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灰色の黒龍の碧  作者: 生木
0歳(17歳)編
3/21

銀毛の狼

………ヤバイ


一日中歩き回って一度も危険な動物に出会わなかったから完全に油断してた

こんな奴が居るってわかってたらこんな逃げ場のない所に逃げなかったのに


どうする?

意思疎通を図るか?

いや、無理だろう。そもそも今僕喋れないし

喋れても狼には伝わらないだろう


そもそもこの世界では日本語は通じるのだろうか?

まぁもし通じたとしても結局喋れないわけだが


………狼との距離は目測で大体50メートル

今日一日で大分この体での動きに慣れてきてはいるとはいえ、襲いかかられて逃げられる距離ではない


いや、まず襲ってくるとは限らないんじゃないか?


今の僕はドラゴンだ

人間じゃない

襲われる可能性は少ないんじゃないんだろうか?


と、狼を見つめる

狼はだらだらとヨダレを垂らして、こちらに近付いてくる


うん、ダメだな

完全に餌を見る目だ

昔からよくこんな感じの目の人間を見ていたからよくわかる


と、考えてる間にもう狼との距離は30メートルほどになっていた


ジリジリと擬音が聞こえそうなほど静かに一歩ずつ近づいてくる

それに合わせて僕は一歩ずつ下がっていく

だが、すぐに後ろの壁にぶつかってしまった


………もう後ろに逃げることはできない

だが、元の姿程細かには動かせないがこの体にもメリットはある

今日一日過ごして気付いたが、流石ドラゴンと言うべきか筋力がすごい

元の姿だと僕はどちらかと言えば筋力の無いほうだったけどそれにしても力がすごい

軽く握っただけで木に爪痕が残るほどだ


そんな力で突進すれば、たとえ相手が狼でも流石に何とかなるだろう

もし避けられたりしたらそのまま外に逃げればいいので、予想外の出来事さえなければ逃げれるだろう


そんなことを考えてる間にもう狼との距離は10メートルを切っていた


もう少し……

もう少しだけ近づけ……


かなり引き寄せたところで自分の出せる全力を出して飛びかかる

狼はいきなり飛びかかったことに驚いて歩みを止める


一歩目は思っていたよりも調子よく踏み出せた

足をつき、二歩目を踏み出す

全力で

力を込めて

敵をまっすぐ見つめて踏み出した!!!









………かに思われた


が、踏み出そうとした瞬間地面が割れた

比喩でなく本当に地面にヒビが入り、大穴があく


「!?」


くそ、地下洞窟か

しかもかなり深い


恐らくさっきの洞窟の下に更に洞窟があったのだろう

そのせいで床が僕の力に耐えられなくてこわれたのだろう


せめて瓦礫の上に、と思い手を伸ばす

が、届かない


くそ、前世との体のギャップが激しくてまだ遠近感がうまく掴めない


と、地面がもうそこまで近づいてくる

攻めてもの悪あがきとして受身はとったが何の意味もなく………

そのまま僕は意識を失った



♢♦♢♦♢



その半日ほど前、とある城にて………


「生まれたか……。」


と、黒いローブを着た女性は呟いた


「どうされますか?」


隣にいた従者の女性が言う


「もちろん迎えに行くさ」


「では、今お付きの者を読んできます」


「いい、一人で行く」


とローブの女性はいう


「いえ、しかし………。」


「大丈夫だ、すぐに帰ってくる」


「………わかりました。」


従者の渋々ながらも引き下がる


「お気を付けて」

「ああ」


ローブの女性は立ち上がり、部屋を出る

廊下を歩きながら、思い出す

昔からの、友人との約束を

艶美やかな鱗を持ったドラゴンとの約束を


(約束通りお前の子を迎えに行くぞ、クレナイよ)



♢♦♢♦♢



明るい日差しが瞼に当たり、目が覚める

手で目を擦ろうとして、持ち上げて気付く


ああ、僕はそう言えばドラゴンになってたんだった



ここはどこだ?


頭を押し上げて周りを見る

たしか、洞窟に入って、狼に襲われて、地面が割れて………

どうしたんだっけ?


思い出せない


っというか気絶していたのだから思い出せなくて当たり前なのだが


ふと、上を見上げる

大量の木々の間から青い空が見える

下には寝やすくするためか、藁が積もられていた


一体誰が………?


体を起こそうとするが、バランスを崩して倒れてしまう

が、なにか柔らかいものに支えられた

モフっとしている毛が心地よい


何だこれは?


体を起こすと白銀の毛が目の前に映る


そこには白銀の体毛で鋭い牙と爪を持った動物が………


と、その瞬間に後ろに全力で跳んで逃げる

こいつ………さっきの狼だな………


こいつが僕をこの場所にはこんだのか?


助けてくれた?


いや、だがもしかしたら食べるために運んできただけかもしれない

この場は急いで離れた方が賢明だろう


幸いまだ狼は起きていないようだ

このままゆっくりと起こさないように逃げて………


が、その甲斐も虚しく狼がのっそりと起き上がる


くそ………

だがここは外だ

昨日みたいに背後に壁がある洞窟じゃない

逃げようと思えば逃げられるはずだ


と、狼と目が合った

どうする?

