森の探索
どういうことだ?
その水たまりを見たとき思わず身構える
だが、それは無駄なことだった
僕が身構えた瞬間、水たまりのドラゴンもまったく同じように身構えたのだから
………とりあえず今の状況を確認しよう
僕の名前は青井雄斗
もちろんドラゴンなんかではない
日本で普通に人間として生きていた17歳だ
落ち着け
冷静になって考えるんだ
僕は最後に何をしていた?
頭をフル回転させて最後の記憶を振り絞る
たしか夜、道を歩いていて………
………思い出せない
僕は何をしていたんだ?
少なくともこんなところでドラゴンになるようなことはしていないはずだ
………まあここで止まって考えていても仕方がない
ここがどこなのか
まずはそれを調べなきゃ何もできないだろう
日本って可能性は薄いだろう
そもそも地球ですらないだろうし
僕が知ってる限り、こんな姿の動物は地球にはいなかったはずだ
他の星か、はたまたパラレルワールドか
周りを見た限りただの森であって特に異世界っぽいことはない
ただの森である
まあ止まっていても仕方がない
歩き回って何か手掛かりを探そう
意思疎通のできる生物がいるとありがたいけど………
幸い動きにそこまでの問題はない
体の構造が違うのか二足歩行は無理そうだが、四つん這いで歩いているのと感覚的にはそう変わらない
まずはなんでもいい
この世界についての情報がほしい
そう思い歩き出した瞬間
パキッ、と何かが割る音がした
鱗が硬いのかなんなのかあまり感触はしなかったが、まわりに誰もいないのだ
自分が踏んづけたのだろう
恐る恐る足をどけてみる
いや、前足だから感覚的には手をどけるといいたいとこだがまあいい
そこには卵の殻のような物が落ちていた
何かが孵ったばかりなのか、まだヌルヌルしていた
ふと、前を見る
僕が初めにいた場所
そこには、大きな卵があった
いま自分が小さくなっているのもあるだろうが、それにしてもこの大きさは異常だ
丁度今の僕がそのまま入るんじゃないだろうか
………というかまあ僕が出てきた卵だろう
ここから出てきたということは僕は今生まれたばかりということか
となると転生、というやつか?
僕は宗教家じゃないし今だって夢か現実か半信半疑だから詳しいことは知らないが
だいたい親とかはいないのか
僕は前世の記憶があるからいいが、なかったら生まれたばかりで生きていけないだろう
まあそんなこと言っててもどうにもならないか
パッと見ただの大きなトカゲの卵だし、これは調べなくてもいいだろう
そう思い、僕はまた歩き始めた
♢♦♢♦♢
どの位歩いただろうか
目覚めたばかりの時は東からさしていた日もすでに大分西に傾いている
結構歩いて来てわかったことがいくつかある
まず、やはりここは異世界のようなものとみて間違いないだろう
元いた世界とかなり生態が異なっている
まずさっき見つけた蛇のような生き物
これは比較的元いた世界に近い形をしていたが、長い体に百足のような小さい足が大量についていた
ウサギのようなものもいたが、何故か立派な一本角がついていた
他にも羽根の先に人間のような五本指がついている鳥やらものすごい複雑な角の形の鹿やら其の他にも微妙に形がずれている生物ばかりだった
襲ってくるような動物がいなかったのは幸いしたが………
まぁドラゴンを襲う動物がいるのかどうかは微妙だろうが
と、グゥ〜、と自分のお腹から音が鳴る
………そう言えばこっちの世界来てから何も食べていない
食べられるようなものがなかったっていうのもあるが、このままでは餓死してしまうだろう
ちなみにさっき結構綺麗な川があったので水はちゃんと補給してある
綺麗と言っても異世界のものなので飲めるものかどうかはわからないが背に腹はかえられない
最悪その辺のうさぎでもたべるか…。
と
ポツポツと少しずつ雨が降り出してきた
ああ、さっきからちょっと曇ってきたとはおもっていたけど降り出してくるとは
良く見れば周りにいた動物もいつの間にか居なくなっている
これじゃあどちらにしろ食料は探せないな
とりあえずどこか雨宿りできるところを探して今日はもう休もう
お腹は減ったが恐らく一日で死ぬことはないだろうし、大丈夫だろう
♢♦♢♦♢
ザァザァーっと
雨が強くなってきた頃
僕はちょうど良さげな洞窟を見つけてそこで休んでいた
少し休むと、疲れがどっと体に押し寄せる
いろいろあった上にご飯も食べずに一日中歩き回ってたもんな
ドラゴンになっても疲れるときは疲れるもんだ
今日はもう寝よう
起きたら朝一番で食料を探してこれからについて考えよう
そう思い意識を手放しかけたとき、何か動物のような足音が洞窟に響きわたった
まあこの雨だ
ほかの動物だって雨宿りぐらいするだろう
もしかしたらもともとここがその動物の住処だったかもしれないしね
………そんなことを考えているとその動物が目の前に姿を表す
白銀の毛並み
鋭い目つきに鋭い牙
細身の体だが、見るからに体中にバランスよく筋肉がついている
そして、その立派な口からはよだれがだらだらと垂れている
………飢えた様子の狼が、こちらを眺めていた