家族
「お帰りなさいませ、カミラ様」
と、十数名のメイドが一列に並び頭を下げる
メイドさんとぼくたちのあいだには巨大な黒い門があり、その奥には黒を基調とした物々しい城がある
「うむ」
と、カミラさんが答える
「妾は一度部屋に戻る。こやつを風呂に入れてやって適当な服を見繕ってやれ」
「かしこまりました。……では、こちらへどうぞ」
と、メイドさんの一人が僕を誘導する
年は10代後半から20代前半というところだろうか
並んでいたメイドさん達の中では若いほうだ
狼もそれに続いて歩いてくる
………いや、まてまてまて
何だこの状況
振り落とされないように必死に狼にしがみついてたら気絶して
やっと下ろされて起きたと思ったらこの状況だよ
なんだよこれ
どこだよここ
困惑しながらもメイドさんに連れられてそのまま城の中に向かって歩く
門の奥で一列になっていたメイドさんたちは縦に二列になり、そのあいだを歩く
通り過ぎたあとはまた一列になりこちらに向けて頭を下げる
なんかあのメイドさんたちすごい訓練されてるきがする
だって頭を下げるタイミングとか動くタイミングがまったくズレないんだもん
スゴイを通り越して怖いよ
「では、頼んだぞ」
「かしこまりました」
カミラさんは城の中に入ったらどこかへ行ってしまった
さっきの話からすると自分の部屋に行ったのだろう
「こちらへ」
とメイドさんに連れられて奥に進む
いやぁ、何ていうか………
広い
とにかく広い
僕の歩く速度が遅いからかもしれないけど入口からもう5分以上歩いてる気がする
そんなになんの部屋があるんだよ
ちなみに狼は城に入る前に押え付けられてどこかに連れてかれた
おそらくあのままでは城には入れないのでどこかで体を洗ってから来るのだろう
………僕もかなり汚れてるんだが入ってきて良かったんだろうか?
後で掃除するであろうメイドさん達に申し訳ないのだが
というか、さっきからメイドさんと二人きりで微妙に気まずいのだが
なんか話しかけた方がいいのかな?
いやでも急に話しかけてなんだこいつとか思わたらどうしよ
でも話しかけないで暗い奴と思われたらそれはそれで嫌だな………
「到着致しました」
と、考えてるあいだに到着したらしい
扉をあけて中に入るように催促してくるので入る
うわ、広
脱衣所だけ見てもそこらの温泉よりも全然広い
しかも何故か和風
城の内装に全くあってない
「では、お召し物を脱いでください」
………うん、わかってたよ?
風呂に来たんだから裸になる事くらいわかってましたよ?
でもさ、僕も健全な男子なわけですよ
いや、今は幼女だけどさ
それでも女性の前で裸になるのは抵抗があるんですよ
いやそんなこと言ったらさっき大量のメイドさんの前で布一枚でたってたわけだけどさ
「………失礼いたします」
僕が行動を起こさないと言っていることがわかってないと判断したのか、ぬがしにきた
ここで抵抗するのもおかしいので、されるがままにぬがされる
………ああ、なんかいろいろ大切なものを失った気がする
メイドさんの前で隠すものなく全裸
転生前だったら軽く警察のお世話になっているところである
メイドさんが布をどこかに置きに行ったので風呂に入ることにする
風呂場の扉を開けるともわっと白い煙が眼前を覆った
予想はしていたが広い
浴場は一つしかないがその広さが半端ではない
煙で隠されているせいか端が見えない
周りを見渡すとシャワーのようなものを見つけた
体がかなり汚れているのでシャワーを浴びてから風呂に入ることにしよう
シャワーの場所まで歩いていったその前に置いてある椅子に座る
ハンドルがあるのでおそらくこれをまわしてお湯を出すのだろう
………温度調整ができないけどお湯でるよな?
ふと、シャワーの近くにある鏡が目に入る
腰まで伸びている艶やかな髪
澄んだ碧眼の瞳
100cmあるかないかくらいの小さな体
凹凸のない体に少しぽっこりと出たお腹
もちろん股には何も生えてない
完璧な幼児体型
3〜4歳くらいの幼女がそこには写っていた
うん、じっと見つめてると犯罪のような気がしてきた
もちろん僕にロリコンの気はないが、なんか罪悪感が出てくる
僕の体だけどね
はあっ、とため息をついてシャワーのハンドルをひねる
ジャァァーっと大量のお湯が出てくる
うわっ、急にいっぱい出てきた!!!
しかも熱っ!!!
