人化
「では、胸に手を当ててそこに集中してください」
言われたとおりに心臓のあたりに手を当て、集中する
なんだか、体の力が一部に集まっているような感じがする
「魔力が集まっているのがわかりますか?」
僕は頷く
「では、自分の元の姿をイメージしてください」
森の水たまりで見た姿を思い出す
子犬ほどの大きさ、鋭い牙と爪、そして全身にある灰色の鱗
「イメージが固まったら集めた魔力を全身に薄く伸ばして、体の形をイメージの姿になるようにように力を込めてください」
魔力を薄く伸ばす
全身に、均等に行き渡るように少しづつ時間をかけて伸ばしていく
「そう、その調子です」
このまま一気に力を込めて
姿を変える!!!
体が重たくなって2本の足でささえられなくなる
前のめりに倒れるが、何とか倒れこまずに手で支える
自分の腕を見ると鱗がついた2本の前足に変わっていた
………成功、したのだろうか?
近くに置いた大きな鏡をみる
そこにはしっかりと灰色のドラゴンが写っていた
フゥー、とおおきく息を吐いてその場に倒れ込む
やっと成功した………
ここまでどれだけかかった事か………
「ふふ、おつかれさまです。今日はここまでにしましょうか」
そうしてください………
もう疲れました
♢♦♢♦♢
僕がこの城に来てから二週間がたった
この城の生活にも少しずつだが慣れてきた
今僕たちは人化の練習をしていた中庭から移動して屋上の休憩スペースに来ている
周りには花壇があり、いろいろな花が育てられている綺麗な場所だ
「お疲れ様です」
ヴェラさんがジュースを差し出してくる
「お疲れ〜」
オルガさんがお菓子をくれる
………いや、何やってんだあんた
「オルガさん?」
「いや、今日はサボってないから!!!ホントに休憩中だから!!!」
ヴェラさんが詰め寄ると慌てて釈明してくる
今日はってことはいつもはサボってるのか………
「そろそろおやつを作る時間ではないのですか?」
「カミラ様もデニス様もお仕事が忙しいので要らないそうですぅ〜。だから今出したお菓子が今日のおやつですぅ〜」
何この人むかつく
ちなみにデニスというのはカミラさんとカルマくんのお父さんの名前だ
「そう言えばアオイちゃんすごいじゃん〜。もう自由に人化出来るようになったんだね〜」
と、僕の頭を撫でてくる
「アオイ様は素質がありますからね」
「流石黒龍って感じだよねー」
黒龍ってそんなに凄いものなのか?
人化くらいならみんな物心ついた頃にはできるようになってるみたいだからむしろ遅いほうじゃないのか?
「言っとくけど普通物心つくのって早くても1,2年はかかるからね?」
思っていたのが伝わったのか、オルガさんが言う
まぁ、生まれてすぐどころか生まれる前から物心ありましたけど
「魔力の移動を意識して出来るのは凄いコトですよ」
ヴェラさんも褒めてくる
うーん、褒められ慣れてないからどう反応したらいいのかが分からない………
何だか恥ずかしくなってきたので顔を隠して下を向く
何だか小動物を見るような目で見られた
なんとなく目を合わせたくなくなったので外を眺める
……ん?
何だあれ?
「どうした?………ああ、隣国の使者か。そういえば今日は会合だとか言ってたな」
下の門から何人か人が入ってきている
正装を着た偉そうなおっさんの周りを鎧を着た騎士が囲んでいるようだ
「あんなに囲まなくても誰も襲わないのにねぇ〜」
「そういうわけにもいかないでしょう。何があるか分かりませんからね」
「でもねぇ〜。あの大臣私らの事を汚いものでも見るかのように見てくるんだもん」
「あの大臣様くらいだと魔族は危険な存在として教えられてきた世代ぐらいですからね。仕方ないのではないですか?」
「それはそうなんだけどね〜」
オルガさんが歯切れ悪く言う
今話題に出ていた隣国というのはマルチェル王国という国のことだ
僕が今住んでいるダナヴァ王国と数十年前に戦争が終わったばかりでいまだ確執が残っているらしい
数十年たったのにまだ引きずっているのかと思うかもしれないが、戦争の初めが言い伝えになるくらいの時間がたっているのだ
数十年というのは溝を埋めるにはまだまだ短すぎる時間だろう
「では、会議が始まる前に部屋で待機した方が良さそうですね」
「えぇ〜、別にいいじゃんまだここにいても」
「駄目です、鉢合わせするのは少々面倒ですからね」
ヴェラさんはオルガさんの要求をスッパリと断って僕の手を引く
「早く戻らないとホントに鉢合わせすることになりますよ?」
「はいはい………私は夕飯の仕込みでもしてきますよ……」
オルガさんはそう言って厨房の方に歩いていく
