二人目の転生者
赤、黄、青と色とりどりの花が広がっている
庭園自体は小さな公園程度の広さしかないがその花の種類だけで言ったら国の中でも有数の場所だろう
観賞用の花だけでなく、雑草などまで育てられている
そんな場所の端の方
丁度庭園が見渡せる場所にある休憩所の椅子に僕とセシルは座っていた
お兄ちゃんやメイドさん、執事さんは少し離れた場所で見ていてもらうように頼んでいるのであるので、今は人目を気にせず話すことができる
「さて、もう一度自己紹介から始めようか」
セシルが話を切り出してくる
「僕の名前は唐沢速瀬。2013年11月、16歳で埼玉で死にました。こっちではいま3歳だよ。よろしく」
「青井雄斗。2015年1月、17歳で東京で事故死しました。こっちでは2歳です。こんな姿でも元々は男です。よろしくお願いします」
「タメ口でも良いよ。年も変わらないみたいだし」
「そう?じゃあそうしようか」
と、少しの静寂が訪れる
聞きたいことは山ほどある
が、どれを聞けばいいのかがわからない
それは向こうも同じだろう
「ねえ」
こうしていても仕方が無いので僕の方から静寂を破ることにする
「セシルはこの世界について知ってることはある?」
と、僕が一番聞きたかったことを聞く
僕も一応この世界について調べてはいるるが、 いかんせん情報が少なすぎる
文字を覚えたのも最近なので文献はほとんど調べられていないし、周りの人達から聞く情報にも限界がある
わかっているのはここが異世界だということだけだ
「難しい質問をするね」
セシルが困ったように苦笑する
「君はどこまで知ってるの?」
「何も知らない。ここが異世界というだけ」
「だよね」
そう言って何かを考えるような仕草をする
「ちょっと聞きたいんだけどさ、君は王族じゃないんだよね?しかも魔族で。どうやって生まれたの?」
「良く分からない。気がついたら卵の中、もがいて外に出たら森の中だった。しかも異形の姿でね。その後人間に殺されかけたりいろいろあって、生まれた次の日に拾われた。この世界での僕の母親がお姉ちゃんの友人だったらしい」
「ふーん。その後は?普通に過ごした?」
「どういうこと?」
「ほら、僕たちって見た目はこんなだけど中身はほとんど大人じゃん?普通に過ごして気持ち悪がられなかった?」
「ああ、そう言う事………。多少驚いてたけど、別に普通だったよ。僕の種族は生まれた時からある程度知能があるらしいから」
「なるほど……。羨ましいな」
「なにが?」
「ぼくはね、死んだと思ったら赤ん坊として生まれるところでとても戸惑ったんだ。なにせ意識がある状態でも体がほとんど動かないんだ。それに加えて、初めは目も見えなかった。知識としては知っていたけど自分が体験すると全然違うね。しばらくして転生したことが分かってこの世界で生きてく覚悟できたんだけど、その時はまだ気づかなかったんだ。夜泣きもぐずりもしない赤ん坊がどれだけ不気味かってことを」
「ああ……」
「気づいた時にはもう親も兄も気持ち悪がって僕に近寄ることはなくなってたね。適当にお付きをつけて後は放置。まあそのおかげで図書館とかでこの世界について調べ回ってても何も言われなかったけど」
やれやれ、とセシルは肩を下ろす
そして、またこちらに笑いかける
「それで、この世界のことだけど………」
「ねえ、その前に一ついい?」
「なに?」
「気持ち悪い作り笑いやめてくれる?」
僕がそう言うとセシルは少し不機嫌そうに眉を動かす
が、すぐに戻って真面目な顔になる
「………なぜ?」
「三歳児が愛想笑いで話しかけてくるのは気持ち悪い」
そう言うとうつむいて悩んでいるような仕草をする
しばらくして、顔をあげてこちらを向くとニヤッと意地悪く笑う
「おもしろいね」
「は?」
「いままでそんなこと言われたこと無いからね」
「避けられてるんだからそんなもんでしょ。元の世界でも君ほどずっと笑ってる人は珍しいと思うけど」
「そうだね………まあ楽に生きるために勝手に身についたからね」
そう言って遠い目をする
元の世界の事でも思い出しているのだろうか
「なんかあったのか?」
「いや、なにも?」
そう言って首を振る
「人の過去には下手に触れない方がいいよ」
「そうか。なら聞かない」
別にそこまで興味ないし
そう思っているのが伝わったのか、セシルは少し嬉しそうな顔をする
「で?君はどんな世界で生きてきたのかな?」
と、僕の方を興味津々に見つめてくる
「人の過去には触れない方がいいんじゃなかったの?」
「言いたくないなら別に言わなくてもいいよ。ただ、平凡に生きた訳ではないことはわかるけど」
「……なぜ?」
「今から全部あわせて説明するよ」
そう言って椅子に深く腰掛ける
「まず、僕もこの世界についてほとんど分かってない。恐らく、元の世界に戻る方法は無い」
「そうか」
「………あんまり驚いてないね」
「元々死んでからこっちに来たんだから元に戻れるとは思ってないさ」
「やっぱり君普通じゃないね」
そう言ってまた、嬉しそうな顔をする
さっきまでの作り笑いとは違う、本物の顔で
「で、なんで帰る方法がないと分かったのかおしえて」
「そうだね………何から教えようか」
「何からでもいいよ。とりあえず今は情報が欲しい」
「じゃあ、まず君他の転生者にあったことある?」
「あるわけ無いでしょ」
「そうだよね、普通はそうだ。でも、実は転生者は僕達だけじゃないんだ」
「………なに?」
「ふふっ」
僕が驚くとセシルはしてやったりという顔をする
「君にも感情あるんだね」
「あるに決まってるでしょ。僕は割と感情豊かな方だよ」
「へえ〜。僕は今まで愛想笑いすらしてもらってないけどね」
「そうだったっけ?」
そんなに僕無表情か?
