7話 買い物に出かけるようです
7話 買い物に出かけるようです
マオ達がリハビリに向かった後、残された僕にアカツキさんが話しかけて来た。
「さて、これからどうする?レベルを上げる為に森に向かうか、今後の生活費を稼ぐ為に仕事をするか」
確かにマオが元に戻るまでやる事がないし、今後の事を考えるとどちらかはやった方がいいよな…
「私は食後の片付けをしたら、マオちゃんの応援に行くよ」
そう言ってミミは片付けに入った。ここにいる間のミミは、食事の片づけなどの手伝いを進んでやっている。どうやら何もやらずにいるのは申し訳がないようなのだ。
「そうか。なら僕はなにか依頼を受けようかな。アカツキさん、モンスターと戦うような依頼ってありますか?」
依頼を受けてモンスターと戦えれば、一石二鳥って奴だよね。
「そういうのは冒険者ギルドの分野だからないな。今あるのは暗殺か情報収集のどちらかだが、時間が限られているから暗殺しかないがな」
「…相手はどんな奴なんですか?」
「ならず者のボスだが、殺人の趣味を持っている賞金首だ。いつも数人の手下と行動を共にしているから、やるなら暗殺がもっとも確実な方法だな」
「そんな相手なら引き受けます。盗賊ギルドに行けばいいんですか?」
今回はアカツキさんの手伝いじゃないから、自分で行った方がいいよな。
「ああ、ターゲットの名前は<ゾル>。その名をオババに言えば承諾してくれるだろう」
「分かりました。ちょっと行ってきます」
そして盗賊ギルドに向かって出発した。
「おいおい、子供がこんな所に1人で来るなんてな。どうだいお兄さんとあそばないかい?」
ギルドに向かう途中で予想通り性質の悪い男が声を掛けて来た。
「結構です。今忙しいですから」
こういう輩は相手にしないのが一番だからな。
「そんな事言わないで遊ぼうぜ。なんなら力づくで連れてっちゃうよ」
なおも言い寄って来るが僕は歩くスピードを変えずに進んで行く。
「おい!無視するなよ!」
男はまるで脅すような口調で僕の肩を掴もうとしてきた。
「邪魔です」
その一言と共に、風の塊を男の腹に打ち込み吹き飛ばす。その男は気を失ったようで動かなかったが、仲間が影に隠れていたようで怒った顔で近づいて来た。
「こんな事をして、タダで済むと思っているのか?」
めんどくさいから無視するか。
そう思い、僕はまた歩き始めた。
「おい!逃げれると思っているのか!」
その言葉通りにまだ仲間が現れて、僕は囲まれるような形になってしまった。
「…いったい何の用ですか…僕は用事があるんですけど」
まるでビビる様子が見えない事に違和感を感じているようだが、仲間の数と僕の姿から勘違いと思い込み引く様子がなかった。
「なに、俺達のボスが遊び相手を探していてな、その相手にお前が選ばれたって訳だ。お前に拒否権はないから黙ってついて来るなら、今は痛い目に遭わないで済むぞ」
今は…ねぇ…。…下っ端の相手をしてもキリがないから、ついて行くとするか。
「分かりました。素直について行きます」
「分かればいいんだよ。さあ、ついて来な」
僕を逃がさないように囲んだまま、男達に近くの建物まで連れていかれてしまった。
「ボス!新しい獲物を連れてきました。今回のは粋がいいですよ」
その男の視線の先には、椅子に座ったガタイの良い男がニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「貴方は誰ですか?いったい何の用で僕を連れて来たんですか」
「この状況でもビビらないとはな。お前の言った通り粋が良さそうだな」
僕の平然とした様子を見て、ボスと呼ばれた男は顎に手をやり嬉しそうにしていた。
「僕の質問に答えてください!」
人の話を聞かないので、少し声のトーンを大きくして怒鳴った。
「!?。おい!お前、誰に口を聞いているか分かっているのか!この人はゾル様だ。この辺りを占めている人だぞ!」
「え!?マジでこの人がゾルなの?ゾルってあの殺人が趣味でいつも手下を連れて歩いているって話の?」
いくらなんでも別人だよな。こんなに堂々と出会ったら暗殺も何もないしね。
「ゾル様と言え!…だが、お前の言った通りのお方だ。流石ゾル様、こんな子供にまで名前が知れ渡っていますよ」
僕に怒鳴ったと思ったら、今度はゾルの方を向き機嫌をとっている。
お世辞一つで機嫌が良くなっているよ…あんなに顔に出やすい人がボスとしてやっていけるのかな?