うわヤバイハンドル離しちゃったからどこにあるか分かんない
お湯が止めれない
どうしようだれかたすけて!!!
と、パニックになって暴れているとキュッと音がしてシャワーが止まる
「シャワーは急に回すと危ないのでお気おつけ下さい」
と、シャワーを止めてくれたメイドさんはいう
全裸で
「洗っていきますね」
メイドさんはそういうとシャワーを少しだけだし、僕の体を少しずつ洗い始めた
………いや、まてまてまて
何だこの状況!?
何でこの人当たり前のように入ってきてんの!?
ぼく入ってんだよ!?
と、思ったが良く考えたら当たり前のことである
この人達にとっては僕は生まれたばかりの子供である
一人で風呂に入らせる方がおかしいというものだ
実際さっきだってこの人がいなかったら危なかったし
っていうかこの人いつからいたんだ?
入口からここまで結構距離があるから僕がシャワー出し始めてから来たって訳じゃなさそうだが全く気配がしなかったぞ
っておお!!!
あたってる!!!
胸部の膨らみが体に当たってるよ!!!
もう少し自分の体に気を使ってくれよ!!!
と思うが向こうからしたらただ子供の世話をしているだけだ
気にするも何もないだろう
落ち着け僕………
今の僕は幼女なんだ
この人と一緒に風呂に入ることになんの問題もないんだ………
何も考えるな………
無心になってこの状況を乗り切るんだ!!!
♢♦♢♦♢
長い、本当に長かった風呂の時間が終わり、今僕はまた廊下を歩いている
どうやらカミラさんがいる客間に行くらしい
何ていうか……物凄い疲れた
湯船に浸かるにしても体を洗うにしてもすべてメイドさんが手伝ってくれる
それが逆に疲れる
自分の好きにやらせてくれと何回思ったことか
風呂から上がったらいつの間に用意したのか服がおいてあった
もちろん男物な訳がなく下着まで完璧な女物である
左胸にリボンの付いた白いワンピースを着て、髪の毛もきちんととかしてツインテールにまとめられている
われながら物凄くにあっていると思う
だが、男としては何とも微妙な気持ちである
それにワンピースも下着もサイズがぴったりなのは何故だろうか?
この城に僕くらいの子供がいるのだろうか?
聞いてみたい気もするし、聞くのが怖い気もする
「到着致しました」
風呂から客間までは意外と近かったらしい
僕の足でもすぐに着いた
メイドさんが扉をノックする
「失礼します。黒龍様をお連れ致しました」
「入れ」
と、野太い声が聞こえる
カミラさんの声ではなかった
中にはカミラさん以外もいるのだろうか?
ヤバイ、緊張してきた
「失礼します」
メイドさんが扉を開けて横にずれる
入れってことらしい
恐る恐ると中に入る
角の生えた怖い顔のおっさんが睨んできた
「………」
無言で回れ右をする
「待てい」
カミラさんが言う
あ、居たんですね
おっさんが怖すぎて全然見てませんでした
もう一度回れ右をして正面を見る
おっさんはまだ睨んでいる
………僕なんかしたっけ?
「そんなところで突っ立っておるな。そこに座れ」
と、言われたので椅子に座る
……
……………
背が低すぎて机から顔が出ない
「………はぁ、背の高い椅子を用意せい」
カミラさんがため息混じりにメイドに命令する
少ししてメイドさんが子供用の背の高い椅子を用意してくる
………ホントどこから持ってきてんだこんなの
その椅子に座らされてやっとのことで対面する
少し大きい正方形のおしゃれな机に四人の人(?)が向かい合う
奥には白髪の目つきの悪いおっさん
左にはカミラさん
右には十歳くらいの短髪の赤髪の少年が座っている
「さて、早速だが話に移ろう」
カミラさんがいう
「話というのは他でもない、お主を妾の家族として迎え入れたい」
ああさっきもそんなこといってましたね
僕の母親との約束とかで
「妾らはお主の母親には多くの借りがあるのじゃ、その娘を森に残していくのは妾らとしても心苦しい。じゃから、妾らとともに暮らして欲しいのじゃ」
「心配しなくても大丈夫ですよ?ちゃんと私たちと同じ生活を保証します。王族の生活なので何処よりも裕福な生活ができる筈です」
と、赤髪の少年が答える
って言われてもな………
僕としては森で過ごすよりもこっちで過ごした方がいいとおもうんだが………
あの二人組も怖いし
だがこの人達が信用できるかどうかだ
初対面で家族になれと言われても難しい
「ふむ、妾が信用できぬか」
いや、いい人だというのはなんとなくわかるんだけどね?
