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灰色の黒龍の碧  作者: 生木
2歳(19歳)編
15/21

大脱走

焦げ茶色の土が固められただけの今にも崩れそうな壁の道を走り抜ける

壁にはガラスのランプがかけられていて薄暗い道を照らしていた


牢屋から抜け出して記憶を頼りに迷路を歩き初めて約十分

結構な勢いで走ってるとは思うがそこは幼児の体

ほとんどスピードが出ない

もちろん本気を出して人化をとけばもっと速く走れるのだが、今は僕だけでなくセシルもいる

僕は魔族、セシルは人間。基礎体力が圧倒的に違う

僕はまだまだ平気だが、セシルは既に息が切れかけていた


「少し休憩する?」

「まだ大丈夫、休憩なんかしてたら見つかっちゃうし」

「了解」


本人がそう言ってるのならその通りにしておこう

奴らもいつ僕らの脱走に気付くか分かんないし、速く進んどくに越したことはない


しばらく走って、曲がり角に突き当たる


「ちょっとストップ」


そう言ってセシルを手で止める


曲がり角に背をつけ、道の奥の様子を伺う

暗い道がずっと続いていて、生き物の気配はなさそうだ

ここからは何故か土の壁ではなく、木の板で補強されていた

途中から切れているのを見るとまだ工事中なのだろうか

何の為に作っていたのかは知らないが


「大丈夫、行こう」


そう言ってまた走り出す

セシルも苦しそうな顔をしながらついて来る

出来ればどこかで休憩が出来るといいのだが未だ敵の本拠地のど真ん中、休んでいて敵に見つかったら目も当てられない


結構走ってきたがまだ半分も来てないのだ

ぱっと見で見た地図だが、この穴はかなり広かった

恐らく見張りのいるであろう場所も赤くぬられていたが、一番見つかりにくい道を通るとなるとかなり遠回りになる

しかも僕らが入れられた牢屋はかなり奥の方にあったので全力で走っても十五分ほど、見つからないように慎重に行けば三十分はかかる


あの時は男達は皆戻っていったが、ここまで大掛かりに誘拐するのに見張り番がいないのはおかしい

恐らくすぐにほかの仲間が見張りに来るつもりだったのだろう

そう考えるともう脱走がバレていてもおかしくはない

休憩している暇などないのだ


「っ!?ちょっと待って!」


走って勢いついているセシルの服の首を掴んで無理矢理止める

勢い余ってセシルは尻餅をつくが気にせずに慎重に前に進む


そこは土の地面が少し凹んでいて、それが奥まで続いていた


「人間の足跡だね。しかもかなり新しい」

「地図ではここに見張りがいるって書いてあったの?」

「書いてなかった。しかもこれ、途中で急いで引き返してる。多分……」

「僕らの脱走がバレて、ついさっき急いで収集されたとか?」

「だろうね」


そうなると大分めんどくさいことになったな

脱走がバレたかもしれないのは勿論だが、地図に書いてない所に人がいたってところだ

今まで書いてなかったところを選んで通ってきたが、ここにいたとなると最悪の場合あの印は見張りのいる場所ではないという可能性もある


「まあ何にしても進まないことにどうにもならないし、進もうか」

「そうだね。ここまできたら引き返しても同じだろうし」


そう言ってセシルはまた動き出そうとする

その横顔はとても楽しそうだった


「見つかったら死ぬって言うのに随分余裕だね」

「そう?結構僕ビビリだよ?」

「ほんとに怖がってるならそんな顔はしないよ。散々作り笑いしてたくせに本当に楽しそうだし」

「うーん………まあ一回死んでるしね。捕まってもっかい死んでも元通りになるだけだからそんなに恐れてはないよ」

「それでも死ぬのは普通嫌だと思うけど?」

「死なないように逃げてるんでしょ?」


そう言って笑いかけてくる


「それに元の世界と合わせて拉致られるの二回目だしね 」

「どんな生活送ってたんだよ………」

「アオイにだけは言われたくないなぁ」

「僕はいたって普通の生活をしてたよ」

「普通の生活してた人はチラ見で地図覚えたり手錠や鉄格子の扉をピッキングしたりしないよ………ってこんな話をしてる場合じゃないね。早く行かなきゃ見つかっちゃうよ」

「………そうだね。行こうか」


いろいろ聞きたいことはあるがセシルの言う通り時間がないので進むことにする

僕の覚えた地図が信用出来なくなったので、できるだけ神経を研ぎ澄ませながら僕らは奥に進んでいった



◇◆◇◆◇



マルチェルの城下町から西の方向に約150km

高い山に囲まれた場所にある小さな村に沢山の騎士が集まっていた


普段外交もほとんどせずに自給自足で暮らしているため外から人が来るのはかなり珍しいのだがこの日は多くの王国騎士が来ていた


「お待たせいたしました。村長のダンと申します」


と、村の奥から初老の男が歩いてくる


「初めまして。国王直属騎士団第三部隊隊長、クレメンスです。早速ですが、今日急にこちらに来たのは………」

「第四王子様のことですね?」

「はい、どんな些細なことでもいいです。何か情報はありませんか?」

「村のもの全員に聞いたのですが、残念ながら………」

「そうですか……。では、こちらをお渡ししておきます」


そう言って黒色の機械のようなものを村長に渡す


「こちらには特別な魔石を使っていて念じると思っていることが私に伝わるようになっています。どんな些細な事でもいいので、情報が入ったら私に伝えてください」

「もちろんです」

「では、私達は引き続き搜索活動に戻ります。後日、改めてお礼に伺わせていただきます」

「いえいえお構いなく。我々一同、無事見つかることを祈っています」


そう言ってその場にいる村民が全員祈るように両手を合わす

それを見たあと、騎士団一同は村の外に出る


「では、引き続き搜索活動に移る!!ここからは三つの班に分かれて行うので、どんな些細なことでも私に報告しろ!!!では行け!!!」

「「「「おおおお!!!!」」」」


と、叫んで騎士団が各方向に別れて山の中に入っていく


「では、我々もいくぞ」


隊長が残った団員に声をかける

団員は無言で頷いた後、馬を走らせようと手網をにぎる


「まて」

「っ!?」


突如後ろから声が掛かる

その声は決して大きいものではなかったが、冷たく、低い声で隊長たちを震え上がらせるほどの怒気を含んでいた

恐る恐る、後ろを向く


そこには赤い髪を腰まで伸ばし、黒いローブに身を包んだ女性が腕をくんで立っていた


「奴らのアジトは見つかったか?」

「………現在、調査中です。目撃情報がこのあたりで途絶えていて、村などからの情報でこのあたりでは盗賊などはあまり見かけないそうなので急ごしらえで隠れ家を作った可能性が高く、見つけるのは時間の問題かと………」

