしょ? 上條のこと」
不意打ちの質問に、一瞬呆けてしまう。
いやいや、無いから! それこそ有り得ないし!
否定の言葉は喉まで出掛かっているのに、口から飛び出して言葉になってくれない。
好き? わたしが? まさか、そんな。
「だから……違うから」
やっと振り絞った声は、自分でも驚くほど頼りない。
「だよね、不毛だもんね」
不毛。なぜかこの言葉が、胸にガツンと来た。予想外のダメージだ。
なんだ、こりゃ。何か言い返してやりたいのに。喉の奥が熱くなって何も言えない。
「もし齋藤さんがばらしたってことになったら、奴にものすごいダメージ与えられそうじゃない?」
「殺されるから、やめてください」
「大丈夫、俺が守ってあげるから」
嘘くさい。絶対敵前逃亡するに違いない。しかも、守ってあげるからなんて、女子憧れのフレーズをここで使うかなあ。
それにしても、高里くんってこんな人だっけ?
高里くんを見下ろすと、いつもの笑顔を浮かべている。その心なごむはずの笑顔が、今は怖い。
「ねえ。どうすれば許してくれる?」
「奴がくたばってくれたら、かな」
「それ以外で」
「えー、ない」
ダメだ。話ができない。通じるとは、もう思えない。
ああ! もう! どうすればいいんだろう?!




