村到着
ヘロヘロになりながら歩いていると、ようやく集落程度の大きさの村にたどり着いた。
日は沈みかけていて、オレの腹もペコペコだ…マジ死ぬ。
村は寂れていてよそ者は立ち入り難い印象だ。建物は専ら木造で、傷んで破損した箇所がそのままになっている家が多い。正直、こういう寂れた村だと人に声をかけにくい…呪いとか疫病とか食らったりしないよな…?
「うわーこの村ハズレだな」「お化けとかでそう」「絶対金目の物とかないだろ」「だれだよここに転生させた奴 せめて王都付近にしろよ」「さっさと次行こうぜ」
そう言われても腹が減って死にそうなので、この村で何か食べないと餓死る。
「あんたそこで何してんだい?」
どうしようかと適当にふら付いていたら、白髪頭の背が低いお婆ちゃんから話しかけられた。
『め…あ、いや、道に迷ったんです』
「道に迷ったー?ってことは旅人さんかい?それにしちゃ荷物がないね」
『あ~、荷物も全部なくしたんです。おまけに地図も飯もなくて』
「なんだいそりゃ…それになんだい、あんたその格好は…」
お婆ちゃんに言われてふと自分の今の姿を再認識した。
前世の仕事着のまんまだ…マジか…確かにこれは変だ。
『すみません…』
取りあえず謝る。
「何で謝る」「そういえばこいつ何も装備してねぇw」「普通なんか装備しとくよね…」「さっきの失敗をもう忘れたのか」
『だまれ。状況理解するのに精一杯でそこまで頭が回らなかったんだよ』
「?」
お婆ちゃんの顔が怪訝になる。
「いや、何でもないです!あとすみません、今晩泊まれるところとか飯が食えるところありませんか?お金はないんですけどね…ぶしつけですみません」
金がないのに飯と寝床をよこせ…自分でもなかなか舐めた発言だと思う。冷や汗が出た。でも仕方がない。だってどうしようもないんだから。
お婆ちゃんは少し考えた後、「ウチには何もないけどねぇ…それでもよかったらおいで」と自分の家に案内してくれた。
案内される途中、アホ共が「略奪すればいいだろ」「全員殺してさっさと次いけ」とか言ってきたけど完璧に無視した。
お婆ちゃんの家につくと、緊張から開放されたせいかどっと疲れが押し寄せた。
暖炉やロウソクの火を見ているとつい物思いにふけってしまう。
よく知らない奴を家に入れられるよな~。日本だったら間違いなく110番だわ。今後はどうしよう…ゲームのノリでいうなら、この強さを活かして仕事して金稼ぎかな?
それにしてもお婆ちゃん、なんだかキツそうだ。どうも腰が痛いようで、あたた…って言いながら何か料理を作ってる。
腰の悪いお婆ちゃんがせっせと働いて若者は椅子に腰かける…うん、すげー状況だ。
手伝おうかって声掛ければいいんだろうけど。
う~ん、でもどう手伝えばいいか分からないしな~。
まあただの言い訳だな。ビビってるだけです、はい。…情けない。
そんなこんなしてたら、お婆ちゃんが飯を持ってきてくれた。
シチュー?ってのは分かるけど何が入ってるかは分からん。でも空腹もあってスゲー美味かった。ありがとうお婆ちゃん。
人の家で美味い飯食うと、感謝の気持ちが溢れ出てくるよな!
本当にありがとうございます!
飯を食べた後は、お婆ちゃんとすこし世間話をした。
世間話といってもオレの方はこの世界について知らないことが多いから、出身地とか聞かれても答えられるはずもなく、かなり怪しまれた。
お婆ちゃんの話によると、この村にはもう長い間人が来たことはないらしい。街と村の間に多くの魔物が出現するようになったため、物資の運搬が激減したのが原因だそうだ。近年に至っては完全にストップしたらしい。
「最近じゃ出ていく人ばっかりさ。丁度今朝も家族2組が出てったよ」
ひょっとしてアレかな…?
思い当たる節があったので、荷馬車のことを話したらお婆ちゃんの顔色が変わった。
「その内の1組は村長さんの娘さんとお孫さんだよ。母親の方はアンナ、娘の方はアーリっていうんだ…そうかい…」
「明るくて良い子だったんだよ…」
そういうと、お婆ちゃんは軽い涙を流した。
「お婆ちゃんかわいそう」「アーリちゃん…」「誰かさんが見殺しにしたから」「この涙を笑顔に変えることが出来たんだよね…」
ここぞとばかりにクソ共が入ってくる。
(クソ共が…何でオレが殺したみたいな感じに言ってんだよ…悪いのは全部魔物だろうが)
「ごめんねぇ涙なんか流して。龍一君は気にしなくていいのよ。元々街まで行くのは無理だって分かってたから皆で引き留めてたんだけどねぇ…」
『そうですか…』
これ以上の言葉が出てこなかった。
あと後ろのクソ共がうるさ過ぎ。
しばらく沈黙した後、お婆ちゃんはオレを空き家に案内すると、この事を村人に知らせてくると言って出て行った。