閑話 少女と不思議な白い子②
鼻をつくようなきつい匂いがする
街の喧騒とかけ離れて、カラスの鳴き声しか聞こえない裏路地は、より一層恐怖を引き立てていた
胃の奥から込み上げてくる液体を無理矢理押し戻して、死体に近づく
首を一文字に裂かれて絶命している
瞳孔は開ききっていて、舌はだらしなく口からたれていた
未だにだらだらと流れ続けている血が、今さっき殺されたばかりだということを強調している
そこまでしなくてもいいのに無駄に何度も入念に確認する
が、何度見てもそれはあの黒服だった
………アオイを探さなきゃ
ここで何があったのか
それを聞き出さなくては
そう思って立ち上がる
だが、探し人は探すまでもなく見つかった
その子はこちらを見ると一瞬驚いたように眉を動かして、ペタペタと濡れた足を拭くこともなく裸足で歩いて近づいてくる
その右手には濡れたナイフが握られている
着ている服は、いつも上着に着ているパーカーを脱いで中に着ていた長袖のTシャツ一枚になっていて、その袖はどこかで洗ったのか、濡れていた
少しずつ、少しずつ近づいてきて私の目の前に来る
そして、言う
「………チクんないで」
と
「は?」
「だから、チクんないで」
と、目の前の子は懇願する
「え……と、どう言う意味?」
「そのままの意味。このことを、誰にも言わないで」
できないなら、と私の首にナイフを突きつけてくる
「君を殺さなきゃいけなくなる」
目の前の子は、静かな声でそう言った
その碧の目は真っ直ぐ私を見つめている
………本気だ
本気で私を殺そうとしている
「どうする?ここでのことを忘れるか、死ぬか。選んで」
首に当てられたナイフの力が強くなってくる
首から少しずつ暖かい液体が流れ始めてきた
答えなくても殺す
という意思表示だろう
なにか
なにか答えなきゃ
そう思って口を開く
ゆっくり
静かに
はっきりと
この子に、ちゃんと伝わるように
言う
「私は、アオイの味方だよ?」
と
アオイは驚いたように目を見開く
こころなしか、首に当てられたナイフの力が弱まっているような気がする
少しの間の静寂
その間も、ずっと二人で見つめあっていると、突然アオイが笑い出す
「ふふふ、やっぱ面白いね、君」
と、目を細めて妖艶な笑みを浮かべ、首元のナイフをどかす
「あーあ、せっかく洗ったのにまた汚れちゃった」
手元のナイフを見つめながらそう呟く
「もう帰って良いよ、絶対チクんないでね」
そう言って、元きた裏路地に入って歩いていく
その後ろ姿は、どこか満足げだった
それを見ているとなんだか力が抜け、地面へへたり込む
その音に驚いたのか、アオイはこちらを振り向くが、何もないと分かったのかまた振り返り歩きだそうとする
「待って!!!」
そう私は叫んだ
「ここで何があったのか教えて」
「………僕が、彼を殺した。それだけだ」
「納得できない。何故、そんな事をしたの?」
「君が知る必要はないよ」
「知りたいの!!何かできるなら、あなたの力になりたい!!!」
「無理だよ、君にできることはない。むしろ邪魔だ」
「なら何もしない、何もしないから、教えて」
そう言って、アオイの目を見つめる
アオイは困ったように頭をかいていた
「………はぁ、わかった。でも、今は無理だ。ここの片付けとか、バレないようにする工作とか、色々あるからね。三日後にいつもの公園で。それでいい?」
「わかった。それでいいよ」
「じゃあ、僕これからちょっと忙しいから」
またね、とアオイは手を振って路地裏に消えていった
なんか凄い展開が急ぎ足になって微妙な気がする
もしかしたらそのうち書き直すかもしれません