2年後
「ウォオオオン!!!」
と、巨大な木のてっぺんから狼の遠吠えが聞こえる
周りにはそれに答えるかのようにたくさんの動物が僕に向けて鳴き声を発する
ついさっきまで木には大量にいた動物はいつの間にか一匹もいなく、どこからも邪魔が入らないように道を開けられていた
大量の動物が見守る中、十数メートルの助走距離をあけて、灰色の鱗をした両腕に力を込める
そして、地面を蹴るのと同時に両腕を後ろに押し出す
目の前にギリギリまで木を近づけてから、出来るだけ力を込めて上に飛ぶ
木の凹凸に足をかけ、さらに上へ駆け上がる
慎重に脚をかける凹凸、穴、枝を見極めながら
でも、スピードが落ないように気をつけながら駆け上がる
しばらく順調に駆け上がるが、上がれば上がるほど凹凸は少なくなり、枝は細くなる
が、スピードを落とすともう駆け上がる事は難しくなるので、絶対に力を弱めないように確実に上っていく
段々と頂上が近づいてくる
てっぺんで座っている狼がうっすらと見え始めてくる
ギリギリまで近づいてくると、最後の力を振り絞って思い切り駆け上がる!!!
バキバキと、小枝が体に当たって折れていく
視界が葉っぱに遮られつつもしっかりと前を向いていると、視界が光に包まれる
眩しくて目を閉じかけるが、閉じずにしっかりと開いたまま着地出来る場所を探す
そして、着地
ボキッ
「あ………」
着地した枝がおれて、真っ逆さまに落下する
と、狼が僕の服をくわえて助けてくれる
そして、僕を隣の枝に下ろすとまだまだだな、という視線を僕に向ける
「あはは………。ありがと、ポチ」
ポチ、というのは僕が付けた狼の名前だ
名前が特に思い付かなかったので適当につけたが、別に不満はなさそうだったのでそのまま呼んでいる
そのまま枝に立っているとまた折れそうだったので、人化して体重を減らす
「さて、かえろっか 」
まだまだ時間はあるが、あまり長い時間遊んでいると皆が心配するからな
あの城の人達は心配症過ぎる
まあ普通は一人で出歩ける年齢じゃないのだからそれが普通なのかも知れないが
お姉ちゃんにつけてもらった紋章に力を込めて、城を思い浮かべると、紋章が光りだして眼前を包む
しばらくして光が晴れると、見慣れた部屋が現れる
僕が、もう二年間も住んでいる部屋が
♢♦♢♦♢
「お帰りなさいませ」
「ただいまー」
部屋の扉を開けると掃除をしていたヴェラに迎えられる
「お風呂の用意はしてあるので行きましょうか。お掃除したばかりなので部屋に入るのは後にして下さいね」
そう言われて追い出される
いつの間にかヴェラの手には着替えとタオルが用意されていた
「ポチも行きますよ」
僕の後ろで動こうとしなかったポチにも声をかける
この狼は風呂が嫌いなのだ
しばらく歩いていると風呂につく
もうだいぶ慣れたが、やはり部屋から風呂までが遠すぎる
シャワーだけならあるが、風呂は広い城の中でここしかないのだ
そもそもこの世界には湯船に浸かる文化がなく、貴族くらいしか風呂がないようだ
ホントにここに拾われて良かった
「あれ、誰かいますね」
ヴェラが言う通り風呂の籠には誰かの服が置いてあった
まだ早い時間なのに誰だろうか?
さっき言った通り風呂に入る文化が無いので、この城でも風呂に入る人はほとんどいない
僕は毎日ヴェラに入れてもらってるけどね
ヴェラが先に扉を開けて少し中を確認する
僕もその隙間から中を覗く
「ん?だれ?」
すると、中から声が響いてくる
あれは………
「おねえちゃん?」
「アオイ?………ああ、アオイが入るために風呂が入れてあったのね。ごめんね、先入っちゃって」
「それはいいけど………」
めずらしいな、いつもはめんどくさがってシャワーでちょっと体流して終わるのに
「失礼します、一緒に入れさしてもらってもよろしいですか?」
一旦出直そうか迷っているとヴェラがそう言った
「いいよー。私が入れてあげるからヴェラは休憩しててもいいし」
「ふふ、ではそうさせてもらいます」
ヴェラはそう言って帰っていく
休憩してるっていってもどうせ掃除とかしてるんだらうけどね
中で待たせるのも悪いので、さっさと服を脱いで中に入る
お姉ちゃんは湯船に浸かって、風呂に入らないように髪を上で束ねていた
この後に及んで逃げようとするポチの毛を掴みながら桶を使って体を流して湯船に入る
「めずらしいね、おねえちゃんがおふろにはいるなんて」
「ちょっと気分転換にね」
少し暗い顔をして言う
「なにかあったの?」
「ちょっとね………まあアオイが気にすることじゃないよ」
なんだろう、気になるな
そう言えば今日会議があったな
その事だろうか
「もしかしたらお姉ちゃんしばらくお城に居ないかもしれないから」
「なんで?」
「ちょっとマルチェルの方に行かなきゃいけなくなっちゃって」
そう言って心底嫌そうな顔をする
普段から年数回位は行ってるのにそんなに嫌なことがあるのだろうか?