割と恐がったりすること多いと思うけど
「まあそんな事はどうでもいいよ。転生者が僕達だけじゃないってどういうこと?」
「そのままの意味だよ。転生者はこの世界ではかなり珍しいけど、居ないわけじゃない。僕が図書館で調べただけでここ200年ちょっとで八人確認されている」
「八人……その人達には………」
「会えない。皆もう亡くなってる。文献で調べただけだからもしかしたらもっといるのかもしれないけど………」
「けど?」
「転生者同士が出会ったなんて初めてのケースなんだ。僕の兄……アラン王ね。あいつが言うにはこの図書館の本は王族が情報収集のためにも使うから、かなりの情報が揃うらしいんだ。それこそ、少しでもこの世界の常識から離れた行動をするとどんな手を使ってでもその人が転生者かどうか調べて文献に残す。そんな所でも転生者同士が出会ったって記録はないんだ」
「でもたった八人でしょ?偶然だってことも……」
「そうだね。でも、全員前の転生者が亡くなって一ヶ月以内に生まれてるんだ。僕だって前の転生者の人………まあ魔族なんだけどね。その人が亡くなって23日後に生まれた。これが偶然だとは思えない」
「なるほど、今までの傾向から行くと君がまだ死んでいないのに僕がいるのはおかしいという事か」
「そう言う事。で、なんで僕が君の過去を聞いたかというと、君のことを知っとかないと危なさそうだから」
「危なさそうってどういうこと?」
「転生者っていうのは今まで皆頭のネジがぶっ飛んでるんだ。文献の転生者の一人目は連続殺人で死刑、二人目は魔物を集めて国家に喧嘩をうって殺されて三人目は色々日本の文化を広めるのと同時に文化として麻薬広めて捕まってる。他の人達も色々やらかして死んでいってるんだ。つまり………」
「僕も何かやらかしそうってこと?」
「そう言う事」
僕はジト目で見つめるが、そんなのは何処吹く風と言うように作り笑いで逃れてくる
「僕のことは気にしないで大丈夫だよ。まともな教育受けてるから」
「ふ〜ん。じゃあ心配ないね」
「………信じてないでしょ」
「うん」
こいつ………
「僕も普通の生活してきたとは言えないからね。同族は見ればわかるよ。君もそうでしょ?」
「僕はまともだからわからない」
「なるほど。まあ別に隠してるなら詮索はしないよ」
そう言ってセシルは立ち上がる
「じゃあ日も落ちてきたしそろそろ部屋に戻るよ」
周りを見ると気付かないうちに日も落ちてかなり暗くなってきていた
長々と無駄な事を話しすぎたかな
「また明日話そうか。まだ伝えてない事もあるし」
「暇があったらね」
そう言って帰ろうとして、お兄ちゃんと執事たちを見る
………いや、
正確には見ようとした
「!?アオイ!!!逃げっ」
ドカッと音がしてセシルが倒れ込む
「!?」
焦って周りを見渡すが誰も見えない
さっきまでそこにいたはずのお兄ちゃんと執事達も居なくなっていた
いや、違う
誰かが一人倒れている
十二歳くらいの、子供が
「! おにいちゃん!!!」
倒れているお兄ちゃんに向かって走り出す
が、それも叶わなかった
「………ごめんね」
と、若い女性の声が聞こえて後頭部に強い衝撃が来る
そうして、僕は意識を失った
ストック無くなりました