脱走
夢を見ていた
昔の夢だ
あの子が居なかったら僕は完全に壊れていただろう
でも、その代わりにあの子を壊してしまった
後悔していないと言えば嘘になる
でも、感謝はしている
………あの子は今、どうしているのだろうか
◇◆◇◆◇
――イ
「アオイ!!!」
と、叫ばれて目が覚める
「よかった。さっきからうなされてたから心配していたんだよ?」
セシルが心配そうにのぞき込んでくる
夢か………
久しぶりだな、あの夢を見るのは
と、寝ぼけた目をこすりながら起き上がる
「っ!?」
と、後頭部にズキズキする痛みがある
「大丈夫!?ちょっと待ってて」
回復、と言うとセシルの手から暖かい光が出て僕の頭を包む
「………魔法か」
「初期魔法だけどね」
そう苦笑いする
セシルのおかげで痛みが引いてきたので周りを見渡す
何か揺られるものに乗せられていて、周りには食料や武器など色々なものが乗っていた
「……貨物車か」
「しかもうちの城に月一で来てる旅商人のだよ」
「なるほど、だとするとこの日に僕らを拉致ったのは計画された事だったってことか」
「だろうね。ほら」
そう言ってセシルは馬車の扉に触れる
すると、バチッと手が弾かれて触れた扉に紋章が浮かぶ
「結界?」
「うん。ちゃんと準備してたんだろうね、あいつら」
「……あの執事とメイドか」
「恐らくね、何が目的なのかは分からないけど」
「第四王子と使用人を拉致して何がしたいんだよ」
「そんなの本人に聞いてよ。まああの二人は比較的最近来た使用人だから僕を誘拐するつもりで来たんだろうね」
「で、僕はそれに巻き込まれたわけね」
「ごめんね」
「別に君のせいじゃない。それよりもどうやって逃げ出すか考えないと」
「……随分と余裕なんだね」
「なにが?」
「普通誘拐されたらもっと取り乱すものだと思うけど」
「その言葉そっくりそのまま返すよ」
「僕は内心ドキドキだよ」
「僕だってそうさ」
「………やっぱり君、普通じゃないね」
セシルが呆れたような顔をする
「で、逃げる方法は考えついた?」
「魔法ぶっぱなして馬車を壊すとか」
「誰が魔法出すの?」
「君。僕魔法使えないし」
「僕だって初期魔法くらいしか使えないよ。この結界を破る程の力はない」
「じゃ、助けが来るの待つ?」
「まああいつらの目的が分かるまではそれでいいんじゃない?」
と、急に馬車が止まり、扉が開く
そして、外からあの執事と数人の男たちが中に入ってくる
「失礼します」
執事がそう言って僕らの手に手錠を付ける
「ねえ、なにがもくてきなの?」
セシルが聞く
「幼児の振りはしなくていいですよ、セシル様」
と、執事はそっけなく答える
「………なるほど、そういう訳ね」
そう納得したように呟く
「で?僕らを捕まえて何をする気なの?」
「言えません」
「………殺す気?」
「………」
「なるほど」
「おい!!!早く来い!!!」
と、話していると後ろの男たちが業を煮やしたように叫んでくる
それを境に執事さんはどこかに行き、僕らは男たちに連れられる
どこかの山の中なのだろう
深い木々の中を長い一本道の上り坂が続いている
その坂を僕とセシルの前二人、後ろ二人で挟まれて登っていく
五分ほど歩いただろうか
少し離れたところに崖の下に穴の掘られた簡素なアジトのようなものが見えてくる
穴の前にはいかにも山賊だという見た目の男が一人、門番をしていた
と、こちらに気がつき、近づいてくる
「おう、連れてきたか」
「ああ。中に入れてくれ」
「おう、入れ」
そう山賊の男がいうと、また歩き始めて中に入る
入口の近くには詰め所のような場所があり、中には門番の山賊と同じ様な格好の男が休んでいた
入口の様子から簡素なアジトだと思っていたが中は結構広かった
迷路のような道をグルグルと歩き回る
これはおそらく万が一にも脱走されないようにする為だろう
なかなかに用意周到だ
しばらく歩き、牢屋のような場所に着く
中はわらが敷き詰められているだけの家畜小屋のような場所だ
扉だけでなくその周りも鉄格子で作られていて、中が見えるように作られている
「入れ」
と、男が僕らを牢屋に押し込んでくる
僕らが中に入ったのを確認するとガチャンと扉に鍵をかける
そして、何も言わずに元来た道を戻って行った
「よし、脱獄するか」
「いきなりだね!?」
セシルが大袈裟に驚く
「今奴らが去ってった所だろ。タイミング計って機会を逃すより今こうどうした方が絶対いい」
「いやそれにしたってさ………」
「それとも殺されるまで待つ?」
まだ何か言いたそうにしていたが、そう言うと黙って俯いた
しばらくなにか考えていたがやがて決心したように顔を上げる
「まあそれしかないか。奴らの目的は金とかじゃなくて僕らの命みたいだし」
「その粋だ」
「でもどうするの?結界もあって、扉には鍵が掛かってるみたいだし、僕らは手錠までされてる。しかも外までは迷路で、見張りまでいる」
「見張りと迷路は恐らく大丈夫。さっきの入口の詰所の中にここの地図が見えたから 」
「……あの一瞬で覚えたの?」
「うん」
「………なんか段々何しても驚かなくなってきたよ」
と、呆れたようにいう
「でも鍵は?手錠もされてるし、何より扉があかなかったら脱獄も糞も無いじゃん」
