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デブの改革  作者: カルパス
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体脂肪率0%:プロローグ

 そこは白い、そして静かだ。

 しかし、黒くもあった。部屋全体が白を基調とした壁で覆われている事は分かる。ではなぜ黒いのか、それは1か所を除き部屋に明かりが灯っていないからだ。


「起立!」


 年配の男性の厳つい号令が白で統一された空間の静寂を壊した。


 一番奥の席に座している男性は号令をかけた男性とは違い、まるで赤子をあやすかの様な穏やかな声をかけた。暗くてよく見えないが表情は良くも悪くも仏頂面のように見えた。顔の筋肉が硬直しているのではないかと思えるほどに表情に変化がない。年は40代後半~50代前半という所だろうか。おそらく彼が今回の裁判の裁判長なのだろう。


「被告人は前に出なさい。」


 声をかけられた男性は緊張した面持ちで傍聴席に向けて立った。天井の明かりが眩しかったのか男は目を細めている。明かりは男の周り以外には灯っていない。

 こちらの男の見た目は裁判長に比べるとかなり若い。見たところ、20代後半~30代前半という所だ。 普通の裁判とは違う不自然な環境に男は眉をしかめる。


 「被告人、氏名は?」

 裁判長は尋ねる。先ほどの呼びかけとは違い今度の呼びかけは穏やかではない。仏頂面から放たれる言は厳つい男の号令よりも重たく感じてしまう。


 「こ、小菓、小菓公裸こかこうらです。」

 男性が答えた。対して答えた男は裁判長の声の変化に臆したのか返事をする際にどもっていた。


 「よろしい。では被告人を小菓甲裸という呼称で公判を進めます。被告人はこの法廷においてデブであるため一切の人権が認められません。そのため今回の裁判では裁判の様子が全国ネットで放送されています。また、その過程で裁判員や弁護人、検察官、膨張席の方々が映らないように被告人の下にだけ明かりを灯す形で裁判を行わせていただきます。」


 裁判長から野放図のような要求が言い渡される。


 「そ、そんな馬鹿な!俺の何処が肥満だっていうんですか!見ての通り体系はいたって標準。デブと言われる要素はない筈だ!だいたい俺が何をしたっていうんだ!」


 客観的に見ても男がデブには見えない。男の言う通り体系は標準で腹も出ていないし、尻もたるんでいない。もちろん、首が脂肪で見えないなんて事もない。


 「貴様、まだしらばっくれる気か!証拠はあがってるんだぞ!公判前の身体測定で貴様の身長は170cm,体重95kg,BMI35%と出ている!これの何処が肥満じゃないというんだ!」


検察官席から男が発言する。声の感じから30代前半といった所か。


 「そ、そんなもんでっちあげだ!この体のどこに体脂肪がそんなに隠れているんだ!誰が、どう見たってそんな体重あるわけないだろ!体重計が壊れていた可能性だってある。」


 「なら、この写真はどう説明するんだ!」

 検察官の男がスーツの胸ポケットから写真を取り出す。

 写真には小菓甲裸に似た肥満した男が写っている。


 「これは昨日の夜、被告人の就寝前に被告人を撮影した写真です。」


 「い、1日で痩せただけだろ…」


 「人は1日で体系が変わるほど痩せることはなんてできないんだよ!」


 「それができているから俺はここに標準体型で立っているんじゃないか!」


 「ならこれを見ても同じことが言えるかな…」

 検察官の男が隣にいた男性から封筒を受け取る。検察官の男は封筒からスプレー缶を取り出す。


 「そ、それは!?一体どこでそれを!?」

 

 「公判前に我々の近辺をウロウロしていた女が持っていたよ。」


 「何!?」


 「来なさい。」

 検察官が声をかけると細身の女性が現れた。ただ、明かりの下にはいないためシルエットしか見えない。女性と判断できたのは、長髪とスカートが見えたからだ。

 

 「スコール!!どうしてお前がここに!?」


 「彼女は愛野スコール。被告人の恋人と思わしき人物です。被告は公判前にトイレに行くといいトイレに行き、出てきた時には体系が変わっていた。私たちは被告が恐らく公判前に体系を変えてくるだろうと判断し、警察と協力して網を張っていました。被告がトイレに行ったタイミングで彼女が近辺をうろついていたのです。様子を伺っているとトイレの窓から被告にこのスプレーをかけその場を立ち去りました。その後、彼女を捕まえ、ここに連れてきました。」


 「検察官、それは何ですか?」


 「IFND(アイファンド)と言います。簡単に説明するとこれを振りかけられた人間の周囲の空気を冷やし、密度を高くして蜃気楼を生み出します。それによって振りかけられた人間の体系が変化したように周りに錯覚させる事のできる物です。小菓甲裸は公判前に愛野スコールからアイファンドをかけてもらい肥満体が標準体型に見えるようにカモフラージュしています。」


 「な、なんと!」


 裁判所全体の空気が振動する。裁判官、弁護人席、傍聴席などあらゆるところから声がこだましている。

 検察官の男が明かりの下に姿を現し、小菓甲裸の前に出る。

 

 「ですからこの様に、被告人の腹部の少し前方。一見何も無いところをつまみ、捻ってみると…」


 「いたっ、いたたたたたたたたたたた、放せっ!」

 小菓甲裸が検察官の手を払いのける。


 「この様に小菓甲裸が痛がります。私は何も無いところを捻っただけなのに何故か?それはそこに小菓甲裸の哀れな脂肪がはみ出ているからです。」


 「小菓甲裸、それは本当かね?」


 小菓甲裸はどこか諦めた表情で頷く。


 「では、小菓甲裸は自分がデブであると認めますね?」


 「認めます……」


 「小菓甲裸、あなたは碌な運動もせず、暴飲暴食の日々を過ごし、怠惰な日々過ごしていた。そして、デブになった。デブになった後もダイエットをせず、自堕落な日々を送り、周囲にデブとして迷惑をかけ続けた。いまの起訴状に対して被告人はどのような答弁をしますか?」


 「起訴状に書いてある事に相違ありません。わたしは怠惰な日々を過ごしていました。」


 小菓公裸は顔中の皺がくしゃくしゃになり目に涙を浮かべた。そして、その視線は検察官へと向けられる。


 「しかし、どうしてお前たちはアイファンドの情報を入手したんだ!あの情報が洩れる事は絶対にない筈だ。」

 

 「デブに答える義理はない。」

 検察官の男が冷たく突き放す。


 「くそおおおおおぉぉぉぉぉぉ…おえぇぇぇぇぇ」

 小菓甲裸は叫んだ後に嗚咽を漏らした。


「成人している人間の態度とは思えませんね。」

傍聴席から嘲笑と侮蔑の声が聞こえる。


「これがデブの本性なのでしょう。」


「醜いことこの上ないですな。」


「お静かに!」


裁判官が傍聴席を静かにさせる。


 「では、本日はこれにて閉廷します。」


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初めての執筆です。

拙い文章ですが読んでくださった方、ありがとうございます。

更新速度は遅いですが、一生懸命書かせていただきますのでよろしくお願いします。



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