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「上條と付き合っているって、本当?」

 本日二回目の質問だ。しかも、質問をしてきたのは高里くんだった。




 悲しいかき揚げうどんを食べ終えて、午後の授業に行くかーと立ち上がった時だった。

「おーい、斎藤」

 のんびりした口調。トレイを持ったまま振り返ると、高里くんが手を振りながら歩み寄ってくる。

「久しぶり~」

「同じキャンパスなのにな~」

 ああ、和む。やっぱり高里くんは、わたしの癒しだ。

「デザートにケーキ食べない? モンブラン、結構いけるんだ」

 おお! 高里くんからお誘いを受けてしまった。食う! 食います! と速答したいところだけど、これから授業がある。

 恋する乙女なら単位なんか気にしちゃいられないのだろうけど、残念ながら単位が気になる。これだけ苦労して通っている大学だ。色気より単位だ。

「ごめーん、今から授業なんだ」

「そっかあ、残念」

 うん、本当に残念。涙を飲んで「じゃあね」と立ち去ろうとしたら。

「じゃあさ、授業終った後はどう?」

 え? 食い下がってきてくださいましたよ?

「だ、大丈夫」

「じゃあ3時にまたここで」

「うん」


 そんなこんなで、浮かれて学食に舞い戻ったわけだった。彼はモンブランとコーヒーをすでに用意してくれていて、なんていい人なんだろうと感動したんだけど……そういえば高里くんは何の話をするつもりなのだろうと、この期に及んで気付いたわけだ。

 まあ……実はわたしのことが好きだった……なんて告白であるわけないよね。

 ということは、上條のこと?

「……上條の、ことなんだけどさ」

 ああ、やっぱり。ちょっと悲しくなりつつも、うんうんと話を聞くことにする。

「上條と付き合っているって、本当?」

 疑いを含ませた質問だった。

「ああ、うん。実はそうなんだ」

 スペックの高い上條とわたしが、傍目から見ても釣り合わないことがよくわかった。

 早々にこの設定を撤回できないものかと考えていたら、高里くんから、さらに質問が飛んできた。

「本当に付き合ってるの?」

 高里くんの真っ直ぐな目。まるで見透かされている気がして、思わず息を呑む。

「もちろん、本当に付き合っているよ。こう見えても実はラブラブなんだから! この間だって、授業が終るの待っててくれてさ。恥ずかしいから嫌なんたけど、手、繋いでくるし……って嫌じゃないんだけど、人前でわざわざ繋がなくても」

 ものすっごく真顔のままでいる高里くんの前で、のろけ話を続けれのが辛くなってきた。

「あはは……」

「嘘つかなくていいよ。知っているんだ、清水さんから聞いた」

 清水さん?

 誰だろうと思ったが、ふと清楚な美人の元カノの顔が浮かぶ。

「彼女もさ、今の斎藤みたいだったんだ」

 高里くんの表情が暗く歪む。そんな顔もするんだと驚いた。そして気付いたわけだ。高里くんは清水さんが好きなんだって。

 ざまーみろ、上條。あんたの失恋は決定だ。ま、わたしもなんだけどね。

 心の中で上條を罵っている間にも、高里くんの話は続く。

「自分の保身のために女の子を利用するなんて最低だよ……」

 高里くんの言う「女の子」は、主に清水さんなんだろうな。でもわたしの場合、上條の保身に付き合うことによって、得ているものがちゃんとある。

「わたしたちは違うんだ」

「違わないよ」

 説明に入る前に遮られてしまう。

「みんな言うんだ。わたしたちだけは違うってね。清水さんもそう言っていた」

 目の前のコーヒーに、憎悪の視線を注ぐ。でも顔を上げたら時は、いつもの呑気な笑顔になっていて、思わず息を呑んだ。


「少しさ、痛い目を見せてあげようか。奴に」

「え……」

 一瞬理解ができなくて、高里くんを凝視する。すると、彼は笑みを深めて囁く。


「復讐しようよ、一緒に」


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