「では、私達もお部屋に戻りましょうか」
ヴェラさんはそう言うと僕を連れて部屋の方へと歩き出した
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あー、ムカツク!!!!」
カミラさんがそう言って机に突っ伏す
「お嬢さま、はしたのうございます」
「だってあのオヤジムカつくんだよ!?さっきだってさ………」
カミラさんの専属の従者がなだめるが効果はない
どうやら今日の会議で何かあったようだ
「カミラ、食事の場に愚痴を持ち出すのはやめろ」
「むぅ…………」
デニスさんが叱ってようやく少し収まる
が、カミラさんは納得が行かないようだ
「自分の利益しか考えてないくせに建前だけは一人前でさー。我が国がーとかいいながら自分が甘い汁吸いたいだけじゃん」
「最近の貴族なんてそんな物ですよ。戦争が無くて金儲けがやりづらくなってますからね」
「あいつらだけじゃなくてうちの貴族も金儲けの交渉ばっかなんだよなー。」
よほど怒っているのかカミラさんは止まらない
僕は政治は良く分からないので聞き流して黙々と料理を食べている
「ねぇ、アオイもそう思うよね?」
うわ、こっちに飛び火してきやがった
「子供に分かるわけがないだろう……」
困ってるとデニスさんが助けてくれる
「隣国や貴族との交渉も王の仕事だ。しっかりしなさい」
「父様も手伝ってくれればいいのに」
「王座はもうお前に譲ったんだ。私が出しゃばるところではないさ」
デニスさんがカミラさんをなだめる
って言うかデニスさんってもう隠居してたのか
カミラさんがデニスさんの仕事を手伝ってるんだと思ってた
「アオイはあんな嫌なやつになっちゃダメだよ?」
そう言って僕の頭を撫でてくる
なんかこの二週間で撫でられるのにだいぶ慣れてきたな
最初の頃は少し抵抗することもあったが、最近はされるがままになってる
この体に慣れてきてるのだろうか?
「そう言えばアオイは自在に人化出来るようになったらしいな」
愚痴を聞くのが嫌になったのかデニスさんが話を変えてくる
「え!?ホント!?」
カミラさんがすごく驚いたように言ってくる
そんなに驚く事なのか?
「出来るだけ早くとは言ったけどここまで早いのは予想外だな………カルマの時はもっとかかったのに」
「カルマは変化魔法の才能が皆無だからな」
「付加魔法はすごいんだけどねー。なんであんなに偏った素質を持ってるんだろ」
「付加魔法の方が普通難しいはずなんだがな」
「頭が硬いから教科書どうりの魔法しか使えないんだろうか」
二人とも本人がいないからって言いたい放題言い過ぎだろ
「あの子寮の就寝時間を律儀に守るから学校でも話題らしいよ」
「寮の就寝時間なんか形式だけだろうに………」
「私なんて一度も守った事ないよ」
カルマくんの行っている学校は全寮制のため今ここにはいない
と言っても学校自体はそこまで遠くないので休みの日は結構な頻度で帰ってくる
僕がこの城にきた日も休みだったようだ
「アオイはなんの魔法が得意なんだろうねー?」
「魔力を制御するにはまだ早いだろ」
「人化もすぐ出来るようになったからなんでもできそうな感じがするけどねー」
人化だってまだ完璧じゃないですよ
まともに魔法を使えるようにはまだまだ時間がかかりそうだな………
僕としては炎とか出せるようになりたい
こんな姿でも男の子ですから
「魔法の練習はまだ早いかなー?」
僕が見つめているとカミラさんが少し困ったように言う
「もし魔法が暴発とかしたらたいへんだからね。下手したら魔力枯渇して死んじゃうし」
そんな恐ろしいことになるのか………
無理に練習するのは止めとこ
「ご馳走様でした」
それぞれが料理を食べ終わって箸を置く
僕も食べ終わってヴェラさんに口を拭かれる
「………」
気がつくとカミラさんがこっちを見つめいた
「やっぱりその箸じゃ食べづらいよね……」
と、僕の周りを見て言う
冷静になってみるとひどいぐらい汚れてた
いろいろな料理がボロボロと落ちてテーブルクロスを汚している
「子供用の箸とかフォークとかってなかったけ?」
「服などはカミラ様の着ていたものがございますが食器はないですね」
「でもないとやっぱ不便だよね………」
カミラさんがこちらを見て何かを悩んでいる
「明日って暇だっけ?」
「会合の書類が残っていますが今のところそれだけですね」
「うん………よしっ!!」
カミラさんが笑いかけて来て言う
「お買い物にいこう!!!」
もう少ししたら作品の時間を少し進めようと思ってます
お楽しみに
2015-02-14 本文一部修正