「なるほど、このあたりにあるのじゃな」


そう言って女性………カミラは山のほうに向かって歩いていく


「待ってください!!!危険です!!!捜索は我々でするので、一度、城に戻って………」

「ほう?」


そう言いかけた隊長に向かってカミラは睨む

さっきよりも明確に殺気を含んだ、光のない瞳で


「妾が、奴らより、劣ると?」

「い、いえ、そういう訳では……」

「貴様のいう事も分からんではないがな、奴らは妾に喧嘩を売ったんじゃ。今妾は国の長としてここにいるわけではない。攫われた家族を取り戻すためにここにいる」

「いえ………ですが、もしもの事があったら………」

「もしもの事など無い。妾の邪魔をするのであれば………」


そう言って隊長の首に手刀をあてる

よける暇も与えないほどの凄まじいスピードで


「貴様も敵とみなす」


と、隊長の目を睨む

隊長は殺気に当てられたのか、尻餅をついて倒れ込む


隊長がやっとの思いで頭を上げると、そこにはさっきまでの出来事がまるで夢だったかのようにカミラは居なくなっていた


「隊長!!!大丈夫ですか!?」

「ああ、平気だ」


そう言って震える足を無理矢理押さえ込んで立ち上がる

騎士団の中でも選りすぐりのエリートだけに与えられる例え熟練の魔法使いが十人束になっても傷ひとつつかないと言われる由緒ある鎧は手刀の一撃で形が変形していた


「あの方だけは敵に回してはいけないな」


そう虚空に向かって呟いた



◇◆◇◆◇



道をしばらく進んでいくと外の光が差し込んでいるのか、薄暗い場所が段々と明るくなってきた

周りもさっきまでとは違い完全に整備された道になっている


牢屋から脱獄してから二十分はたっただろうか

そろそろ追ってが来てもおかしくないのだが、それどころか逆に異様に静かだ

セシルもこの異様さに気付いているのかさっきから顔をしかめている


と、もう何回目かも忘れた曲がり角に突き当たる

僕が警戒のために止まるとセシルも同じように止まり、曲がった先に意識を向ける


「………誰もいなさそうだね」

「うん。この曲がり角を過ぎたらもう外だ。一気に行くよ」

「了解」


そう言って駆け抜ける

ここまで来たらどこから敵が現れても出口まで駆け抜けた方が速い

が、そんな考えは杞憂だったようで特に何事もなく出口にたどり着く


出口は裏口のような小さな扉がついていた

内鍵のようで、鍵はかかっていたが、簡単に開けられるようになっている


「随分簡単にここまでこれたね」


セシルがそう呟く

扉の奥を警戒しているようだ


「まあ、地図上でもこの奥には見張りがいるからね。警戒しといて損はない」

「それってかなり危ないんじゃ………」

「じゃあ引き返す?」

「まさか」

「だよね」


そう言って警戒しながら扉の取っ手に手を掛ける


「いくよ。3……2……1……ゴー!!!」


と、扉を勢いよく開ける
















「………ワオ」


扉の奥には完全武装した数十人の男達が待ち構えていた


「捕まえろ!!!」


そう一人の男が言ったのをさかいに男達が僕らに襲いかかってくる


「来て!!!」


まだ頭がついて来ていないのか、完全に硬直しているセシルの首元をつかみ、人化を解く

この世界でも龍はかなり珍しいため、出来るだけ元の姿は見られたくなかったが、そうも言っていられない

僕たちが出てきた扉もも小さな崖の下に作られていたようなので、精一杯の力で爪をめり込ませ、崖を登る

セシルを片手で引きずっているためかなりやりづらいが、普段から森の巨大な木を登っているので特に難も無く登る事ができた

問題は………


「火炎弾、撃て!!!」


この火炎の弾幕をどうよけるかだ



雨嵐のように撃たれる火炎弾をスレスレでよけながら上へ登る

が、火炎弾のせいで壁にはクレーターができ、僕の行く先を阻む

更に次弾は限られたクレーターのない場所に丁度良く撃ってくる


どうする?

無理にでもクレーターの所に行くか?