なにせ異世界ですから
そりゃ慎重にもなるよ
「だが、森にいるよりはここにいる方が遥かに安全なのは分かるだろう?それでも嫌か」
カミラさんが困ったように言ってくる
うーん、嫌ってわけじゃないんだけど……
「よし、ならばこうしよう」
と言ってカミラさんが近づいてくる
そして僕の左手に触り、何か呪文を唱える
すると、ぼくの左手の甲になにか紋章が浮かぶ
「その紋章がある限り、念じればいつでもあの森に行くことができる。そして戻ってくることも出来る。ここでの暮らしが嫌になればいつでも森に帰るがよい。それでどうじゃ?」
うーん、それでもなんか心に残るモノがあるが……
手の甲に念じてあの森を思い浮かべる
すると、紋章が光出して眼前を包んだ
………うん、効果はホンモノみたいだな
目の前にはあの巨大な木が写っていた
もう一度手の甲に念じる
そうすると瞬く間にあの部屋に戻る
「どうじゃ?効果は確認できたか?」
僕は頷く
「よし、それでは我が家族になってくれるか?」
どうせ森に帰っても何もできないんだ、ここで暮らした方がいいだろう
ドラゴンだったらまだしも今の僕は幼女だし
変身の解き方分かんないし
僕はもう一度頷く
「そうかそうか、なってくれるか。では、奴隷の契を結ぼう」
……………は?
今この人なんて言った?
もしかして僕………
だまされた?
「姉様、きちんと説明しないと混乱しております」
少年が言う
「おお、すまぬ、少し先立ちすぎていた」
いや、先立つも何も
奴隷ってだけで勘違いも何も無さそうですが
「すまぬな、我が家のしたきりで我が家の血を継がぬものは養子にもなれぬのじゃ。じゃから、表向きはわがやで雇うということになる。奴隷の契と言ってもそんなに堅苦しいものではない。ただ、我らに反逆が出来ぬようになるだけじゃ。普通に過ごすぶんにはなんの問題もない。そこの使用人たちも皆契を交わしておる」
なるほど、養子には出来ないから奴隷にすると
なんか微妙に納得行かないが仕方のないことならやるしかないだろう
「レベルは1、自由奴隷で構わんな、父様、カルマ」
座っている二人が首を縦に振る
怖い顔のおっさんはカミラさんのお父さんか、カルマと呼ばれた少年は弟だろうか
レベルというのは制限の度合いだろうか
1というのでおそらく一番軽いのだろう
と、カミラさんが僕の首に手を当てる
「汝、妾と契りを結ぶことを承諾するか?」
僕は頷く
すると、体がひかりにつつまれた
「契約完了じゃ」
カミラさんが言う
すると突然三人ともが「はあ〜」とため息をついた
「俺もう断られるかと思ってヒヤヒヤしたわ」
「父様の顔が怖いのがいけないんだよ?完全にビビってたじゃん」
「いや、真剣になるとつい、な」
な、なんだ?
急に雰囲気変わったぞ?
何だこの和やかな空気は?
さっきまでの重苦しい空気はどうした?
「ああ、気にしないで。私達はこっちが素だから」
「一応国で一番偉いからな、他人の前だとあんなふうに仰々しく話さなきゃいけないんだ」
と、カミラさんとカルマ君がいう
「でももう君は家族だからね、あんな他人行儀に話さなくてもいいでしょ?」
まあそうか
王族だもんな
世間体は大事だろう
「そうだ、名は何と言うのだ?」
名前?
名前は………
「あおい………」
と、そこまで言って口を紡ぐ
良く考えたら生まれたばかりのやつが自分の名前を知っているわけが無いだろう
だが、そんな心配はする必要はなかった
カミラさんたちはそう言った僕の方を見つめると、
「アオイ……それが名前か?」
「綺麗な碧の目だし、いい名前じゃない?」
「そうじゃな、あいつの子らしい」
そう、頷いた
………いいのか?それで
それともドラゴンは生まれてすぐ名前を持ってるのが普通なのか?
まあいい
どちらにせよこの世界での名前は必要なのだ
今までと同じ名前の方が何かとやりやすいだろう
「じゃあこれからよろしく、アオイ」
カミラさんが手を差し伸べて笑いかけて
僕も手を握って笑いかける
こうして、僕の新しい生活が始まった
書きだめしてあるのにコピペして綺麗に一話に収まるように繋げたり削ったりして少し手直しすると一話書くのと変わらない労力になってる気がします
2015-02-14 本文一部修正
2015-02-25 本文一部修正