襲ってくるか?


急いで逃げる算段を考える


が、狼はこちらを見るとねぐらの藁の中をあさり始めた


………何をやっているんだ?


と、考えていると狼は何かを取り出して、こちらに向けて置く



これは………肉?


肉の塊のようなモノを取り出した狼はこちらに少しだけ近づき、その肉をおいて、少しかじる


………食事をしているのか?

僕を襲う気はないのか?

さっきはあんなに僕を狙う目で見ていたのに?


と、狼はほとんど肉を食べずに藁のところへ戻っていった

そしてこちらを見て、少しだけ顎を上げる


………もしかして、この肉を食べろと言っているのか?


狼を見ると藁の上でじっとこちらを見つめている

襲ってくる気配は全くない



少し迷ったが、食べろと言っているのだ

ここで食べなかったらすぐに限界が来る

まだ藁の中に食料もあるようだったし、襲う気はないのだろう

ありがたく食べさせてもらうことにする



肉に近づき、かぶりつく

油がじゅわっと口の中を満たした

生まれてから初めての食事だ

ドラゴンになって味覚も変わっているのか、生肉でも問題なく美味しく食べられた




………しばらくして食べ終わる

狼は食べ終わるまでずっとこちらを見つめていたが、急になにか思い立ったのかこちらを見て首を少し動かした後、背を向ける


………付いて来いっていってるのか?


まぁどうせこのままでいても行く当てなんてないんだし、肉も提供してくれたんだ

さっきまでと違い、襲う気もないようだしついて行ってもいいだろう


そう思い、僕は狼の後ろについて歩き出した



♢♦♢♦♢



どれくらい歩いただろうか

歩けば歩くほど森の周りの木々も少しずつ少なくなっていって動物の数が多くなってきた


今は体を隠すほどの草むらを歩いている

油断すると狼を見失ってしまいそうだ


すると、前を歩いていた狼が突然立ち止まり、こちらを見て顎を少しあげる


………先にいけと行っているのだろうか?

警戒しながら狼の先を歩き、草むらを抜ける



………そこには、今まで見たことのないような景色が広がっていた


ビル程もありそうな巨大な木

ところどころの枝にはたくさんの動物たちが休息をとっている


元の世界だったら絶対にこんな景色を見ることはできなかっただろう


と、後ろから来た狼に少し小突かれる

早く歩けと急かしているのだろうか


狼について巨大な木の根元まで来た

改めて見るとすごく大きい

何千年の間ここにあるのだろうか?


木の根元まで来ると、狼が木に飛びつき、木のくぼみに脚をかけて、さらに高くジャンプをする

そして瞬く間にで少し上の穴のような場所にはいってしまった


行くかどうか迷いながらも真似をして飛びかかってみる

足をかけたまではいいが、ジャンプができずに落ちてしまう


「ウォンッ」


と狼がこちらを見て鳴く


早く来い、と言っているようだ



今度は少し助走をつけて木に向けて飛びかかる

さっき狼が通った場所と同じ場所に脚をかけ、跳んで登る

今度はしっかりと上に向かって飛ぶことができて、穴に前足をかけて中に入ることができた


狼はそれを見ると、すぐに外に出て木を降りてしまった


………何がしたかったんだ?


そう思いながらも僕も下に降りる

下では狼とその他大勢の動物が集まっていた


僕が近づくとそこに居た全員がこちらを向く

少し戸惑っていると狼がこっちに向かって顎を向けた

こっちに来いと言っているようだ


何があるのかと思いながらもそっちに向かって歩いていくと………


突然、バンッと大きな音が響いた




………なんだ?

何が起きた?



気がつくと周りの動物たちはみんな逃げ出してそれぞれの住処に隠れ始めていた


何か緊急事態か?

僕はどうすればいい?


考えていると狼が突然音のした方に向けて走り始めた

僕もそれにつられて狼に続いて走り出す


………速い

少し気を抜くと見失ってしまいそうだ

だが、こんなところで見失うともう帰ることもできないので必死についていく


すると突然狼が立ち止まり、僕もそれにつられて立ち止まる

そのあとに音を立てないように慎重に歩きながら、少し高い崖の上から下を覗く


「!!!」


二本足で立ち

無地で簡素な服を身にまとい

背中に猟銃を背負った生物


人間が、そこにはいた


「………」


思わず前に出そうになった体を無理矢理抑える


………落ち着け

今出て行ってもあの銃で撃たれるだけだ

まずはしばらく様子を見たほうがいいだろう



一人は四十代位のおっさん、もう一人は二十代前半くらいの青年


なんでこんなところに居るんだ?


昨日一日中歩いてわかったことだが、この森はかなり深い

服装からして狩りに来たのだろうが、こんな奥までただの狩りに来るとは思いづらい

なにか目的があって来たのか、それともただ単に迷っているのか


チラッと隣を見ると、狼は真剣な顔をして人間たちを見つめていた


僕も少し人間たちに意識を集中する


「――が―――じゃ………」


「だが―――は―――だろう?」


なんだ?