ゾルは僕の言葉一つ一つに顔色を変えるほど変化が多かったのだ。ちなみに今は満更でもない顔をしている。
「それにしても依頼を受ける前に出会うとは……運が良いのか悪いのか…」
「おいおい、何をブツブツ言っていやがる!」
「あ、すみません、こっちの話です。それで話では結構の数の人を殺していると聞いたのですが……事実ですか?」
やっぱり裏取りは必要だよな。
「ああ、事実だ。お前は記念すべき100人目の獲物だ。出来るだけいたぶってやるから、長く生きて俺を楽しませてくれよ」
その言葉と共にゾルは席を立ち、僕の方へ歩いて近づいてきた。
「そうですか。証言も貰えたし、もう付き合う必要はありませんね。皆さん覚悟してください」
僕はスカートを少し持ち上げ笑顔を見せてあげた。
その場違いな僕の行動に驚き動きを止めていた男達は、次の瞬間、体の自由が奪われる事になった。僕から放たれた雷の魔法を受けて痺れて、麻痺状態になったのだ。
「逃げられると面倒なので、とりあえず逃げれない状態にさせてもらいました。…さて、この建物にはまだ仲間はいますか?」
僕は近くにいた男に質問した。
「い、いったい何をしやがった…が!?」
答える事をしなかった男の首が飛んだ。
「はい次の人」
「なんでこんな事を…ぐ!」
そしてまた息絶えた。
「僕の質問にのみ答えてくださいね。はい!次」
「…今日はここにいるので全員です。もういません。…正直に話したんだから助けてくれ!」
「ここに連れて来られて99人は、助けてくれと言ったんじゃないんですか?」
その言葉と共に男は黒焦げになった。
「安心してください。僕は皆さんを許すつもりは全くありませんから」
動けずにいる男達の顔色が一気に引いていく。笑顔が絶えない僕を見て、絶望を感じたのかもしれない。そしてゾル以外の男達はもの言わぬ塊となった。
「さてとゾルさん。貴方には賞金が掛かっているらしいですね。僕は盗賊ギルドで貴方を倒す依頼を受けようと移動中だったんですよ。まさかその前に会うとは思いませんでしたよ」
「お前みたいな奴が盗賊ギルドに所属しているだと……馬鹿な!あそこはお前みたいなガキが認められる所じゃない!」
どうやらこの手の輩は、盗賊ギルドを危険視しているようだな……まあそうか、恨まれる事をしている以上、狙われる可能性は高いものな。
「別に貴方に信じてもらう必要はありませんが……そうですね。このまま貴方を連れていけば、お金も貰えるし疑問も解消出来る」
もちろん、ギルドに着いたらトドメは差すが、歩いてくれた方が楽だしね。
「な、なめるな!!!」
僕がゾルを起こそうとして近づいた時、怒声と共に起き上がって殴りかかって来た。
「わ!?…びっくりした。もう動けるようになったよ」
顔を目掛けて飛んで来た拳を軽く避けて、少し距離をとって様子を見た。
(どうやら痺れさせる対象が多くて、効果がいまいちだったみたいね…)
「舐めやがって……もう終わりだ…もうお前は終わりだ!」
まだ痺れが残っているような動きで先程まで座っていた椅子の方へ行き、後ろに隠していた斧を取り出して僕の方へ向けて来た。
「うえ!鉄の斧……嫌だな…剣相手に欠けたんだから、斧が相手だったら折れちゃうんじゃないかな…」
僕はこないだの痛みを思い出し、嫌そうな顔をしてゾルを見ている。その僕の顔を恐怖で怯えていると勘違いしたようで、ゾルはニヤニヤしながらゆっくり歩いて来る。
(たぶん大丈夫だから安心しろ。こないだ鉄の剣を食べたからな、強度が鉄の剣並みになっているはずだ)
(それでも鉄の剣並みなのね……自称魔剣なのに…)
強度が上がった事を喜んで話していたオメガに、まるで冷や水を浴びせるようなゼロの一言が刺さった。
(……自称じゃない…)
オメガはそう小さく呟く事しか出来なかった。
「さあ、くたばれ!」
のんびりオメガとゼロの会話を聞いていたら、ゾルは既に目の前まで来ていて斧を振り下ろしていた。
「!?あぶな!………まったく、びっくりしたな…」
「な!?なんなんだお前は!?」
ゾルは今の状態を理解出来ずに震えていた。反応が遅れた為にゾルの斧をかわせなかったので、仕方なくオメガで受け止めた。