「こうする」
と、自分の長いスカートの中に手をいれる
手錠のせいで上手く手が動かせずにスカートがまくれるが、気にしない
そして、足に巻き付けてあったあるものを取る
「これを使って………ってどうしたの?」
「アオイはもっと恥じらいを持った方がいいと思うよ」
と、セシルは何故か自分の目を覆っていた
「? またとりあえずこれを見て」
そう言って取り出したあるものを地面に置く
「これは………ナイフと、錬金釜?」
「うん」
「そんな物でどうするの?」
「こうする」
錬金釜を開けて中に適当にそこらへんに落ちていた石を入れる
両手がふさがっているのでやりづらいが、なんとか蓋をして混ぜる
「おお」
と、セシルが驚いた声を出す
錬金釜の中には細長くなった石が入っていた
「錬金にこんな使い方もあるんだね」
僕は無言で頷く
この錬金釜は昔城下町の雑貨屋で買ったものだ
子供でも使えるようになっているので魔力をほとんど使わず、大したことはできないが小さいものの形を変えたり混ぜて大きくしたりくらいは出来るようになっている
「手、出して」
セシルの手錠の鍵穴に細くした石を入れ、少しガチャガチャと動かす
と、ガチャリと大きめの音がして手錠が下に落ちる
その後、同じように僕の手錠もピッキングして、開ける
「よし、行くか」
「やっぱ君普通じゃないね」
「ピッキングぐらい普通出来るよ」
「そう言える時点で普通じゃないよ」
と、セシルが呆れたように言う
「ホントに元の世界でどんな生活してたのさ」
「………引きこもり?」
「いや、僕に聞かれても」
実際死ぬ前の半年くらいはほとんど引きこもってたから間違ってはない
その前も普通の人と同じ生活だったとは言い難いけど
「ほら、無駄話してないで行くよ」
そう言いながら牢屋の鍵を開けて、外に出る
「馬車の扉には結界かけるのにここにはかけないんだね」
「いや、かかってるよ。僕らがどれだけ攻撃しても壊れないような結界が。ただ、こういう場所の結界は鍵と連動してるんだ。でないと僕たちを外に出す時にいちいち結界を解除しなくちゃいけないからね」
「ふーん。鍵開けられたら終わりって結構ザルなんだね」
「普通は内側から鍵開けるなんて考えられてないからね」
「まあどうでもいいや。さっさと出よう」
そう言って外を目指して歩き始めた
◇◆◇◆◇
「まだ奴らの居場所は割れんのか!!!」
「現在捜索中です!!!」
豪華絢爛な部屋の中
大量の椅子と机が並べられ、そこには国中どころか他国の重役までが一つの部屋に集まっていた
本来ならば静かな国同士の会議室として使われている部屋は、今はその見る影もなく喧騒に包まれていた
「皆の者落ち着け!!!騒いでいても見つかるわけではない!!!意見があるものは一人ずつ進言しろ!!!」
アランがそう言って場を鎮める
が、それも一時のもので少しのもので一人が発言をすると瞬く間に全員にそれが移り、やがてまた騒ぎとなる
「誘拐犯はセシル様のお付きの二人だそうだ」
「なんでそんな奴らをお付きにしたんだ」
「どうやってこの街から出たんだ?」
「何故何も要求が来ないんだ」
「殺すのが目的じゃないのか?セシル様はあの『夢人』だそうだし」
「『夢人』だと!?尚更早く見つけなければ何をするかわかったもんじゃないじゃないか!!!」
「何故ダナヴァの王子は放置して使用人の子なんかを連れていったんだ?」
「その子供も『夢人』と何か関係があるのか?」
「静まれと言っておろうが!!!次に勝手に発言した者は処罰もあると思え!!!」
と、アランが怒鳴る
少しの苛立ちさえ滅多に見せぬアランにしては非常に珍しく、焦り苛立っている
はい、と何人かの重役が手を挙げる
「そこの者、発言を許可する」
「はい。セシル様が『夢人』であると言うのは事実でしょうか?」
小太り気味の中年の貴族がそう聞く
「………直接聞いたわけではないため定かではないが、恐らくそうだ」
アランがそう言うとまたザワザワと話始める
が、バンッとアランが机を叩くと静かになる
「………次」
「何故黙っていたのですか?」
「確証が取れなかったのと、『夢人』とバレて今回のようになるのを恐れたからだ」
「では何故奴らはそれを知っていたのですか?」
「推測になるが、間近にいた事によって不審な点があったのだろう」
「では……」
と、話していると扉が勢い良く開く
「会議中失礼します!!!奴らが街から出た確証とその方法が判明しました!!!」
「本当か!?」
「はい、奴らは行商人に化けるか抱き込むかして、その馬車に連れてさらったようです」
「で、その行き先は!?」
「西の森の方に向かったとの情報です」
「よし、至急舞台を向かわせろ!!!」
言うが早いか扉をあけた使用人は外に飛び出していく
またまた部屋が喧騒に包まれるが、今度はアランも止めはしない
「よし、奴らもすぐには手は出さないだろう。なんとか間に合うか………?どう思う?カミラ」
と、隣にいるカミラに話しかける
「カミラ?」
いや、正確には呼びかけようとした
が、さっきまで隣にいたはずの女性は居なくなっていた
それを見て、アランは一言
「クソ、」
と、悪態をつくのであった
予約投稿失敗
本当は22:00に投稿する予定でした