何を言っている?


幸い風はこちら向きに流れているので集中すれば何を言っているのかわかりそうだ

そう思い、全神経を耳に向ける


――――――

「本当にそんなのが居るんですか?」


「いるさ、お前もさっき見ただろう」


「確かに見ましたけど………。あれが本物かはわからないじゃないですか。もしかしたら違う動物かもしれないじゃないですか」


「いや、俺の目に狂いはない。こちとら何年ハンターやってると思ってんだ。しかもあれは生まれてからそう時間は経っていないし、まだ近くにいるはずだ」


「そりゃ貴方の目は信用してますですけど………」


「なぁに、もし違ってもこの森の動物を手土産にすればいいさ。珍しい奴らが多いからな」


「だ………だめですよ!!!この森も本当は侵入禁止なんですから!!!生態系崩したりしたらまた魔族と戦争がおきますよ!!!」


「なにをそんなにビビるんだ。魔族と言っても長い戦争に疲れて和平交渉してくるようなやつらだぞ?しかもいまの魔王は女だっていうじゃないか。もし戦争始まっても楽勝だよ、楽勝」


「と、とにかくっ!!目的の物以外は狩っちゃいけませんよ!!! さっきのだって弾外れたからいいものの当たってたら大問題ですよ!!!?」


「わかったわかった。………ったくこれだからおぼっちゃん育ちの奴は」


――――――――――

なんだ?

魔族?

戦争?

魔王?

良く分からないものが多過ぎて頭がこんがらがりそうだ


とりあえず彼らは僕たちに危害を加える気はなさそうだ

あのおっさんの方も危なそうだが青年に咎められているからなにかすることもないだろう

目的の物があって来たみたいだし目的の物以外は手出ししないらしいし


と、また人間の話し声が聞こえてくる


――――――――――――


「しっかしホントに広いなこの森は」


「まぁ大陸最大級の森ですからね。珍しい動物も多くいるので伐採もされませんし」


「こう広いと探すのも疲れる」


「見つけたとしても大丈夫なんですか?相手はただの動物じゃないんですよ?」


「大丈夫さ。伝説の魔族だとしても相手は生まれたばかりのガキだ。2·3発も打てば簡単に捕まるさ」


「分かっていると思いますけど気をつけてくださいね。殺しては元も子もないんですから」


「心配すんな。相手は伝説のドラゴン様だぜ?簡単には死なないさ」


―――――――――――――

「!!!」


今なんて言った?

生まれたばかりの伝説のドラゴン

そしてそれを捕まえる?

それって……………


僕のことじゃないか?


ヤバイ

普段ならまだしもまだ慣れてないこの体で襲われたら逃げることも叶わない

見つかる前に逃げなければ………


そう思い、後ろを向いて走り出そうとする


………だが、それは叶わなかった

走り出そうとした瞬間に足を踏み外して崖の下に落ちてしまう


「!!!」


ガラガラッと

大きな音を立てながら落ていって、地面に体全体を打ち付けて壮絶な痛みが僕を襲う


「!? だれだ!!!」


だが痛がっている暇などない

すぐに人間たちが気付いてこちらに近づいてくる


くそ、速く逃げないと


だが、変なところをぶつけたのか、思いとは裏腹に体は動かない

無情にも人間は真っ直ぐこちらに向かってくる


ちっ、なんでこんなことに………

元の世界で死んで、何もわからないままこの世界で生まれて、ここでまた死んでしまうのか


なんでこうなるんだ

せめて、人間の姿だったら………

こんなことには………









…………人間に、なりたい








人間たちが近づいてくる

とても驚いた顔をしているようだ

そりゃそうか

目的の物がこんなところで倒れているんだもんな



青年がこちらに近づいてくる

ああ、また、こんな、ところで………



青年が僕の目の前に立ってこちらに銃を向ける

そしてしばらくこちらを眺め………




銃をおろした


「大丈夫か?こんなところで何やってるんだ?お嬢ちゃん」



………は?

何を言っているんだコイツは?

目的の動物が目の前にいるんだぞ?

早く殺したらどうだ?


何も言わずただ見つめていると、青年が


「大丈夫?立てる?」


と僕の手を握ってきた









…………うん?

手?


目の前には確かに青年に握られた小さな手がみえた



いや、おかしい

僕はドラゴンだ

生まれ変わってドラゴンになっていたはずだ

じゃあなんで青年に握られている人間の手が見えるんだ?


青年が立たせてくる

下を見ると確かに自分の体から生えている小さな人間の足が見えた



まさか、と思い青年の手から離れる


「あっ、ちょっと!!!」


青年の手から離れた瞬間にバランスを崩して倒れる

だが、構っていられない

這っていって近くの水たまりをのぞき込む


長く艶やかな銀の髪

大きく碧眼の瞳

バランスの整った小さな顔






………3歳ほどの全裸の幼女がそこには写っていた

2015-02-14 本文一部修正

2015-04-10 本文一部修正

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