なんとか踏ん張れないことはないだろ

だが、少しでもスピードが落ちれば、逆に火炎弾に当たる可能性が増える

見たところ見た目は派手だが火炎弾一つ一つの威力はたいしたことなさそうなので、少しくらいなら当たっても大丈夫そうだ


ミスって大量に当たるくらいなら最初から少量に当たった方がいいだろ

そう思って全力でまっすぐ走る


セシルに当たるとマズイので抱えるようにして僕の体で守る

と、ギリギリセシルを抱えた後に火炎弾が僕の背中に命中する



熱い

思ったとおりそこまで深刻なダメージはないがひたすらに熱い

見た目ほどの怪我ではないが背中に焼けた鉄板を焼き付けられたようだ


そのせいで一瞬動きが怯む

火炎弾に当たる数を一番減らせる場所を登っていたつもりだったが怯んだせいでスピードが落ち、よけ切れなくなる


本当だったらよけられるはずの火炎弾が頭に近づく

目の前が真っ赤に染まって、


氷結弾エンフィーレン・クーゲル!!!」


………煙で真っ白に染まった


「なに!?」


下の男達が困惑している間に急いで頂上まで登る


上も深い森になっているので出来るだけ足跡を残さないように気をつけながら見つからないように奥に進む

それでも迷子になったらシャレにならないのでちゃんと来た方向と大体の方角は覚え、しばらく進む

追っ手の気配はなく、周りも特に危険はなさそうなので引きずっていたセシルを離し、適当な気に腰を下ろして、人化する


「いやー危なかったね」


セシルが起き上がって砂を払いながら言う


「うん。助かったよ」

「わざと魔法に当たりに行くなんて命知らずなことよくやれるね。もうちょっとで死んでたよ?」

「最悪、セシルを盾にしてたから大丈夫」

「うん、やっぱ氷結弾撃っといて正解だった」


セシルがうんうん、とわざとらしく頷く


「ちょっと背中出して、治療するから」


そう言って僕の背中に向かって回復ヒール、と言う

すると、ただれ始めていた皮膚が固まって焼ける痛みがヒリヒリする痛みに変わる


「僕が出来るのはここまでだよ。初級の回復ヒールしか使えないからね。せめて中級の治癒ヒールが使えたら良かったんだけど」

「充分だよ、ありがと。………さて、もう行こうか。この状況で一箇所に固まってるのは悪手だ」

「そうだね」

「流石にこうなったらもう無事に帰るのは難しいと思ってたほうがいいよ。もう見つからずに戻るのは無理だ。最悪の場合………」


そう言って手に持っていたナイフをセシルの鼻に突きつける


「殺す」


そう言うと、セシルは驚くでも怖がるでもなく無表情になる

と、突然ニヤリと笑った


「………何その反応」

「いや、素直に嬉しいんだよ。この状況で殺しは出来ないとか言われたらどうしようかと思ってたから」

「そう。君は出来る?殺し」

「アオイと違ってやった事はないな。でも、殺されるくらいだったら、殺るよ」


そう言って服をめくってお腹に手を入れ、短剣を取り出す


「………変なところに隠すんだね。」

「君に言われたくないなぁ」

「で、なんで今まで出さなかったの?」

「出来れば使いたくないからね」


少しうつむいて、短剣を見つめながら言う


「殺す覚悟は出来てたけど、やっぱりやらないに越したことは無いからね。今だってどうやって殺さないで逃げるかずっと考えてしまってる」

「………そんなことを悩む必要はありませんよ」


と、突然茂みの奥から若い女の声が聞こえる

自然に体が警戒態勢に入り、相手を見つめる

相手はゆっくりと、でも確実に

こちらに向かって歩を進めてくる


数秒かけて、その人は茂みから抜け出してくる

その女性は、金髪の髪を後ろで束ねて、その右手には西洋風の両刃剣が握られ、体はメイド服に包んでいる


「誰も殺す前に、ここで死ぬのですから」


セシルのお付きのメイドが、そこに立っていた

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