…ただオメガの形は手のままだったので、ゾルには右手で受け止めて見せたように見えたのだ。
「お!?ほんとに強度が上がっているよ!ほとんど痛みを感じなかった。…今後の事を考えるなら、より高位の材質を探すのはありだな」
そうしてようやく右手が剣の形になった。
「…この化物が!!!」
僕の右手の変化に怯え、ゾルは狂ったように何度も斧を叩きつけてくる。
「痛い痛い!地味に痛いよ。…それに化物言うな!」
流石に何度も叩かれると痛みがあるので、斧の根元から切り落とした。
しかし、鉄の斧で叩かれて痛いで済んでいる段階で、十分異常な事に玲人は気がついてはいなかった。
「……助けてくれ!命だけは見逃してくれ!」
頼みの綱だった斧が使い物にならなくなり、既に腰が抜けており命乞いを繰り返している。
「…とりあえず盗賊ギルドまでついて来てください。その後は向こうで決めます。…いいですね?」
もはや抵抗の意思がないのは分かったので、おとなしく着いて来るならこれ以上は何もするつもりはない。
「分かった。素直に従おう」
「ちなみに、僕の事を誰かに話したら……分かってますね」
僕は脅しを掛けておいた。
そしてその後は何もなく、無事に盗賊ギルドに着いた。
「オババさん、ゾルに関する依頼をお願いします」
僕は扉を入ってすぐにオババに話しかけた。
「なんだいきなり?お前がゾルの討伐を引き受けるって言うのかい?」
「はい!…と言うより既に確保はしていますから、受領してくれれば連れてきて終了です」
「は!?確保しているって、お前、ゾルを捕まえたのか?」
僕の言葉にオババは驚き、カウンターから身を乗り出してこっちを見てきた。
「ええ、今からここに連れてきます。……依頼は受領で構いませんか?」
「ああ、構わん。しかし、ゾルには生死は問わないとされていたのに、よく生け捕りに出来たな。大したものだ」
そうして扉の外に待たせていたゾルを連れて中に入った。
「……本当にゾルのようだな。…正直驚いたぞ」
「まあ、偶然だったんですよ。アカツキさんに依頼の内容を聞いて、受領する為にここに向かっている途中でこれの手下に声を掛けられてしまい、ついていったらバッタリって訳ですよ」
運が良かったんですよ、と言って僕はオババに笑って答えた。
「……おい、こいつは何者なんだ?」
笑っている玲人を見てゾルはその疑問が声に出てしまった。
「どういう事だい?」
「そのままの意味だ。こんなガキ1人に俺達は全滅、それにこいつの腕は………」
興奮してきたゾルは全ての疑問を口にしようとして、突然止まった……
「どうしたんだい?この子の腕に何かあったのかい?」
オババの言葉にゾルは何も答えない。それどころか瞬きをする動きすら止まっていた。
「すみません。生け捕りは失敗のようです」
その言葉と共にゾルの後ろから玲人の姿が現れ、それと同時にゾルは崩れるように倒れてしまった。
「……どういう事だい?」
「大した理由はありませんよ。僕の手の内を話さない事が生け捕りの条件だったんですが、それを破ろうとしたからトドメを差した……それだけです」
僕は何事もなかったように淡々とオババに説明をした。
「…まったく、いったいどんな秘密があるのやら」
オババはゾルの死体を見てそう呟いた。
倒れているゾルの背中には小さな刺し傷が一つあった。しかしそれをやったと言った玲人には、帰り血の一滴も掛かっておらず、武器らしい物も持っている様子はないのだ。
玲人はゾルの背後から、形状を細い針にした人差指で心臓を一突きにしていたのだ。
「確か生死は問わない…でしたよね。これで仕事は終了で構いませんね」
「ああ、これが賞金首の分10万ゼニーと依頼料の3万ゼニーだ。合計13万ゼニーだ、受け取りな」
オババは下からお金の入った袋を取り出し、玲人に渡してくれた。
「結構な金額ですね。それじゃあ買い物があるので失礼します」
そう言って僕はお金を持ちギルドを出て行き、聞いていた武器屋に向かって行った。
(お嬢ちゃん俺がいるのに、武器屋に何の用があるんだ?)
