閑話 少女と不思議な白い子
「君は僕に出会ったことを後悔してないの?」
と、聞かれる
「していないよ」
と、答える
「変わった人だね、君は」
「君ほどじゃないよ」
「そうだね」
と、目の前の子は言う
「短い間だったけど、楽しかったよ」
「うん」
「じゃあ、さよなら」
「うん、バイバイ」
それが、その子と話した最後の言葉だった
◇◆◇◆◇
その子と初めて喋ったのは中学三年の夏だった
受験勉強に少しだけ疲れ、息抜きにと街を歩いている時、街中をやたら目立つ子が歩いていた
「………青井さん?」
首が隠れるほど伸ばした真っ白な髪、透き通るような碧の眼、150cmも無いであろう小柄な体躯に華奢な体、そして男女共に魅了する整った顔
同じクラスの、青井雄斗さんだ
「なんであの時、僕に声をかけたの?」
アオイがそう聞いてくる
「特に理由はないよ」
これは本心だった
街中に見知った顔が見えた
だから声をかけた
それだけだ
「嫌だった?」
「何が?」
「私に話しかけられるのが」
「別に嫌じゃないよ。あの時話しかけられなかったらもうクラスメイトと話すことは無かっただろうね」
そう言って自嘲気味に笑う
「だったら学校こればいいのに」
「それとこれとは違うよ。それに、卒業できる程度には行ってる」
「そう言えば成績もいいもんね」
「もう高校も決まってるよ。親のコネでね」
「ずるいね」
「そうでもないよ。家に縛られるのも楽じゃない。やめれるならやめたいさ。親が決めただけで高校だって自分で決めたわけじゃない」
「嫌なら逃げちゃえばいいのに」
「逃げれないからこうしてるんだよ」
「ふーん」
と、少しの静寂が訪れる
既に立春を過ぎているが、まだまだ寒く、乾いた風が吹いている
「じゃあ、私はそろそろ帰るよ。まだ受験勉強があるからね」
「うん、バイバイ」
そう言って手を振って家に帰る
◇◆◇◆◇
高校の合格発表があった日の午後も、またあの子に会いにいつもの公園へ行く
受験直前になり、しばらく会えなかったので会うのは久々だ
今日は、何を話そうか
そんなことを考えながら歩く
「ん?」
公園へ行って中を見ると、青井さんが何やら黒服の男と揉めていた
なにを話しているのだろうか黒服が怒っているようだ
だが、アオイはものともせずに受け答えをしている
と、アオイがこちらに気づく
「やあ、久しぶりだね」
「おい!!!話は終わってねえぞ!!!」
そう黒服が叫ぶ
「僕は話すことはもうないよ。僕はこれからこの子とお喋りするから、きみはもう帰って」
「ああ!?」
「ここで騒ぎを起こしたら困るのは君のほうじゃないの?」
そうアオイが凄む
黒服は少し抵抗の意思を見せるが、青井さんがないも言わないのを見て、諦めて帰っていった
「ごめんね、変なところ見せて」
「あれは誰なの?」
「うーん。親の会社の………取引先みたいなものかな?」
「大丈夫なの?」
「大丈夫さ、あまりしつこくはしてこないと思うから」
そうアオイは笑う
だが、その予想は外れた
それから春休みの間、毎日のようにアオイに会いにいった
だが、毎回その男は青井さんに詰め寄っていた
「本当に大丈夫なの?」
「多分ね」
「あまりしつこいなら警察とか………」
「大丈夫、心配しないで」
アオイはそう言う
だが、とても嫌な予感がしていた
そして、その予感は的中した
◇◆◇◆◇
ある日、いつもの公園に行く途中
また、公園の方からいつもの男の怒声が聞こえていた
が、近づいてる途中に、パッタリと聞こえなくなった
なにやら、すごく嫌な予感がして、走って公園に行く
誰もいない
さっきまでいたはずの黒服も、影も形もなくなっていた
背中にものすごい悪寒が走る
気付けばいつの間にか私は走り回っていた
黒服の声が聞こえてからそう時間はたっていない
急げばすぐにアオイに会えるはずだと思って
だが、間に合わなかった
いつもは絶対に入らないような、薄暗い裏道
カラスがゴミをあさっているのか、ものすごい汚臭が鼻につく
だが、それは生ゴミのせいではないとすぐに分かる
捨てられたゴミの中
汚物と血にまみれて
首を一文字に裂かれて即死したであろう
黒服の死体が転がっていた