別にいつもはなにも嫌そうにしてないんだが
「いつもより少し長くなりそうだから………あ、」
そういって僕の方を見て固まる
え?なに?
なんかついてる?
「そうだ!!!」
何か思いついたように叫んで僕を見る
「このまえどこか出かけたいって言ってたよね?」
「う、うん」
そう言えばそんなこと言ったっけな
いつも城の中で引きこもってるだけだけでたまーに城下町にお忍びで行くくらいだからな
まあそのあとに森に行く許可が出たからとくに気にする事はなくなったけどね
ちなみに森に行く許可がでた理由は森の周りに囲いが出来たからだ
昔会った二人組みたいな人達は完全に森に入れなくなってるので一人で行ってもとくに危ないことは無くなっている
もし何かあってもすぐに城に戻れるしね
「なら丁度いい」
そう言って僕に向かって笑いかける
「一緒にマルチェルに行こう!!!」
♢♦♢♦♢
「ダメです」
「なんで!!?」
即効でお兄ちゃんに否定されました
「あんな所に連れていけるわけ無いじゃん。かなり減ったとはいえ魔族差別だってあるんだよ?」
「大丈夫だよ、人化だってちゃんとできてるんだし」
「それでも姉さんが仕事中はどうするの?」
「向こうに知り合いいるから大丈夫だよ」
「そもそもなんでアオイを連れてく必要があるの?」
ああ、それは僕も気になってた
いつも外に出ることはかなり渋るのに
「それは………ほら、アオイにいろいろ人生経験させないと」
「………ホントは?」
「ええと………」
かなり悩んでる
なんだ?僕は何をやらされるんだ?
急激に行きたく無くなってきたんだが
「ちょっと耳かして」
そう言ってお兄ちゃんに耳打ちをする
少し話しているとお兄ちゃんの顔が少しずつ曇り始める
しばらくして話し終わるとかなり困った顔になっていた
「ああ……それは………」
「ね?アオイがいた方がいいでしょ?」
「まあ……そうだけど………うーん」
「ねえ、ぼくなにやるの?」
聞いてみた
まあ知らない所に旅行に行けるのだから多少は仕事の手伝いくらいならしてもいいが、あの言い方だとなんか怖い
「ああちょっとお仕事のお手伝いしてもらおうと思ってね」
「まあ………ね?そんなに変なことじゃないけど……」
?
なんだか凄く歯切れが悪いな
「まあそう言う事だからアオイもつれてくよ!!」
そう言ってお姉ちゃんは無理矢理話を終わらせる
「いや、ちょっと……せめて誰かお付きにつけれない?」
「うーん、難しいかな?あそこに普通のメイド連れてくのはね………」
「そうだけどさ………」
二人して困った顔をする
っていうかヴェラはついて来ないのか
「よし!じゃあ僕も行く!!」
「え?」
「おねえちゃんが仕事の間は僕が面倒を見るよ。いいでしょ?」
「え、あー……うん、まあいいかな?」
「学校もしばらく無いし、ちょっとくらい長くなっても大丈夫だから」
なんか良くわからないけど行けることになったらしい
何げに遠出するのは初めてだな
城下町はかなり近いしね
「よし、じゃあ早速準備してくる。いつ出発?」
「四日後。そんなに急ぐこともないけど、まあ早めにやっとくに越したことはないか」
そう言ってお姉ちゃんは背伸びをする
「うーーーん、じゃあ私もいろいろ準備しなきゃね」
そう言って部屋を出ていく
それに続いてお兄ちゃんも立ち上がって部屋を出ていった
「では、私たちも用意しましょうか」
ヴェラがそう言って僕の手を引く
それにしてもマルチェル王国か
ここと違って人間の国なんだよな
どんな所だろうか
一週間に一度投稿したいと言ったのを早速破りました
反省はしています
これから少し忙しくなるので二週間ほど投稿できないです