武器屋の前に着いた僕に、オメガは質問してきた。
「オメガの耐久力を上げる為の鋼材を下調べしようと思ってね。だって僕達、この世界の事を何も知らないから、鉄以上の武器があるか確認しに来たんだよ」
(貴方が不甲斐無いからレイちゃんが苦労するのね)
ゼロまでレイちゃんって呼ばないで。……どうしたの急に?
(だって今の貴方ってレイジって姿ではないのは自覚してるでしょ?ならその間はレイちゃんで行こうって決めたの。…先に言っておくけど、拒否権はないからね)
(俺はちゃんと玲人と呼ぶから安心しろ。…だから俺の復活の協力を頼むぞ!)
オメガだけでも呼んでくれるのは嬉しいが……しっかり見返りを求めきてるよ。
そう会話をしながら武器屋の中に入って見回してみる。
(武器の種類は結構あるな。ナイフから大剣、槍やハンマーなどいろいろ揃っていて、材質は銅、鉄、おお!あれは鋼じゃないか!?)
オメガは武器の中に鋼で出来た剣を見付けて興奮している。
「いらっしゃいお嬢ちゃん。お使いか何かかな?どういう物を頼まれているかを教えてくれれば用意しますよ」
店に入って見回した後に、店員と思われる人に声を掛けられた。
「この店にある武器はここで作っているのですか?」
「はい、全てここで作っていますよ。裏が鍛冶屋になっているんで、時間とお金をいただければオーダーメイドの依頼も受けています」
店員は得意げに店の宣伝も含めて答えてくれた。
「それじゃあ、ここで売っている武器で最高の材質は鋼ですか?」
僕の質問に店員は目を見開き驚いていた。
「…あ、すみません。まさか貴女の様な子が鋼を見分けるとは思いませんでしたよ。まだ小さいのに大した目利きだ」
ああ、確かに鋼の名前はどこにも書いていなかったもんな。実際僕もオメガが言わなかったら分からなかったよ。
「その反応からして、鋼が最高の武器のようですね。…この鋼の剣でいくらぐらいですか?」
そう言ってオメガに一番状態の良い鋼の剣を教えてもらい、店員に見せていたのだ。
「……更に一番良いのを選ぶとは…それも一目で……。まいったね、天才っているんだな。
…フー、それは8万ゼニーです。結構な値段ですが大丈夫ですか?」
途中まで動揺していた店員だったが、最後は流石プロ、冷静に戻り値段を教えてくれた。
「ならこれを買います。…はい、代金です」
先程受け取った布袋からお金を取り出し店員に渡した。ちなみにお金の種類は、ザルバさんに教えてもらい把握済みだ。
「お買い上げありがとうございます」
「そう言えばこの世界の武器の素材はどのような物がありますか?」
鋼の剣を受け取り、今後の事を考えて知りたかった事を質問した。
「この世界……そうか…お嬢ちゃんも異世界から呼ばれたんだね。ごめんね、この世界の都合に巻き込んでしまって…」
やはりこの世界では勇者召喚が日常的に使われているのは周知の事だったか…。
「その事は気にしなくて良いです。それより質問に答えてください」
「そうかい……。僕が知っている限りではミスリル、黒曜石、アダマンタイト、オリハルコンなどがあるね。その中でミスリルは<ディーナ>、西にある国だけどそこで加工が可能になったって話です。
これらが僕の思い出せる範囲ですね」
なるほど流石異世界。それっぽい素材が存在するんだね。
「…それらの鉱石はこの国で手に入りますか?」
「それは厳しいかな。この国の周辺では取れたと聞いた事もなし、加工出来ないから仕入れている所もない。あったとしても観賞用として個人が持っているぐらいだろうから、手にいれるならディーナに行くなど他国に行かないといけないよ」
「そうですか……ありがとうございます。とても参考になりました」
そう言って僕は武器屋をあとにした。
次に向かったのは道具屋だ。
「いらっしゃい。何が必要で?」
店に入った僕を対応してくれたのは初老の女性だった。
「ポーションを3個ください」
「ポーションは1個500ゼニーだから1500ゼニーだよ。大丈夫かい?」
さっきも聞かれたけど、今の僕ってそんなにお金がないように見られるのかな?
(まー、見た目は子供だから仕方がないんじゃないか?)
「大丈夫ですよ。……はい代金です」
まだお金の種類に慣れていないので、おぼつか無い手付きでお金を取り出して支払った。
「まだ小さいのに偉いね。…確かにピッタリいただいたよ」
優しい笑顔で声を掛けてくれてるから、初めてのお使いみたいに思われているのだろうな…
「ところでポーション以外に何が置いてありますか?」
「この店にはあと、薬草、毒消し草、風邪薬、痺れ薬ってところだね」
「……薬草はやっぱりポーションの劣化品みたいな物ですか?」
「劣化と言うか原液だからね。薬草を煎じて水で溶かしたのがポーションなんだよ。この薬草は町の外に出て森などに行けば拾えるから、あまり買う人はいないけどね」
薬草は自生しているのか……。
説明しながら現物を見せてくれている薬草をしっかりと見て、特徴を覚える事で今後森に入ったら時に拾おうと決めていた。
「それにしても痺れ薬って何に使うんですか?」
今までの経験から碌な使い方しか想像できない為に、やや疑うような目で質問していたようだ。
「…本来はお嬢ちゃんが心配しているような使い方ではなかったんだけどね。元々はモンスターに投げつけて動きを制限するものだけど、……人に使う者がいるのも否定できないのは残念だよ」
「なら麻痺治しみたいな道具はないんですか?」
毒があって毒消しが存在するのだから、麻痺治しがあってもおかしくないよな?
「残念だけどないんだよ。麻痺は毒と違って対抗できる素材が見つかっていなくてね。ただダンジョンなんかで見つかる魔道具に麻痺無効などの効果を持ったのもあるから、それを探すしか完全に防ぐ手段はないね」
「ダンジョンで見つかるって、どうしてそんな物があるんですか?」
「……お嬢ちゃん、その事も知らないなんて異世界人なんだね。…ダンジョンとは瘴気が多く集まる場所や、強力なモンスターが住み着いた場所がそう呼ばれるのさ。そこに長い時間置かれた道具は瘴気で変質してしまい、いろいろな特殊能力が備わってしまう。それらが総じて魔道具と呼ばれ、効果が強力なのはアーティファクトと呼ばれて重宝されるのよ」
なるほどね。オメガみたいな存在がアーティファクトと呼ばれるんだね。
(いえ、あのなまくらは強力じゃないから、良くて魔道具止まりよ)
(ゼロ!?俺をなまくらと言うなと言っているだ!それに魔法も使えて、姿も変えられる。十分強力な効果を持っているだろう)
(なら私も強力な魔法を使えるからアーティファクトと呼ばれてもいいのね)
(…お前はただの魔物みたいなものだろ)
(ひどい!?レイちゃん、オメガが酷い事を言ってるわ。今の私はレイちゃんと一心同体、貴方はレイちゃんまで魔物と言うの!)
(そ、そうは言ってないだろ…)
(いえ、確かに言ったわ!レイちゃんが化物言われた時に、ショックを受けていたのを知っているでしょ!貴方には人の心がないの!)
盛り上がってるな……いろいろ突っ込みどころが満載だけど聞き流しておこう……。
他の道具も現物を見せてもらっている間、ゼロとオメガの言い争い続いていたのだが、その流れを断ち切る出来事が起こった。
「おい、金を出せ!金目の物もだ!」
口を布で隠し右手にはナイフを持ち、こちらを威嚇するように突き出して声を荒げている。
「なんだいお前は!?こんなしがない道具屋に金目の物なんてないよ」
「うるせい!有り金全部出せ!…おい、お前もだ!」
いったい誰の事を言っているのかと周囲を見回していると、
「お前の事だ、ガキが!その手に持っている剣、なかなかの金になりそうだ。命が惜しかったらそれを寄こせ!」
「……貴方はこの道具屋を襲いに来たのでしょう?僕はただの客だからお構いなく」
そう言って僕は道具の方へ視線を戻した。
「な!?お前、今の状況が分かっているのか?」
まるで何事もなかったように普通にしている僕の行動を見て動揺している。
「お、お嬢ちゃん、危ないからあまり刺激をしない方が良いよ」
店主も驚きながらも僕に注意してくれている。
「大丈夫ですよ。そんな事より、薬草って根から掘り起こした方が良いのかな?」
「え?ああ、薬草は根から取っておけば、元気がなくなった時にもう一度植えれば復活するからね。長持ちするようになるんだよ。……て、そんな場合じゃないだろ」
「え!?だってあの人、命が欲しかったら金を出せって言ってましたよね?…つまり僕はお金を貰える立場にいるって事ですよ」
あんなナイフ1つで、今の僕をどうにか出来る訳がないしね。
「な、な、何を言っていやがる!」
「だから、命が惜しかったらお金を出すか、素直に逃げるかをしてくださいって言っているんです。今なら別に追いかけませんから安心してください。…まったくこんな昼間っから強盗なんて、この国の治安は本当に最悪だな」
「…もういい。ガキと遊んでいるほど俺も暇じゃないでな」
どうやら僕の優しさからくる忠告は通じなかったようだ。この強盗は顔を真っ赤にしてナイフを向けたまま僕の方へ向かってきた。
「お嬢ちゃんあぶない!?」
「おばちゃん、これ1つもらうね」
そう言って並べられていた道具から痺れ薬を持ち、強盗の顔に向けて投げつけた。
「ぶわ!?なんだこの粉は!?」
顔に粉が直撃した強盗は動きを止めて、拭きとるように顔を擦りはじめた。
「あれ?痺れていない?」
痺れ薬を使ったからすぐに痺れると予想していたが、強盗はまだ平然としていた。
「痺れ薬は吸いこんで始めて効果が出るんだよ。あの男は口を布で覆っているから効果がないんだよ。それより今の内に逃げな、結局怒らせただけで終わってしまったんだから!」
気管から入るタイプか…それじゃあ効果がないのは仕方がないか。
「なら風の魔法を使える相手や羽を持っているモンスターには使い難い道具だね。……水に溶かして掛けただけで効果が出るように改良出来ないかな?」
「あんたはまだそんな事を言って……」
この状況になっても道具の検証を続けている僕に、まるで呆れるような顔をしながら呟いている。
「……おい!まだ逃げないとか、頭がおかしいんじゃないか?」
ようやく目が見えるようになっても、今だ平然と店主と話をしている僕に呆れているようだ。
身の危険がないんだから、慌てる必要も逃げる必要もないよね?なんで頭の心配をされないといけないの?
「……まだ向かって来る気ですか?…は~、最後の忠告です。そこから一歩でも進んだら……殺します」
僕の睨みに強盗も一瞬怯んだようだったが……僕の忠告は無駄に終わった。
「ふ、ふざけるな!!!」
忠告の一歩を踏み出した瞬間、僕は一気に男の目の前に移動して腹を蹴り飛ばし、店の外まで男は吹き飛んでしまった。
「すみません、この剣を預かっていてくださいね」
まだオメガが剣を吸収出来ないので邪魔になると思い、店に鋼の剣を置かせてもらい追いかけるように僕も外へ出て行った。
その様子を店主はただ眺めている事しか出来なかった。